順和15年9月7日 2
実際、プリントの裏に書いたことは詠み返すとは限らない(というか、恐らく読み返さない)。正直、書かなくても同じ気がしなくもない。
「平方数を3で割った余りが2になることはありません。aもbも3で割り切れないとするとその2乗の和を3で割ると2になりますが、cの2乗が3で割って2余ることが無いので矛盾しますね。よってどれか1つは3の倍数です」
先生は話す。その後先生は宿題プリントを配った。
「今回の宿題の問題は、5076-n!が素数になる正の整数nをすべて求めよ、という問題ですね。本当は中間試験に出そうと思っていたのですが、もっといい問題が思い浮かんだので宿題プリントに回しました。難しいとは思いますし、今の段階では解けなくてもいいですが、できるだけ考えてみてください」
「あとこれは完全に余談なのですが、正の整数と自然数は同じ意味だと思ってもらっていいんですが、大学以降に入ると自然数に0を含む宗派もあるんですよね。大学の入試問題だと、あいまいさを避けて『自然数』って言葉はあまり使われない気がします」
先生は話す。自然数に0を含むと聞いたことはあったが真面目に考えたことはなかった。今のところ0は含まないという人の方が多いようだった。
授業が終わったあと昼食を食べ、午後の授業を済ませて下校の時間になった。午後は収録がある。私は、いつもの駅前のビルまで向かっていった。
今回は新アルバム「次の世界へ」のMV撮影が行われる。とはいっても、場所はここから近くの川辺だ。学校からも近く、大きな移動が不要なぶん楽な方ではあるだろう。
今日撮影される部分はCメロの「道端ふと目を傾けてみた先に 春 始まりの花」の部分と最後の「黒く汚れてるその白い服……ドアの先にある明日に行け」の部分だ。尺自体はそんなに長くない。前者は夕日の下で、後者は陽が沈む前に撮影が行われる。朝は雨が降っていたがもうやんでいていい天気だ。私たちは、撮影会場まで向かっていった。
私たちはヘリアンサスガールズの衣装に着替えた。少しばかり重いが仕方ないだろう。私たちは撮影場所に向かった。
「まず最後のサビの部分の撮影を行います。5人(私、かわみん、なーなん、まりりん、ひぃたん)で1列になって川の下流の方に歩き始めてください」
私たちは、指示に従い川沿いに歩いていった。あと2時間ほどで日が暮れる。駅前のビルまで近いので、いったんそこに戻ることに決まったようだった。私はいつものビルの中で、数学の宿題に手を付けた。
「あれ、しふぉんって中3だよね、もうそれやってるんだ」
私の課題を見たかわみんがコメントした。なーなんは中高一貫校ではないため、今のところ三角比(2次関数の次にやる範囲)をやってるようだった。
「私文系だから、全然分かんない」
かわみんは問題を解き進めていく私を見てそう言った。実際、文理はある程度は生まれた瞬間から決まっているものなのだろうか?
「私は理系だから、歴史とか国語とか何もわからないんだよね。古典も毎回30点台だし」
ヘリアンサスガールズの1期生で明確な理系は私だけだ。なっきぃは「たぶん理系」と言っているが、今後どうなるかにもよるだろう。かわみんは文系だ。なーなんも文系に行く可能性の方が高いといっている。そかかに関しては今のところ不明だが理系だといっていた記憶はない。
2期生だと、れんれんが理系に行く可能性が高いといっているが「生まれつきの理系なの?」と聞いてみると「そこまでではない」という返答が返ってくる。まりりんも理系だと思うといっているが確信は持っていないらしい。ひぃたんとみぃちゃんは文系に行くつもりだといっている。
私はそんなことを考えながら宿題を終わらせた。
記憶が確かなら、中1の頃は数学は好きだったが点数は余り取れていなかった記憶がある。
今考えてみると、公式を無理に暗記しようとしていたからなのかもしれない。自分自身暗記は強い方ではない。それをわかっていながら「教科書に下線が引かれている公式を覚えなければいけない」という無意識下の思い込みがあった可能性が高い。
「私は逆で、中学生の頃は数学割とできたんだよね。高校に入ってから苦手になったけど」
なんとなく途中から数学ができなくなったという人は多い印象はある。かわみんもその一人のようだった。
「そういう人って多いよね」
私は返す。かわみんは笑っていた。気づいたら陽が沈む時間になっていた。私たちは、再び先ほどの河原に向かっていった。
「それでは撮影を行います。それぞれのペースで、川の下流の方に向かってダッシュしてください!」
カメラマンのその指示に従い、私たちは夕日の方に向かって走っていった。ヘリアンサスガールズの衣装は明らかに激しい運動に向いていないが、なんとか走り切ることができた。
「お疲れ様です!」
カメラマンの合図で私たちは走るのをやめる。そして再びビルまで戻っていった。
「私、スカートがあまり好きじゃないんだよね、動きにくいし」
私はみんなに話す。
「個人的にはおしゃれでいいと思うけどなぁ」
まりりんは言っている。彼女は私服でもスカートをはいているようだった。私は私服でスカートをはくことはまずない。シンプルに動きにくいと考えている。それに寒いし違和感が多い。個人的にはそう考えている。
なかなか理解されないが仕方ないだろう。私たちは、階段を昇ってビルの中に入っていったのち、それぞれが元来ていた服に着替えた。
制服のスカートもあまり好きではない。おしゃれなのは間違いないが自分には似合わないように感じている。
自分自身、どこか中性的なイメージを追い求めているということはあるのかもしれない。トランスジェンダーではなく、体と心に違和感があるとかいうわけでもない。スカートを履いていないのはジェンダー的な問題ではなく私個人のファッション感の問題だろうと考えている。
私は制服に着替えた後解散となり、高橋さんに家まで送ってもらった。私は、高橋さんと近況報告をしながら家まで帰っていった。
「ただいまー」
ドアを開けて家の中に入る。弟はもういるようだった。弟の女子力の高さはいまだ健在だ。私は、シャワーを浴びて、夜ご飯ができるまでの間自分の部屋でゆっくり休むことにした。
私は、ベッドに入って積分のことについて調べていった。正直、今の知識ではあまり理解できなかったが、面積を求めることができるということだけわかった。
私は、これからのことについて漠然と考えていた。




