自己紹介動画撮影
朝起きたのは7時半。いつもより少し遅いが、その分よく寝たような気がする。今日は動画撮影のため、部活は休む。自己紹介で何をいうかなんとなくはイメージしていたが、具体的には決めていなかった。私は朝ごはんを食べながら、適当に言いたいことを思い描いた。
髪を整え、軽くメイクをする。中学生だから濃すぎる化粧は不自然、と母親に言われていたのでその指示に従った。髪も短いので、そこまで時間はかからない。私は、15分くらいでメイクを終え、軽く筋トレをしてラーキングソウルを読み進めていった。
ちょうど買ってあった第6巻を読み終えると、時計が9時40分を指していた。マネージャーの高橋さんが家の前にやってきたようだ。私はモバイルバッテリーとコードだけリュックサックに詰めて車に乗り込んだ。
平日の午前だからか道が空いている。信号にもあまり引っかかることなく、今までで多分一番早かったであろう25分でA駅の前のビルまでついた。
そのビルの1階では居酒屋が営業されている。しかし、まだ午前中のためかシャッターが閉まっていた。私たちは、いつも通りの集合場所である2階へと向かっていった。
プロデューサーからのメッセージで、あだな、誕生日、部活、好きな食べ物、特技、将来の夢などを2分弱くらいの動画にして話してほしいと聞いているとマネージャーから聞いた。私は椅子に浅く座って、いつも通りの調子で自己紹介をした。
「こんにちは、しふぉんこと紫保です。中学1年生でB型、吹奏楽部です」
「誕生日は3月19日、魚座です。部活では楽器はトロンボーンを演奏していますが、あまり上達していません...」
ここまでは思い描いていた通りに話せた。しかし、何を話そうか考えていたのが抜け落ちて、頭の中が真っ白になってしまった。
ふと前を見ると、高橋さんがカメラに映らない位置に置いてあるホワイトボードに、何をいうべきか書いてくれていた。私はそれをみて続けた。
「私はラーメンとうどんが好きです。麺好きでは誰にも負けません!ですが、私は昔から寿司が嫌いです。わさび、生魚、酢飯の全てが無理です...」
「将来の夢は、なんとなくですが音楽を使う仕事に就きたい、と考えています。自分が書いた歌で、多くの人を感動させたいと思っています」
「最近、ラーキングソウルという漫画にはまっています。吹奏楽部男子の漫画です。面白いので是非読んでみてください」
最後は......特技か。私は、特技と言えるものが特になかった。しかし、何かやらないとまずいと考えた。
私は、昔ペン回しを練習していたことがあった。特技と言えるほどではなかったが、画面の前で20秒ほどペン回しを行なった。
回し終えてから10秒ほど間を開けて、「これからよろしくお願いします。ありがとうございました」とカメラの前で喋った。その数秒後、マネージャーはカメラを止める。高橋さんは喋り始めた。
「いい感じです!ありがとうございました。今日はもう終わりです。短かったですが、お疲れ様でした。」
私は、帰りの車の中で、動画は編集されてヘリアンサスガールズの公式Twitterで公開される旨を聞いた。マネージャーさんに、ありがとうございました、と伝え、車を降りる。家に入ると、クーラーが効いていて涼しかった。今日は土曜日だから、父親の仕事はあるものの、母親の仕事はなく、家にいたようだった。
シャワーを浴びて汗を流す。その後、YouTubeのお笑い芸人のコントをテレビに映して、それを見ながら昼ごはんのカップラーメンを食べた。
食べ終わると13時。いつもなら部活が終わって電車に乗っている時間だ。万咲ちゃんにラインで聞いてみたが、部活の連絡は特にないようだった。




