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ヘリアンサスの希望  作者: ソリング J
初披露以降
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順和13年10月19日 2

 次の授業は……数学α、幾何か。実をいうと、私は幾何があまり好きではない。中学受験のころも、補助線を入れる場所がわからずに苦戦した記憶がある。プリントによると、今日の授業では球の体積・表面積について学習するようだ。


 プリントおよび教科書を用意していると、望月先生が入ってきた。自称42歳の男性の先生であるが、実際はより若く見える。見た目のイメージで言うと、32歳であることが判明している化学の千葉先生と同い年といわれてもわからないくらいだ。


 チョークの音が柔らかく眠気を誘うが、数学に対する興味のおかげで私は何とか抗った。


 「早速ですが、半径がrの円の体積は(4πr^3)/3となります。語呂合わせとしては、『身(3)の上(分母・分子の位置関係)に心配(4π)ある(r)三女(3乗)』と覚えましょう。なんでこうなるのか、というのは、厳密に説明するのは今の段階では無理なので、とりあえず公式だけでも覚えておいてください」


 私は、理由がないものを暗記するのが苦手だ。歴史でいい点数を取れないのもそれが原因だと思っている。数学の場合は1つや2つだけだからまだいいのだが、複数ともなるとどうもやる気が落ちる。

 

 「といっても、それだと興味ある人にとってはあんまりだと思うので、簡単に説明しようと思います。テストには出さないので、興味がない人は他の科目の宿題とかをやっていてもらって構いません」


 私は、他の科目の課題は、内職(授業中に先生の目を盗んで他の授業の宿題をすること)ができる科目ですればいい、と考え、一生懸命その理由を聞くことにした。


 プリントは裏面には何も書かれていないためメモとして使うことができる。私はそこに先生の板書を書きながら話を聞いていった。


 「まず、認めてほしいことがあります。断面積が同じ立体の体積は等しくなる、という、いわゆる『カヴァリエリの原理』と、錐体、円錐体や三角錐、の体積が底面積×高さ÷3で与えられること、あとは直角三角形の斜辺の長さの2乗は、残りの辺の長さの2乗の和に等しいことです」


 最後のはいわゆる三平方の定理だ。まだ学校では習ってはいないものの、中学受験のときに事実として教えられた覚えがある。


 「カヴァリエリの定理は、簡単に言えば、いわゆる『トランプタワー』、とはいっても、アメリカにある建物ではなく、トランプを積み上げたものを想像するといいと思います。トランプを普通に重ねても、斜めに重ねても、体積は変わりませんね」


 私は、それはそうだね、と納得した。望月先生は話を続けた。


 「説明を簡単にするために、半径1の円を底面にもち高さが1の円柱と、半径1の半球と、半径1の円を底面にもち高さが1の円錐について考えたいと思います。円柱から円錐をくり抜いた立体の断面積を考えてみてください。hを0以上1以下としたとき、底面から高さhのところでは断面は、円の内側から半径hの円をくり抜いた図形になるので、断面積はπ(1-h^2)となります」


 私は、ついていけなくなりつつあったのだが、先生は、間を置くことなく、のべつ幕無しに解説をつづけた。


 「一方、半径1の半球の、底面から高さがhの所の断面は円になっています。この円の半径rは、『直角三角形の斜辺の長さの2乗は、残りの辺の長さの2乗の和に等しい』定理を用いると、1+r^2=h^2より、r^2=1-h^2になります。したがって、断面円の面積はπr^2=π(1-h^2)となります」


 「円柱から円錐をくり抜いた立体の断面積と、半球の断面積が等しいことにより、半球の体積もまた、この立体と等しくなります。この立体の体積はもう習った知識で求めることができ、π×1×1-π×1×1/3=2π/3だとわかります。全球の体積は半球の2倍なので、半径1の球の体積が4π/3となります。」


 「直観的にわかると思いますが、体積は半径の3乗に比例するので、半径rの球の体積の場合は(4πr^3)/3となります。」


 私は、さっぱりついていけなくなっていた。ちゃんと先生のメモはとっていたから、家に帰ったらじっくり考えてみよう。そう思っていると、チャイムが鳴った。


 周りを見た感じ、真面目に聞いてるのは私と松本くんくらいだ。他の人は半分くらいが寝ていて残りの半分は内職をしている。


 「長々と話しましたが、とりあえず公式は覚えておいてください。今日はここで終わりです。号令!」


 篠田くんは「気を付け!礼!」と叫ぶ。私たちは、ありがとうございました、と挨拶をした。


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