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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
六. 精霊の道
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85. 浄滅極光陣

 神聖王国内には密かに『邪神』を祀り奉じるような地域が点在した。

 王国が形になるより昔の信仰を、秘された山奥などを聖地とし伝えていると言う。


 その一つが、アルテアが聖女より予言を受けた地であった。



 使命を帯びた年若い旅人がその集落に辿り着いた時、生きる者の姿はなかった。

 立ち並ぶ住居の間を縫う道や扉の開けっ放しの屋内は赤く染められており、それは事が起こってからそれ程時間の経っていない乾き具合やニオイだった。

 血のニオイを嗅ぎ付ける野犬や魔物の姿もない・・・と言うか、そう言った存在の気配が勇者の眼にも直感にも引っ掛からない。


 そんな異状の中、そこかしこに血で描かれた何らかの印のようなものがあった。

 アルテアは、それを神官戦士として習った知識としてこの地方特有の『邪神』を讃える物だと知っていた。

 古くより邪神信仰と魔族の関係は教会所属の学者の間で知られていた。

 魔王の復活が近くなると魔族の出現が始まるが、中でも邪神信仰の残る地では早い段階で確認されるようになるのだ。


 なぜそのような信仰が未だに残っているのか、儀式の度に盛大な流血を伴う野蛮な宗教を信じる人の心もそれを放置する教会も、少年ゆえの潔癖さのあるアルテアには理解しがたいものだ。

 ただ今分かっている事は、存在さえも知らなかったとはいえこの血生臭い儀式の悲劇を止めるのに間に合わず、そしてそれが今から魔族を呼び出すと言う事だ。


 魔族自体の気配はまだ存在しない。

 だが瘴気や渦巻く怨嗟、怨念を伴う強大な魔力がどこかに集まろうとしているのは分かった。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 下からは慢性的に掛かる雲や生い茂る木々に遮られ分からないが、その山頂は平坦な台地型の地形になっていた。

 不自然なまでに平らで、まるで人工的に均したようであったそこは非常に広く、平野や平原と呼んでいい程度の面積はあった。

 中央にある祭壇はどれだけ昔から存在するのか分からない程古ぼけているが、明らかに手入れや掃除は欠かされていない。


 祭壇の前に一人、若い女性がいた。

 少女と言っていい歳かも知れない。


 染料の貴重な辺境にあって、あまりにも鮮やかな真紅で染め上げられたローブ。

 それは、血だった。

 新鮮な大量の人間の血を使い、衣はその色を発していたのだ。


 湾曲した短刀の刀身には何らかの紋様がびっしりと掘られており、祝詞とも呪文とも呪詛ともつかない詩のような何かを呟いた女性は、特に何て事のないような動作で自らの心臓にそれを突き立てた。




 勇者の眼による遠隔視はそこで途切れた。

 強まり過ぎた瘴気と魔力が結界となったのだろう。


 ―――憎悪。

 それが、十重二十重どころではなくあの場に渦巻いていた感情だった。

 目に痛みを感じるほどのそれは、嘗てアルテアの相対した飛竜にも勝るものだ。


≪神聖王国に滅びを、愚民に平等な絶望を、支配者に供物の衣を≫


 その憎悪に明らかな対象と指向性がある点が違うが、いずれにしろ神聖王国を滅ぼすために邪悪な何かが呼び出されるのであれば絶対にここで食い止めねばならない。

 山中を駆けながら、アルテアは初撃の準備を始めていた。



「≪聖鐘≫!」



 最初に使用した≪聖鐘≫により、周辺の詳細な地形や様子が分かった。

 瘴気の渦巻く中心付近は全く見えなかったが、幸いにして台地の平らな部分全体を覆うような規模ではないようだ。

 それよりも何らかの力ある存在が≪聖鐘≫に反応を示したようだ。

 気付かれた、後戻りはできない。


 もとよりそのつもりはないが。


 腕のいいホビットに≪収納≫を掛けてもらった背負い袋(ザック)から、数本ごとに束にしたミスリルの杭が取り出された。

 一本一本は以前イプロディカ討伐時に使った物より若干小ぶりで、その全てが魔法道具として改造されていた。

 目視するなどして場所を強く念じながら魔力を込めると、その場所に飛んで刺さるという機能だ。

 そして広い範囲を一度に観る≪聖鐘≫と組み合わせる事で、実際に見ずとも広い範囲に正確に飛ばす事が出来る。


 強い魔力を一瞬で込められた杭の束は、結線を弾き飛ばして凄まじい初速で空に向け打ち出された。

 幾条もの軌跡を描き、全てが狙い通りの場所に飛んでいく。


 続けて同じく魔法道具であるブーツの能力も発動させると側面から純白の翼が展開され、アルテアが踏み出す一歩が空中を蹴った。

 飛行や空中制御を魔法で行うと同時発動に引っかかり他の魔法を空中で使いにくくなるため、そこは魔法道具化したブーツに任せる事にしたのだ。


 上空に辿り着くころには、いくつかの魔法の遅延発動セットも終わっていた。

 祭壇のあった場所は、まるでダンジョン核の様な瘴気の塊がドーム状に覆いつくしていた。

 そしてその周りはさっき撃ち出したミスリル杭が意図通りにぐるりと囲っていた。


 アルテアが懐から取り出した巻物には、細密な魔法陣が描かれていた。

 その陣は宮廷魔術師に描いてもらった魔法を強化する物だが、巻物自体は開くと巻き癖に影響されず綺麗に展開される仕掛けがある以外、材質自体は何の変哲もない普通の紙とインクだ。


