涙の飴を君へ(ボイスドラマ台本)
朝起きるとまず
「ん…んーーっ!」
空に向かって思い切り伸びをする。
今日も天気が良い。
真っ青な空の中に、ぽんぽんと白い雲がところどころに配置されていて、ゆっくりと形を変えていく。休みと決めた日には、その雲たちをぼーっと眺めるのもなかなか好きだった。
「おはよ」
そんな声がした気がして振り向くと、サラが微笑んでいた。
「おはよう。今日も気持ちの良い天気だね」
朝ごはんの木の実を片手に、二人で歩きだす。
「よし!今日も頑張ろう!」
僕たちの仕事は、夢を回収すること。
でも、全部の夢を回収して回るのではなく
「…あ、この子、仲間外れにされている夢を見てる」
「こっちの人の夢にはおばけが出てきてるな」
つらかったり、悲しかったり、怖かったり。
そんな嫌な夢を回収して歩き、その夢で雫の形をした飴をつくる。
そうして
「あの人、すごく無理してる」
その飴を必要としている人に配って回るのが、僕たちの仕事だ。
「お姉さん、大丈夫ですか?はい、良かったらこの飴を食べてみてください」
その飴は、張り詰めている気持ちをほどくための飴。
涙を堪えて頑張っている人や、泣けなくて困っている人に食べてもらうと、涙が溢れてわんわん泣ける。
「…良かった、お姉さん、泣けたみたい」
「これできっとぐっすり眠れるね」
お姉さんが声を枯らすほど泣いて、泣き疲れて眠ってしまったのを見届けてから、僕たちは家路についた。
「サラ、今日もお疲れ様!晩御飯はサラの大好きなオムライスにしたんだ」
そう笑いかけると、サラも微笑んで嬉しそう。
「いただきます!もぐもぐもぐ……」
「でね、リクったら他の人の分の木の実も食べちゃってみんなの分がなくなっちゃったの!」
「あはははっ!そのときレンが村長さんのことお母さんって呼び間違えてさ、慌ててごまかそうとしたんだけどごまかせてないんだよ!」
なんてことのない話。
ご飯を食べながらサラと話す時間が、大好きだ。
サラは昔から僕の話を笑って聞いてくれる。
僕がこの仕事を始めると決めた時も、今みたいに笑ってくれたんだ。
「そろそろ寝ようかな」
サラと一緒にベッドに移動して、隣同士で寝転がる。
「…サラ」
しばらくして呼びかけるが、返事はない。
「…サラ。ねぇ、サラ」
呼びかけながら、ポケットに手を伸ばした。
「…サラ、サラ、サラ。大好きだよ、サラ」
ポケットから取り出した、雫の形をした飴を一つ、口に入れた。
「…っ、くっ……」
「やっぱり、ダメみたい」
毎日こうして飴を舐めているが、どうにも涙が出ない。
「ごめんね、いつまでもこんなことしてて」
苦笑しながらサラを見ると、やっぱり優しく微笑んでくれていた。
「ね、僕はいつまでこんなこと続けるんだろう」
「泣けるまでずっと、かな?」
「どうして僕は泣けないの?」
「サラ、大好き、大好きだよ」
「きっと明日は、もっと酷い夢を集められる。そうしたらきっともっと強い飴がつくれるはず」
ベッドから起き上がると、電話に向かった。
「…僕だ。いいか?2丁目のメルを連れ去れ。それから、昨日のあいつの家には最高の贈り物を」
「もっと、もっと強い飴を作り出すんだ」
独りになったあの日から僕は
「…サラ」
ずっと、涙を流していない
だから
「もっと、もっと恐怖を、悲しみを抱える人を増やさなくちゃ」
だって
「サラ、サラ」
泣けないなんて、まるでサラへの愛が足りないみたいじゃないか。
そんなことありえない
「ありえないありえないありえないありえない」
「…サラ、愛してるよ」
ベッドに横たわったままの写真に口づけを落とすと、彼女はまだ、微笑み続けていた。