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久しぶりの部活 2

毎年9月の第二土曜日・日曜日に、私の学校は富南祭ふなんさいと呼ばれる学園祭を行っている。中高一貫校なので、催し物も多く、来てくれるお客さんも多い。確か去年はのべ7000人だった、と聞いた。


私のクラスでは迷路とクイズを組み合わせたような企画を行う。しかし企画名はまだ決まっておらず、クラスの富南祭係に任せっきりで、私は何もできていないことに申し訳なく思っている。


そんなことを考えていると、もうみんながチューニングを終えた。もともと楽器経験はあったがずっと初心者レベルだった私にとって、吹奏楽部に入ったばかりのころは、周りの同学年の子は、「本当に同じ人間ですか?」と思わず聞きたくなってしまうような存在だった。しかし、5か月弱たつと、完全にではないにしろ、その子たちとの演奏技術の距離が狭まってきたように感じた。


文化祭に演奏する曲は、校歌と去年の流行曲メドレー、Sing sing singと空は晴れている、あと市の大会に出る先輩方はその課題曲。今日はパートではSing sing singを集中的に練習する、という日になっていた。


Sing Sing singのトロンボーンパートA(トロンボーン全員が同じ演奏をするわけではなく、A,B,Cグループの3つに分かれている)は、サビに入る前には長い休符がある。今までの練習ではそこで集中力が飛んでしまい、どうしてもサビの入りが遅れてしまっていた。


「Aを演奏するのは、紫保ちゃんと私だけなの。つまり、紫保ちゃんの入りが遅くなってしまえば、トロンボーンAの音の重みが半分に減っちゃうから、まじめに気を付けてほしい」

「わかりました」


先輩にこんなことを言われてしまい、責任の重さを感じ取った。その後も練習を続け、気づけばもう11時24分。もう合奏の時間だ。私は楽譜、楽器と譜面台を持って音楽室へと向かった。


冒頭に行われる15分の音合わせの後、sing sing singの合奏が行われる。まずは木管だけで行われ、次に金管、パーカスがそれぞれ単独で合奏した。最後に全楽器で通し練を行った。


sing sing singのサビ前の長休符。私は先輩の注意をかみしめて、意識がどこかいかないように細心の注意を払った。


トロンボーンBとCはこの間にも演奏している。私は指揮者と楽譜に意識を向け、間違わないようにサビへと入っていった。少し力んでしまったが、それでも今までの演奏よりは上達している気がした。


「それでは今日はここで合奏を終わりにします。」

『ありがとうございました!』

終わった後は、楽器の掃除・片付けをしにパート練の教室へと戻る。向かっているとき、万咲ちゃんは私の顔を見てこういった。

「しふぉんちゃん、なんか顔色悪くない?大丈夫?」

別に特に体調がすぐれないとかはない。最近、7月ほどではないけど暑いから、体に症状が出てない熱中症の初期みたいな感じ?と思ったが、それもないか。

私は「大丈夫だよ」としかいうことができなかった。強がりではなく本当に。


「一緒に夏は気を付けようね」万咲ちゃんは、笑ってエールを送れた。私も「熱中症に気を付けよう!」と少し語気を強くして返した。


会話をしていると片付けも終わる。先輩に「事情があり休む日が増えるかもしれません」と伝えた。私は万咲ちゃんとたわいもないことを喋りながら解散の会が行われる音楽室まで向かった。


解散の会はすぐ終わった。いつも通りクラスが同じ万咲ちゃん、田所真鈴たどころますずちゃん、向坂大翔むかいざかだいしょうくん、後大島亮太おおしまりょうた1人の5人で帰路に就く。私たち5人は仲が良いのでよく遊ぶが、今日は何も予定はなかった。


この4人は吹奏楽部の仲間。まだアイドルの話はしていない。私はいつ伝えようか、そもそも伝えるかどうか迷っている。しばらくすれば自然に情報も流れて来るだろうから、それを待とうかなと思う。一瞬「なんで話してこなかったの?」みたいな流れになることを想像しちゃったけど、その時はその時で適当に対処すればいいか。




いろいろ考え事をしているとき、真鈴ちゃんが提案をした。「夏休みのどこかで1日カラオケでも行かない?」


「僕は部活ない日ならいつでも大丈夫だよ」大翔くんはすぐ返事をする。万咲ちゃんと亮太くんも彼に同意した。


彼ら彼女らに比べると、私は日程的に自由が少ない。すぐ「この日なら大丈夫」と出てくる日はない。「ちょっと日程確認させてね」と伝え、私は4人に覗かれないような角度でスマートフォンを開き、スケジュールを確認した。後で手帳に移しとこう。


「えっとね、部活ない日とスケジュールない日だと、8月なら12日、15日、19日、22日、26日、31日の6日しかないや」

少ない、と思ったがまあこんなもんか、とも思った。


「スケジュールって何だよ、モデルでも始めたのか?」亮太くんは私を良くからかってくる。

「確かに高身長だからモデル向いてるかもな」、と大翔くんが追撃を決めた。


私は、モデルではないけど割と方向性が似た活動だよ、と言いたかったが、言うことはできなかった。彼らの言葉に対し、私は笑ってごまかすことしかできなかった。


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