順和16年12月12日 3
「なんか、しふぉんって良くも悪くも自分の道行ってる気がするから...」
3期生のゆっかはそう言ってきた。褒め言葉だと受け取っていいのかはわからないが、私はありがとうと伝えた。
「それにしても、しふぉん何で知ったんだろう」
なっきぃはかなり不思議そうにぼやいていた。そかかが思い出したようにきく。
「しふぉんって初恋の人いるって言ってなかったっけ、その人のことを見てるとか?」
初恋の人に関しては小学3年生くらいの時に転校してしまいほぼ何も覚えていない。唯一覚えていることはメガネをかけていることだけだ。今会ってもわからないだろうと思っている。
「さっきメガネかけてない子って言ってたけど、昔かけてたとかある? それと転校したことがあるか」
なっきぃは、聞いてみる、と言ってLINEをその男子に送っていた。すぐに返事が返ってきたようだ。
「どっちもないって」
私は、なるほど、と伝えた。いずれにせよ不思議な話だ。私はどこか不気味な感覚になっていた。
「そろそろ練習の時間かな」
かわみんはつぶやく。時計を見てみるともうすぐ10時だ。私は、じゃあまたね、といって練習の場所へと向かっていった。
13時から物販の前半が始まる以上、それ以前に練習を済ませなければならない。私は、一生懸命練習を行った。
練習しているところが誰かに見られることは今のところはないが、レッスン配信も今後おこなわれるという話は聞いている。どこまで現実的な話かはわからないが、私は楽しみにしていた。
練習終了後、私たちは弁当を食べた。そして、その後ライブ前物販となった。
本になったヘリアンサスの希望も販売される。私は、約20部の本とタオル、そしてサイリウムを物販会場まで運んで行った。
もうすでに待機している人がいるようだが、いつもと比べて数は少なさそうだ。そんな中でも、地元から来てくれている人がいる。本当に驚きだ。
「リュウヘイさん、いつもありがとうございます。わざわざこんなところまで来てくれて本当に驚きです」
私は素直に告げる。嬉しいことは間違い無いが素直に驚きだ。ネガティブな意図では無い。
数人対応後、なっきぃが話していた「長谷川くん」らしき子がきた。紫色の服を着ていた真面目そうな目つきをしている少年だった。私より少しだけ背が低かった。
「え、まって、嘘でしょ」
私は彼が夢で見ていた人と全く同じで困惑してしまった。彼は私がなぜ困惑しているのかわからず、大丈夫ですか、と聞いてくれた。私は内心焦ってはいたができるだけ落ち着いて話した。
「ちょっと取り乱してしまってごめんなさい! ライブに来てくれてありがとうございます! 何か買っておきたいものありますか?」
彼は、タオル・本・サイリウム・CDを1つずつ買ってくれた。彼は本の表紙をじっと見つめていた。私は、ありがとうございました、と伝えた。
彼はそのまま本の表紙を見つめたままライブが行われる会場の方へと向かっていった。私は、その後数人を対応したのち、楽屋へと戻っていった。
この後2期生・3期生の物販が順番に行われ、その後ライブ開始となる。私たち1期生は、楽屋で集まっていた。
「長谷川くん、物販来てくれた?」
なっきぃはそう聞いてきた。私は、たぶんわかった、紫の服の子だよね?と伝えた。逆に言ってしまえばあの人じゃなければわからない。なっきぃは、伝え忘れてたけど、紫の服を着てくるように指示してある、と答えてくれた。
私はお茶を飲んで床にあおむけに寝そべった。そして、ライブ開始までの時間の間に仮眠をとっておくことにした。
「起きて!」
私は2期生のひぃたんに起こされた。私は眠い目をこすり、ライブが行われるホールまで向かっていった。広くはないが狭くもない場所だ。2期生のまりりんはMCとして話し始めた。




