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ヘリアンサスの希望  作者: ソリング J
第3章 新型コロナウイルス発生後
181/261

順和15年11月10日 2


「…………ということです。では次に、曲のパート分けの発表をしたいと思います。まずは、今回新しく歌う3曲をどのように分けるかということについてですが…………」


 そういって彼は私たちの前に歌詞が書かれた紙を配った。


「えっと、なーなんと、みぃちゃん、ひぃたん、あとかわみんは、『主旋律を歌う』っていう役割があるから分かるとして、残りはどういう風に分担してるんですか?」


 まりりんは疑問に思ったことをすぐに口に出したようだ。私もそれに同感だった。


「これはですね、基本的には1番のAメロとサビ、2番のBメロと、2番のサビを1人ずつ担当してもらうということになっています。それ以外は全員そろえて歌うことになるかな? と思ってます。実際の録音では別に撮ったものを重ねる感じになるのかなぁと思っていますね」


 プロデューサーは、少し複雑そうな表情でそう言った。


「ってことは、残りの2人はどうなるんですか?」


 私は率直な感想を述べた。すると彼は、


「それはですね、この『廓寥(かくりょう)』って『孤独な人間の心情を歌ったもの』んですよね。だから、そこに書かれている言葉だけを単純に抜き出して歌えばいいってわけではないので、そういう意味もあって全員で歌いたいなって思ってて。ただそれだけじゃなくて、裏のメッセージとしては『孤独とは誰かが一人で抱えてるものじゃなく、みんなで分かち合えればいいな』ってのもあるわけですよ」


 と言った。私は「あぁーなるほど……」と思った。確かに、それならば一か所だけ1人だけが歌って、他のメンバーがそれをコーラスするというやり方よりも、一人ひとりがしっかりと声を出して歌った方が曲の世界観に合っているといえるだろう。


廓寥(かくりょう)って、それにしても難しい言葉ですよね。だだっ広い中での寂しさを意味する言葉ってことなんですけど、これ作曲した人はどこでこの言葉を見たのでしょうか……?」


 まりりんはまた思ったことを聞いたようだ。彼は、漢検1級の語彙表の難しい単語の数々の中からこれ使えそうだなと思ったものをピックアップしたといっていた。


蹌踉(よろ)めく重い足取り

切なく声を響かせ

見慣れぬ 砂は吹き荒れ

星空に澄み渡る静けさ」


「よろめく」は通常ひらがなで表記されるだろう。他にも、歌詞カードにフリガナがあるとはいえ難読の言葉も多い。「躊躇」や「憧憬」など、意味は分かるが使わない(読めるが書けない)言葉もある。


 難しい言葉が並んでいるだけで歌詞自体よくわからないという印象だ。プロデューサーは話をつづけた。


「今回の3曲、『廓寥』『サヨナラの先へ』『青空が僕らを見つめてる』についてなのですが、先日共有した歌詞と比べて若干変わっている部分もあるので注意してください。具体的には『青空が僕らを見つめてる』の1番のサビの『どれだけ転んでも受け"入れ"てくれてる未来は』が『どれだけ転んでも受け"止め"てくれてる未来は』になっていたりします。音節数やメロディー自体は変わっていないのでそこまで問題にはならないかと思いますが気を付けてください」


 彼は真面目に話した。私たちは、わかりました、と返事をした。


「それではまず『サヨナラの先へ』から練習していきたいと思います。ひとりずつ別室でフルで歌ってもらいます。ではかわみんさん、隣の部屋に移動してください」


 彼女はその合図とともに,はい,と返事をして隣の部屋に移動した。


 防音壁の影響で歌う声は聞こえてこない。それが自分にとってプラスかマイナスかは分からなかった。4分後、彼女はいつも通りの表情で部屋に戻ってきた。


 「次はしふぉんさん、お願いします」


 プロデューサーの指示に従い私は部屋を移動した。マイクが置かれている部屋で一人、私は歌い始めた。

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