順和14年9月7日 1
9月に入ってから急に涼しくなったと感じる。つい先日まで暑いといっていたのがまるで嘘かのようだった。決して夏に戻りたいと思っているわけではない。むしろ日本の平均気温が十数度下がってくれればなといつも思っている。
東京の平均気温は年間で16.5度程度のようだ。2019年の外れ値(夏の気温が異常値をたたき出した年)を除けば夏の気温は28度程度であり、冬の気温は6度程度だとされている。平均気温が10度下がれば夏も18度程度と快適になり、冬もかなり寒くなるとはいえ非常識な寒さとは言えないだろう。
実際、韓国においては冬の気温が氷点下は普通であり-10度を切ることもあるとされている。個人的には寒い気温の方が好きだ。
そんなことを言っていても仕方ない。私は、学校へと向かっていった。
「しふぉん、おはよう!」
真鈴ちゃんは話しかけてくれた。私は、おはよう、と返した。
「最近涼しくなったよね、急に」
真鈴ちゃんも涼しくなったと感じているようだった。私たちは、一緒に教室まで向かっていった。
教室にはもう多くの人が来ていた。私は自分の席に座った。ホームルームを済ませて授業に入る。
1時間目は数学。中高一貫校ということもありもう高校範囲に入っている。今のところ2次関数の範囲を勉強しているところだ。個人的に予習していたこともありそこまで難しいわけではない。
「2次方程式の解の配置なのですが、グラフを描いて考えれば一目瞭然ですね。軸が区間の真ん中にあって、頂点がy軸の下にあって、さらに区間の端で値が0以上。これだけで終わりです。2次関数なんて放物線なんですから図を描けば一目瞭然なのですが、図を描かない人がどんなに多いことか・・・」
先生は毎回定期試験で奇妙な問題を出している。前回の期末試験では曲線$y=x^3$の長さが1.5よりも大きいことを示させる問題が出た。先生は、一筋縄ではいかないような問題が好きらしく、定期テストには毎回うならせるような問題が入っている。
中2の頃は「√(7+4√3)+√(7-4√3)が整数であることを示せ(二重根号はまだ出てきていない)」だとか、「599は素数かどうか?(答え:素数である)」などの問題が出た。先生曰く、「用語問題を出したくない」「全員が解けるべき問題から、興味のある人が頑張れば取れる問題まで色々出す方針」「数学用語ではなく、数学を理解してほしい」という方針らしい。
ある公式について説明するときには、その気持ちや解釈まで含めて説明するつもりのようだ。三平方の定理を習ったときは、試験の最後に誘導ありで球体の体積を導出する問題が出た覚えがある。
「球の体積・表面積については導出できなくてもいいけど覚えてねって言いましたけど、あれは個人的にはカリキュラムが悪いと思うんですよね」
先生は愚痴を漏らしていた。
「ただ、体積が3乗で表面積が2乗ということには感覚的に理解してほしいですね」
先生はそれだけ話していた。1辺の長さの3乗に比例するのは直観的にも明らかだ。「3で割る理由は円錐の体積を3で割ることと一緒」といつだったか言っていた気がする。細かくは理系に進んだ人が習うとは言っていた。積分というものを使うらしい。私は、家に帰った後に積分について調べてみることにした。
私は、プリントに書かれている解の配置問題を解いた。そして、解説を聞いた。
「(1)、これ実は因数分解できるんですよね。先ほど『判別式が……』とか『境界が……』みたいな話しましたけど、因数分解で解けるときは因数分解で解いた方がはやいですし本質的なんですよ。先ほど教わった方法で解いてももちろん同じ結果が出ますけど、それよりもまずは因数分解できないか?と考えてみることも重要なんですね」
私は、やられた、という気分になった。他の問題に関しては問題なくできていた。解説の終了と同時に1時間目が終わる。私は、机に伏せて眠りについた。
「起きて!」
誰かが肩をたたく。後ろを振り向いてみると寺山くんが立っていた。時計を見ると11時35分だ。
「ん……? 2時間以上寝てた?」
「相変わらず寝すぎでしょ。次は理系科目だから起こしたよ」
私が理系ということは私と仲がいい人ほぼ全員が知っていることだ。世界史の先生には「疲れているのかもしれない」と思われているようで起こされない。実際それもあるかもしれないが、理系の授業ではいつも起きていることをよくネタにされることがある。私は、彼にありがとうと伝えた。
2時間目の歴史の授業及び3時間目の古典の授業を私は完全に睡眠に費やしてしまった。次は数学のもう片方の授業(数学Aの方)だった。
望月先生(数学Iの方)と宮崎先生(数学Aの方)は仲がよくて連携をとっているらしく、授業内容や進め方・テストの出し方などの方針を統一しているようだった。平均点6割で赤点が出ないよう、簡単な計算問題から難しい応用問題までさまざまな問題を入れるという方針らしい。賛否両論はあるが、個人的には、毎回最後の方はチャレンジングな問題が多くて面白いと感じている。
奇妙と言えども、宮崎先生の問題はそこまで見たことないような問題はない。「4枚のコインを振って表が出たコインを取り除くとき、3回目で初めてすべてのコインが取り除かれる確率は?」とか、「赤と青の球が4つずつ入った箱から中身を見ずに取り出して違う色だったら作業を続行するとき、箱の中身が空っぽになる確率は?」など、まだ手が出しやすいといえる出題だ。
今は整数の内容を扱っている。余りを考えるmodの内容だ。
「えーっと、a^2+b^2=c^2を満たす整数a, b, cに対して、a, b, cのどれか1つは3の倍数であることを示しなさい」
先生は口頭で問題を読み上げたのち黒板に問題を書いた。プリントにも同じ問題が書かれている。
「modで考える問題ばっかりなのでこれもmodなんじゃないのか?と考えてしまった人もいるかもしれませんがその通りです。どれも3で割り切れないとすると、……」
先生は話し始める。私は先生の話をプリントの裏に書き留めていった。




