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ヘリアンサスの希望  作者: ソリング J
第3章 新型コロナウイルス発生後
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順和14年7月1日 1

 7月1日。今日は水曜日だ。特にレッスンということもなく、普通に学校に行くことができる日だ。


 3月ごろから行われていた安藤政権による休校要請も終わってから1か月がたち、普通に登校できるという状態にはなっている。それでもマスクが必須だ。私はマスクが好きではないのでなかなか苦痛である。私は学校の最寄り駅までバスと列車を利用して向かっていった。


 空模様は微妙だ。今この瞬間は雨は降っていないのだが、梅雨ということもあり、いつ降ってもおかしくない。私は、傘を持って学校まで歩いていった。駅から学校は近いので、無理なく登校することができそうだ。


「あ、しふぉん、おはよ」


 肩をたたかれたので振り返ると、そこには大翔くんが立っていた。私も、おはよ、と返事をして一緒に学校まで道のりを進めた。


「昨日のYouTubeのライブ、見てたよ」


 彼は話す。私は、ありがとう、とだけ伝えた。


「言ってたことだけどさ、しふぉんちゃんってさ、本当に好きな人いないの? アイドルだから恋愛してない、みたいな見栄とか嘘じゃないよね?」


 彼は小声で聞いてくる。私は本当のことを話した。


「本当に好きな人はいないよ、少なくとも今のところはね」


 昨日ラジオで話したことは、少なくともウソをついたつもりはない。自分の中で本当だと思っていることを話している。恋愛にあまり興味がないからこそ、アイドルとしても素の自分を出せているのかもしれない、とも思っている。


 私はその後もたわいのない話をしながら教室まで向かっていった。大翔君はD組だが私はB組だ。私は、じゃあね、といって自分の教室へと入っていった。


 私は2列目の3行目にある自分の席まで向かっていった。まだ4人ほどしか来ていない。席の下にかばんを置き、左のまっちゃんと話をした。


 私がヘリアンサスガールズに加入したということは多くの同学年の人が知っているが、知らない人も少数ながら存在している。どうやら、まっちゃんはその一人のようだった(1か月ほど話しているが、1度も言及されたことがない)。もしかしたら知っているけど言っていないだけかもしれないが……。


 実際、アイドル活動でもキャラは変わっていないため、知っていても知らなくても私のイメージは変わらないだろうと思っている。それでも、自分から言うことでもないと思うので、私は聞かれるまでは言わない方針でいた。


 まっちゃんは中2で初めて同じになった。私より一回り身長の低い(161cm)男子だ。本名の松本大樹まつもとだいきに由来するが、男女かかわらず「まっちゃん」呼びされている。私も周りに合わせてそう呼んでいた。


 彼とは読んでいる漫画とか昨日の夜見たテレビの話などをして時間をつぶした。チャイムが鳴り響き、担任が教室に入る。数学の宮下先生だ。30代を自称している男の先生だ。


 彼はホームルームで連絡をした後、授業用のプリントを取りに職員室まで向かっていった。私は、前回の宿題を復習した。


――――――――――

(1)x^2+(3/2)x+(1/2)を因数分解せよ.

(2)2x^2+3x+1を因数分解せよ.

(以下はできる人向け:テストには出さない)

(3)x^3+6x^2+11x+6を因数分解せよ.

――――――――――



 (1)および(2)は問題なく解くことができる。問題は(3)だ。2次式の因数分解は授業で扱ったのだが、3次式になるとまだやっていない。


 先生は、「(3)はできる人はいるはず」程度の発言にとどめていた。応用問題ということもあり、考えたい人をあまり妨げない程度で解説を行う予定のようだ。


 じっと問題を考えていると、先生が教室に入ってきた。普段プリントを使っている先生ということもあり、授業ノート提出は無い科目だ。


 もうすぐ(といっても、2週間後の月曜からの5日間、つまり7月11日~7月15日だが)テスト期間ということで、先生が成績の付け方について再説明(1回目の授業で説明していた)した。


 先生曰く、表向きは「授業ノートを提出させると『ノートをきれいにとっている自慢』や『整ったノートを作るがテストで点数が取れない人』が出るから授業ノート点はなしにしている」とのことだった。


 ノートを取ることよりも、教科を理解することに重点を置いてほしいというのが彼の思いのようだ。


「テストの成績を基本として成績を付けるつもりです。先ほど言ったことは偉そうに聞こえるかもしれませんが、実際のところは、僕は他人のノートを評価するだけの立場に立てるほど綺麗にノートを取ることができないことが一番の理由なんですよね」


 先生は言う。私たちは思わず笑ってしまった。


 成績はテストの点数を重視するといっていた。授業妨害はさすがに減点するが、1人で内職しているなどは減点しないと宣言していた。テストの出来および宿題の提出状況・小テストの成績に応じて点数を付けるとのことだった。


「宿題に関しても、自分で理解してくれれば、きれいに書かれているか?ということについて一切問うつもりはないです。僕自身中学生の頃の宿題ノートは汚かったので、その体裁について採点することはしません。

 点の付け方についても、『授業でやったやり方でないと減点』とかはしないので心配はしないでください」


 私は先生の解説を聞いた後、宿題の問題の因数分解について解説した。


「x^2+(3/2)x+(1/2) =(x+a)(x+b) (a ≦ b)と因数分解できるとすると、右辺を展開して3/2 = a + b, 1/2 = abってことがわかりますね。これからa=1/2, b=1となります。


 このように答えを発見したあと、『展開して元の式に戻るからOK』としておけば答案としても全く問題ありません。こうやって因数分解するんですね」


 先生は話す。


「(2)も同様に、2x^2+3x+1=2(x+a)(x+b)とすれば解けます。(x+a)(x+b)の前に2がついているのは、x^2の係数、すなわちx^2にかかっている数を左辺と右辺で合わせるためです。


 aとbは(1)と全く同じ条件を満たすので、a=1/2}, b=1となります。あとは2(x+a)(x+b)にそれを代入したものが答えになります。」


 彼の説明を、私はプリントの端に書き込んだ。私自身、ノートやプリントはどうせ見返さないと思っている。だから、自分が読める程度の殴り書きで書き込んだ。


 先生の指示に従って問題を解いているとあっという間に授業が終わった。私は教科書を机の中にしまい、つぎの授業に本試の教科書を取り出した。

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