表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘリアンサスの希望  作者: ソリング J
第3章 新型コロナウイルス発生後
132/261

順和14年6月30日 4


「うーん、わかんないけど」


 かわみんはマスクの上に手のひらをあてて、笑うような動作をしながら話す。


「どうだろ、確かにここにずっと住んでるわけじゃないのかな? とかは思うかもしれないけど、それも言われての話かな。そこまで訛っても訛ってなくもないと思うよ」


 かわみんは雰囲気を変えて真面目に話す。実際、自分の喋り方なんて分からないことも多い。かわみんもそこまで訛っているわけではないし、正直なところ自分で正確に把握はできていないのが現状だ。


「コウセイ @aFnJgWtJr7sfJ3rX2u


かわみんの方が標準語から遠い感はあるかな

どっちも大して変わらない気はするけど


#ヘリアンサスってどんな花 」


 Twitterに書き込まれた内容をかわみんは読み上げる。「正直なところよくわからない」というのが2人の認識のようだ。


 かわみんはどうやら、いわゆる「転勤族」だったようだ。しかし、兄が中学校に入るタイミング(4年前)で転勤も落ち着き、しばらくはずっとここで過ごす予定はあるようだった。かわみんは両親とも中部地方生まれのようだが、親の会話も方言があるイメージはないと言っていた。


 実際身につく言葉は2-3歳のころに家族や保育園の仲間から聞いていたものがベースとなっていくんだと思う。その後もある程度周りの影響は受けていくだろうが、そこまで変わることはないはずだ。自分の場合もかわみんの場合も、その時聴いていた言葉が標準語(あるいは、それに近い言語)だっただけという話だろう。


「なるほどね。確かに方言とか意識してなかったかも。そう言われると面白いね」


 かわみんはうなずいた。


「で、恋愛の話だっけ?」


 かわみんは話を元に戻そうとするが、そこまで話す内容もない。私は恋愛経験がほとんどないし、それはかわみんも同じだからだ。


 恋愛を主題にしたアニメや漫画・映画や小説にふれるということもあまりない。記憶が確かなら、数年前に見たアニメが最後だった気がする。私が良く見ているラーキングソウルやラストラベンダーは、決して恋愛を主題に置いた作品ではないのだ。


 そんな話をしている間に、私はふと思い出した。いつだったか見た、なっきぃがどこかに行ってしまう夢だ。本人は「本当になるわけないんだから、別に話してもいいよ」と言っている。私はそのことについて話すことに決めた。


「かわみんにこの話したっけ」

「いや、聞いてないと思う」


 かわみんにこの話をしたかどうかは私は記憶していなかったが、どうやら彼女は覚えてはいないようだ。


「おっけ、じゃあ話すね」


 私はそう言って、覚えている夢の内容を話し始めた。


 去年の秋~今年の1月にかけて、私はなっきぃがどこかに行ってしまう夢を見ていた。どこかについては私は把握しているが、ラジオのリスナーに身バレするリスクを考慮してそこは伏せておく。夢の内容は、そこでなっきぃたちが高校生活を営んでいるといった内容だ。


 どうやら彼女は高校でも軽音部をつづけていたようで、4人の男女混合バンドで活動しているようだった。バンドの3人は知らない人だった(残念ながら、夢の中で名前は出てきていない)。外見に明確な特徴はなかったが、メガネをかけている人はいなかった。


 男子が2人、女子がなっきぃのぞいて1人の4人組。男子は背が高いほうA(なっきぃ+5cm)と低いほうB(なっきぃ-5cm)がいて、見た感じであるがなっきぃはAと付き合っているように見えた。


 女子Cは165cmくらいだろうか。特に特徴があるわけではなかった。BとCももしかしたら付き合っているかもしれないが、見ただけでは分からなかった。


 もちろん彼女にはその話をしたが、その男子A(外見を説明した)には心当たりはないと言っていた。なっきぃ自体身長が25㎝ほど高くなっていた(175cm程度?)し、そもそも高校なので、私が予知夢を見ているとしても、彼女(現時点で私と同じく中2)に心当たりがないのは当然ともいえる。


 もしこの夢が正夢であるとすれば、遠くない未来になっきぃがどこかに行ってしまう(=転勤する)ことになってしまう。それがいつになるかはわからないが、想像すると少しばかり不安になってしまった。


 今いるメンバーを失いたくない。そう思ったが、よく考えると、何も彼女が引退することが決まっているわけじゃない。そもそも夢は夢であり、正夢になるともかぎらないだろう。願うことは、彼女がグループを引退してしまうことが実話にならないことだった(仮に引退が決まってしまったなら、高校で謎の男子と恋愛していた部分は正夢になって欲しい、と思っている。なっきぃは向こうでも楽しそうにしていた)。


 私はそんなことを話しながら、ラジオ配信が行われている席のすぐ横にある窓から、空を飛んでいる鳥を見上げた。昔の自分であれば、空を飛んでいる鳥は自由だと思っていたと思う。


 しかし、想像することしかできないが、鳥は鳥で大変だろう。生きていくために飛ばねばならず、そこに自由など存在するのかはわからない。我々が勝手に鳥=自由というレッテルを張ってしまうのは良くない、と私はいつからか思うようになっていた。


 画面に戻り、コメント欄を見ると、「その男子、誰だろう?」「予知夢?」「正夢にならないでほしい」などと書き込まれていた。私自身に予知能力とかそういった類のものはないし、仮に未来を予知することができているとしてもコントロールはできていない。この夢も、内容が印象的だったから繰り返し見た(そして、さらに印象に残るというループ)というだけだろう。


 気づいたら配信終了の時間を過ぎていた。かわみんと私は、「ありがとうございました!」といってラジオを終了させた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