順和15年11月10日 3
窓の外を見てみると街灯りがついている。どこか懐かしい感覚だ。
「歌詞カード見てもいいので、とりあえず1回歌ってみてください」
私は合図に従って1曲フルで歌った。
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青い空の下 風が吹き抜け
鳥の鳴き声に 春を感じた
雪溶けて 街に桜が開く
始まりの季節に
遠い夢を心の中に 描いて
人は 必ず別れてしまうけれど そう
いつか どこか知らない街でまた出会えるから
さよなら また来る未来へと
さあ ドアを開いてすぐ
道 進み出そうよ
遠くから響く 春一番が
僕の顔に 強く当たった
坂道を ただひたすらに翔ける 僕たちの未来が
光る先に 希望を持って 走ろう
やがて 僕たちが夢を叶えたその日に
きっと 昔の街で再び会えることを
信じて 僕らは歩いてる
そう どんなに高い壁でも超えられるはず
いつも通りの道
何も思わず そっと歩いていても
雲流れ 風は通り過ぎてく 春明けの季節を
前を向いて ただ真っ直ぐに 飛び立て
今日は 別れを悲しむ日だとしても そう
きっと また会える日は やってくるだろうから
輝く 景色のために さあ
ドアを開 いた先にある 明日へ...
人は いつかは 別れてしまうけれど そう
きっと どこか知らない場所でまた出会えるから
ありがとう これからの未来へ
さあ ドアを開いてすぐ
春 進み出そうよ
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恐らくこの曲はなっきぃの別れソングとして書かれたものだろう。来年の3月、なっきぃは新天地に旅立つことになる。それまでにこの曲を仕上げてなっきぃを送り出せるようにしておきたい。
2年間の間、ともに青春時代を過ごしてきた相手として、私はなぜか感慨深くなってしまった。
私は全力で歌い終えた後元居た部屋へと戻った。なっきぃの未来に対する態度を思い浮かべると、泣かなくてもいいんだということが何となくわかる気がした。
私は、彼女の未来に対する姿勢に強い尊敬の念を抱くようになっていた。
他の4人も歌い終えたのちここに戻ってきた。次の曲は「青空が未来を見つめてる」だ。ある意味で非常にヘリアンサスガールズらしい曲な気もする。
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涼しい風が吹いて 長い夏が終わった
「何もしてないなぁ」と 振り返る
やりたいと思うこと いっぱいあるんだけど
手を付ける気が起きず 今になる
咲き誇る 桜も
いつの日か 枯れるけど
思い出にはずっと残る みたいに・・・
無邪気に追いかけて 怪我をして
どれだけ転んでも 受け止めてくれてる
未来は 不思議の連続でできている
よーいどんの合図 響いて
始まる世界
塗り忘れた絵具は 他の色を混ぜれば
似た色が作れるって 思ってた
自分にしかない色 出せるようになりたい
高い壁の日陰で 人知れず
枯れた花 いつかは
雨が降り また開く
素敵な色 他人にない綺麗さ
太陽が未来を照らしてる
どれだけ焦っても 追いつけない恋に
今すぐ 走り続けたいよ あの海へ
暗い雲が出ても 地平に微笑む 光
洞窟に入って
深淵をさまよって
気づけば奥深くにまで来ていた
暗闇の彼方にあるものは
癒えない悲しみか 消えない灯火か
運命 洞窟の出口にたどり着く
目の前に見えるは 絶望か希望 どっち?
青空を僕らは信じてる
雨が降った夜も 風が吹いた夏も
いつかは 澄み渡る視界に晴れ渡る
緑の大地まで もうすぐ届くよ きっと・・・
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恋愛に関することがほとんどかかれていない曲(2人称の「君」「貴方」さえ出て来ない。「どれだけ焦っても 追いつけない恋に」程度)のは久しぶりな感触だ。
「『サヨナラの先へ』にも2人称代名詞なくない?」
私の発言を受けてかわみんはそういった。私は、その歌詞をもう1度読み直した。
「あ、ほんとだ」
「それ言うなら『廓寥』にも出てきてないしね」
かわみんは付け足した。私は思わず納得してしまった。
「で、廓寥の廓はともかく、寥を使う言葉ってある?」
私は、思わずかわみんに聞いてしまった。かわみんは即答した。
「寂寥? 寂しいって字にその寥の字って言葉が、最近読んだ小説に出てきた気がする。見たことない字で調べちゃったけど」
私は、なるほど、と思った。残りの曲も無事に終わらせた。これからだんだん仕上げていくことになる。
HeliAnswersというイベントの、「企画の性質上歌詞を間違えることが絶対に許されない」というものを経験しているため、その時ほどの緊張感はない。ただ、歌詞を間違えないに越したことはないだろう。私は、ここから頑張って覚えていかなければという精神状態になっていた。
私は、お茶を一杯口にして気を落ち着かせた。そして、他のメンバーたちとの会話を楽しんだ。
「じゃあね」
私たちは、しばしの時間ののち解散となったのでそれぞれ家まで帰っていった。




