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奴隷使いはデレさせたい!  作者: 時田直
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一話 三人の女奴隷

やぁみんな、俺だよ……。

今回は、いきなりヤバい感じなんだ。


俺としては大それたことをしてしまって、心臓がバクバクしまくっている。

もうはち切れてしまってもおかしくない。


俺は現在、メイドさんに案内されて通された薄暗い一室で、三人の美女と対面している。

彼女たちの誰もが、デザインは異なれど、首輪をはめていた。

そう、彼女たちは奴隷なのだ。


そして俺は、今から彼女たちを調教し、屈服させなくてはいけない。

それが奴隷使いとしての仕事だから。


「トーマス様。それでは紹介に移らせていただきます」


ああ、やめておけばよかった。

こんな所にくるんじゃなかった。

大金につられるとは、我ながらあさましい。


「トーマス様? 聞いておりますか?」


「あ、ああ。もちろん」


やべー危ない。ボロを出すには早すぎる。

仕事はまだ始まってもいないのだから。


仕事のできそうなメイド服の女性は訝しげに俺を見たが、それは一瞬のことであり、すぐに業務を再開する。


「それでは紹介に移ります。さぁ、貴方からですよ」


メイドが桃色の髪の少女を促す。

彼女はとても女性らしい体つきをしていて、つまりは豊満で、気の強そうな目が特徴的であるが……。

それらを上回るほどに視線を集める部位がある。

角だ。彼女の頭からは、綺麗で小ぶりな角が一本、当たり前のように自然に生えているのだ。


「ユーディット・ハイセルター。あんたが私のマスター? ふーん、私の王子様になる資格はなさそうね」


角の少女は自己紹介をしつつも、それは渋々といった様子であり、俺のことなど興味なさそうだった。


「彼女は『ワールドエンド』と言われたドラゴンです。見た目に騙されませんように」


コソッとメイドが耳打ちをしてくる。

は? ドラゴン? ワールドエンド? 理解がおいつかないよ。

俺はユーディットと名乗ったドラゴンの少女を再度観察する。


清楚さを感じさせる白を基調としたワンピースに、何やらフリフリがいくつかついている。

日本に居たときにみた、アイドルの衣装のようでもあった。


それを着こなすドラゴンの少女。

……ドラゴン? え? どの辺がドラゴンなのだろうか?



「では次」


そんな俺を無視して、メイドは進めていく。


「次は妾かのぅ!」


パタパタと、ユーディットの隣にいた少女の耳が動く。

そう、彼女もまた人間ではない。


綺麗な金髪を後ろでまとめ、理知的な面持ちの少女であるが、彼女には耳と、そして尻尾があった。その形状から判断するに、彼女は――。


「妾は春風! 妖狐じゃ! 魔法を極めし妾は今、拳闘術を磨いておる。じきに魔法と拳が合わさってさいきょーになる故、楽しみにしておれよ、主殿!」


狐。妖狐か。しかし言っていることが意味不明だ。

奴隷なのに壮大な夢をお持ちのようである。


向日葵のように元気な笑顔を浮かべ、ビシっと拳を天に突きだしている。

しかし、袖から覗く腕はか細いものだった。あれで拳闘などできるだろうか?


「彼女は『傾国の妖狐』。おそらく、あのふざけた振る舞いも計算づくでしょう。一層の注意を」


またメイドが耳打ちをしてくる。

うん、『傾国の妖狐』か。この世界の常識に疎い俺でもなんか聞いたことあるなー。アハハ!


「次」


メイドが指示を出すが、最後の少女は俯いたままで、口を開く様子はない。


最後の少女。見た目は他の二人に比べて小柄で、まだ幼いようだ。十四、十五くらいだろうか?

長い白髪が左右でまとめられていて、その下の顔は綺麗に整っている。

髪同様に肌の色素も薄く、そのせいか唇の朱がより一層、艶やかに感じられた。

幼いのに独特の色気を持つ少女である。

そして嬉しいことに、彼女には人外の証がいまのところ見受けられない。


これはもしかして、もしかすると、彼女だけは普通の少女なのではなかろうか?


「一言でいいので、話なさい」


メイドが険しい声で再度促すと、白髪の少女はようやく顔を上げて、俺を見る。

すると何かに驚いたように息をのみ、俺を穴が開きそうなほどに強い視線で見つめてきた。

な、なんだ。俺の顔に何かついているのかね?


「……アマリアです。よろしくお願いします、先輩」


自己紹介はそれで終わりらしい。俺は困惑してメイドを見る。

すると彼女は補足の説明をしてくれた。



「彼女は『始祖殺し』。吸血鬼にして、自らの王である始祖を殺めた存在です。今は人間の血を吸っていないようで力は抑えられていますが、彼女本来の戦闘力は他の二人に劣ることはないでしょう。重々、気をつけますよう」


へぇ『始祖殺し』。最近よく吟遊詩人が歌ってたあの? 今一番熱い有名人じゃん?

物騒だなぁ。うん、知ってた。アハハ! この部屋には物騒な奴隷しかいないって知ってたよ?


でもさ………………。


想像できないでしょ!? ここまで物騒だとはさ!?


『ワールドエンド』!? 『傾国の妖狐』!? 『始祖殺し』!?


どれか一つでも、制御から外れたらこの町が一瞬で滅ぶよ!?


それを三体も、同じ部屋になんで集めるの!? 馬鹿なの!? 自殺志願なの!?

ねぇ、おかしいよね!? 俺間違ったこといってる!?


と、わめきながらメイドの肩を揺さぶりたい衝動をすんでのところで押さえつける。

大丈夫だ、まだ小便は漏れていない。少しだけしか。


口角が自然と吊り上がるのを感じた。

そうだ。もうここまで怖いと、人間は笑うしかないのだ。


ふと、メイドの視線に気が付く。

彼女は俺を驚愕のまなざしで見ていた。

理解できないモノを見るときの眼差しだ。しかしその瞳の中には、尊敬、畏怖のような色も見てとれた。



「なるほど。旦那様が、貴方に依頼された理由がわかりました。確かに、貴方様。高名なる奴隷使い、トーマス・ウォーク様ならこの依頼を達成できるのかもしれません」


「かもじゃありませんよ。必ずや、達成します」


もうどうにでもなーれ! 俺は歪んだ笑顔のままに、メイドさんに宣言する。

自覚できている。間違いなく、今の俺の精神はおかしなことになっていた。

でも一ついいだろうか。


俺はそのトーマスさんじゃないのだよ。

俺は、ただの御者だ。奴隷使いですらない。


さぁて、お次はこのような状況に至った回想の時間である。

少しだけ、この辛い現実から逃避させてほしい。





youtubeに音声版が少し先行して上がっております。よろしければそちらもどうぞ。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLliG0jSC2PCVF9IYgW-omHQb1RbEYtwAx


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