家族
本来、私はこういうのを書いて覚えるタイプではないのはわかっている。しかし、1ヶ月以内にダンスも含めて発表となると、不安が抑えきれなかった。
今は17時半。親がもうすぐ帰ってくる。私は自分の部屋にこもって、イヤフォンで音楽を聴きこんだ。
初めて聞いた時同様、希望の花言葉が一番覚えにくそうで難しそうだった。しかし、それはみんなも同じだから、あまり心配しなくていいかなと思った。
曲を聴きながら、まずはナツアオソラを熱唱する。これはあまり音域も広くなく歌いやすい。30分ほど歌ったが、もうマスターできそうなほどだった。
道端花はテンポがゆっくりの歌だ。しかし、そこまで複雑なメロディーラインにはなっておらず、これも30分ほどで大体のメロディーを覚えることができた。
部屋で歌っていると、両親が帰ってきた。時計の針は7時前を指している。
「ただいまー」
「紫保、何歌ってるの?」
私は、『最初に出されるシングルの歌だよ』と返事をした。その瞬間、母親がもともと歌手になりたかったが、なれなかったという話をしていたのを思い出した。
父親が昨日の夜ごはんの残り物を調理している間、そのことについて母親と話した。
母親も、学生時代に7つほどオーディションを受けて全て落ちたと言っていた。最終ステージの1歩手前まで進んだことはあったが、残念な結果に終わってしまった、と。幾度もの失敗を経て、プロ歌手という狭き門を目指すのを諦め、今では定期的に地元ののど自慢大会に出るくらいだと言っていた。
私がアイドルになりたい、と言った時、最初は「無理でしょ」と鼻で笑われた。母親は、アイドルは歌に含めてダンス・ファンサービス等と色々ハードなため、覚悟は決めなきゃいけないと言っていた。
しかし、歌手になりたかった自分の跡を見ているようで、どこか応援したいという気持ちが湧いてきた、と語る。「無理だろう」と心の中では思われていたかもしれないが、私は母親が私の夢を容認・応援してくれたことに非常に感謝している。
そんな会話をしていると、父親が料理の解凍・準備を終え、皿に盛り付け机の上に並べた。ピーマンの肉炒めと、白米と納豆と味噌汁だ。テレビを適当につけ、家族とゆっくり食べた。食べ終わったのは19時半。食べ終わった後は食器を流しに持っていき、ソファーに腰かけた。ローカル局のクイズ番組を見ながら、家族でちょっとした会話をした。
「お前もこれみたいな番組に出る日が来るのか?」父親が笑いながら問いかける。正直興味はあるけどクイズにあまり自信がない私は適当に返事をした。
すると、「出ることになったら見るから時間帯教えてね」と言われた。しかし、私はまあたぶんないと思うけど、としかいうことができなかった。
明日は部活がある。私はここ1週間ほどアイドル活動を理由に休んできていた。先輩方に何を言われるかな、と不安になりながら、私はLine・Twitterを確認した。
Lineは特にメッセージは届いていなかったが、Twitterのヘリアンサスガールズの公式アカウントでは私たち5人のTwitterアカウントを掲載しているのを確認できた。まだ1回しか舞台上に立ったことはないが、もう40人ほどフォロワーが増えていた。私はTwitterで「おやすみ」と投稿した。
時計は21時。私は久しぶりの部活に思いをはせながら目を閉じた。




