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ヘリアンサスの希望  作者: ソリング J
第3章 新型コロナウイルス発生後
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順和16年1月1日

 留数定理が出てくるページまでさかのぼると、以下のような内容が掲載されていた。


「留数定理:積分経路内部の$f$の孤立特異点における留数の和の2πi倍が積分値である.特に,積分経路内部において$f$が正則ならば,その経路に沿った積分は0になる」


 正直、この記述を読んだ時点では何を言っているのかさっぱり分からなかった。「留数」「孤立特異点」「積分経路」「正則」のどれも知らない言葉だったことをはっきり覚えている。ただ、私が数学に興味を持ったのは、この本を手に取ったのが1つのきっかけであるのは間違いないと、(この文章を書いている)今になっては思っている。


 私は、この本の内容がそのうち理解できるようになるであろうことを理解して本を買った。だいたい1200円だった。


 複素数は数2の予習をしていたときに色々調べていた内に複素数平面という概念を知った。複素数の実部・虚部をxy平面に対応させて考えるというものだ。これもまだ完全には理解できていないが、ドモアブルの定理が出てきた記憶はある。


 私は本を読みながら実家まで戻っていった。


 私自身本をそこまで読むようなタイプではない。部屋には小説がいくつか置いてあるが1回読んだきりでほとんど読んでいないのが現状だ。ストーリーもなんとなくしか覚えていないものが多い。


 私は先ほど買った複素数の本をノートをとりながら最初から読んでいくことにした。


「紫保って昔から本当に好きなことに関しては全力なタイプでね」


 私の様子を見た親は祖母にそう話した。実際、親も本に書いてあることを理解できていないようだった。


「複素数とかわけわかんなかった記憶しかない。じゃあなんで0で割れないの?とかずっと思ってた」


 親はそんなことを言い放った。確かに2乗して-1になる数を認めるのに0で割って1になる数は認めないのか。最近、ウェブ上でこんなことを読んだ記憶がある。


「いい定義とはいい結果が得られるような定義のことである。複素数は実際コンピュータグラフィックスの演算に用いられており、我々の住む世界になくてはならないものである。一方、0で割ることによって得られる数学上のご利益はそこまで多くなく、実世界に大きな影響はもたらしていないのが現状だ」


 0で割るというイレギュラーな世界にそこまで希望の光がないのだろう。人類が複素数に侵入したとき、我々は大小関係を失ってしまう。しかし、それを代償にして得られるものは限りなく価値のある物である。一方、0で割るためには「1と0が異なる」という大前提を生贄に捧げなければならないがそれによって得られる実りは少ない。これが0で割ることが今の数学においても体系化されていない最大の理由のようだ。


 私は、そんなことを思いながら数学の本を読み進めていった。


 本を進めているともう18時で夜ご飯の時間だ。今日はここに泊まり込むことになっている。外はもう暗い。


 夜ご飯は素麺とのことだ。祖母の家に来るといつも素麺を食べ過ぎてしまう。私は、気をつけなければ、と思うようになっていた。


 素麺の調味料は唐辛子とねぎだ。山葵は大の苦手なので私は入れない。私は、お皿に盛られた素麺をめんつゆに浸して食べた。


 私が麺類が好きになったきっかけはいくつかあると思うがそのうちの1つは恐らくこれだろうと思っている。私は素麺に七味を大量に振りかけて食べた。


 私はお腹いっぱいになるまで素麺を食べた後、家族でテレビを一緒に見た。気づくと9時になっていた。眠気が襲ってきたので、私は風呂に入って歯を磨き寝室まで向かっていった。


 寝室には外からの光が入らず真っ暗だ。朝になっても光の筋さえ入ってこないほどだった記憶がある。私は少しばかり早いが眠りについた。


 初夢とは今寝たときに見る夢のことだという。今思い返すとかなり変な夢だった。




 知らない女子3人(全員中学生〜高校生くらい?)がどこか暗くて知らない道を歩いている。暗いことは暗いが、森の中で真っ暗という雰囲気の「暗い」ではなく、深夜の誰もいない道が街灯で照らされているような場所だ。私はその女子の中の1人になっていた。


 夢の中の自分は現実世界の自分とは違う名前で呼ばれていた(何だったかは覚えていないが、変な名前ではなく、女子の名前として認識できるものだったと思う)し、外見も違っていたが、そのことに関して夢の中の自分は変だと思わなかった。前が見えないほど真っ暗という感じではなかった中、私たちは何処かを目指していた。漠然と「何処か」という感じであり、「具体的に何処」とは認識していなかった。


 歩いていると十字路にたどり着いた。上に高速道路が横切っている高架線の下という雰囲気の場所だ。私たちは、どの道に進むべきかわからなくなり、スマートフォンの地図を取り出した。


 手持ちのスマートフォンで時計を見るとなぜか16時だった。それなのにもかかわらず、夢の中では「16時ならこの暗さか」と納得してしまっていた記憶がある。


 その地図アプリはなぜか「いる座標(経度・緯度)はわかるが道が表示されない」という奇妙なマップだった。ただ、夢の中の私たちはそれを見て進む道を認識していた。交差点をまっすぐ進むのが正しいようだった。


 たまに車が通ったり、コンビニが開いていたりするが、深夜だからなのか人があまりいない。歩き続けていると、目の前が洞窟の入り口になっていた。もちろん知らない場所だ。夢の中の自分も流石に進むのには抵抗があったが、他の2人が進むということで私も中に進んでいった。


 洞窟は、電灯はない物の謎の光源で照らされていてまぁまぁ明るい。何故か外よりも明るかった。洞窟は基本的に直線だったが、その中に1か所Y字路があった。Y字路の右から、2人の(現実では)知らない女子が歩いてきた。しかし何故か、そのうちの一人の名字は「原」だということを、夢の中の自分はすでに知っていた。


 夢の中では何故か初めて会った気がしなかった。私たちは、5人で一緒にY字路の残りの道を歩いていった。


 少し足を進めると洞窟の出口にたどり着いた。当然のように知らない場所だが、ゆるやかで長くはない上り坂になっていて、目の前の道の一部は橋になっていた。


 橋の下は緑道であり人が歩けるようになっていた。私は、5人で一緒に坂を登った。


 気付いたら坂を登り切っていた。すると夜空が明るくなってきて、太陽が目の前の方角に昇っているのを認識できた。私たちは、「これが我々が目指してきた場所だ」と何故か理解していて、5人で太陽の方を向いてずっとまっすぐ立っていたところで目が覚めた。



 正直起きてから考えると色々と訳が分からない部分が多い。ただ、ネガティブな雰囲気はなぜか感じられなかった。

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