 そのタイミングで≪聖剣召喚≫で呼んだ彼の聖剣が右手に収まった。


 そして勇者の眼で巻物の魔法陣を見ながら、一つの魔法が使われた。



「≪投影≫」



 それはアルテアが作った、見た物の映像をただ空中に魔力で描くと言うそれだけのシンプルな魔法。

 ただし勇者の眼で確認しながらならばどんなに精緻なものの再現も可能で、さらに常軌を逸した彼の魔力ならば肉眼でも輝いて見えるほどの魔法陣を空中に作り出す事が出来る。

 瘴気渦巻く異状の中心に向け、五色の魔力で描かれた全魔法系統強化の魔法陣。

 そこに人の手で作り出す事の叶わない究極の魔導兵器である光の聖剣を向け、遅延セットされたいくつもの大攻撃魔法が発動を始めた。


 陣の中心から力の奔流の先触れが漏れ出した。


 それは基本的には火や雷、空間など何系統もの攻撃魔法の中でも最大火力のものに≪大浄化≫を加えて、遅延発動によりすべて同じタイミングで発動させると言う、それだけのものだ。

 以前ほぼ同じ事を王都を襲おうとした飛竜にやって仕留めきれず反撃されたが、それでも瞬間火力を極めるにはベストに近いアイデアであることに変わりはない。

 その時よりも遥かに増した魔力制御の技術、そして確実に先手を取れる状況でなければ完全には出来ない入念な準備。


 ほぼ同じタイミングで瘴気の塊から何かが鎌首をもたげた。

 巨人だ。

 よく見ると、大勢の人の体を組合わせて癒着させて作ったような、グロテスクな表皮をしていた。

 いくつも見えている顔の部分は呼吸をし、呻き声を上げているようだ。

 しかしそれらが本物の人の体かどうかは分からない。

 一つ確かな事は、この巨人の発する気配はイプロディカのそれによく似ていた。


 間違いなく魔族だ。


 巨人の魔族は、悍ましい何かを撒き散らしながら空中に留まるアルテアに手を伸ばしそうとした。

 ・・・だが、もう遅い。

 


「これが必滅の魔法技≪浄滅極光陣≫だ!」



 白。

 眩いと感じるより以前に、その光は純白で視界を覆い尽くした。

 普通の人間が肉眼で直視すれば失明は避けられぬだろうし、それが闇に属する者なら見ただけで全身が発火した事だろう。

 ミスリル杭で囲まれた範囲内でエネルギーは増幅されつつ反響し続け、大光球は暫く遠くからでも分かる輝きを放ち続けた。


 漸く光が収まりだしたが、アルテアは油断しない。

 必滅のつもりでも結果が伴うとは限らない事は、その身に痛いほど深く刻まれているのだ。


 完全に浄化の光が消えた後には半径1kmほどの地面が赤熱して融け、それに加えて深く陥没もしていた。

 周囲のミスリル杭も鉄と鉛の塊に変質してしまったようだ。


 そして中心には、なおも蠢くモノが。



 どうにか形を保つものの今にも崩れ去りそうな巨人の魔族は、腕の一本に残った力を全て集中させるとその腕だけ逞しい筋肉の鎧が瞬時に再生した。

 同時に発生した瘴気の波が、空中のアルテアを煽った。


 高速で迫る巨拳。

 だが、丸見えだ。

 動きも殺気も、凄まじい力があるだけの素人のそれだ。

 

 しかしまたしても、勇者の眼が反応しなかった。


 とは言えさしたる問題はない。



 聖剣に手加減なしの光の魔力を込め、避けた腕を切り刻みながら本体に接近、そして一刀両断。

 僅かに遅れて、巨体は白い炎を噴き上げた。


 背後に切り抜けたアルテアを振り返った巨人は、全ての情念を虚空に持って行かれそうになりながらもなお怨嗟の浮かぶ相貌を保っていた。

 しかし何かに気付いたように、両の口角をグイッと上げて嗤った。



 ――ソ・ウ・カ・オ・マ・エ・ハ・・・!――



 その言葉はアルテアの耳には届かなかった。

 それより前に全身が白焔に包まれ、完全に消滅したからだ。



 結果だけ見るなら、戦いとも呼べない一方的な蹂躙になった。


 しかし魔族が弱い訳でも、アルテアがそれだけ強い訳でもない。

 この世に形を成した直後だからこそ、これほどあっさりと撃破出来たのだ。

 仮に既に身構えた状態であれば、相当な反撃はあっただろう。

 現にパワーだけなら、アルテアが殺されかけた飛竜にして三頭分以上は感じられた。

 更に時間をおいて強化されたなら、苦戦どころか戦闘は大規模化し多くの兵士や国民の犠牲は避けられなかっただろう。


 だから、偶々ではあるが封殺できる時に完封させてもらった。



 ・・・それにしても、再び勇者の眼が一瞬効かなかったのは何故なのか。

 使えない場合があると予め心構えがあったから刹那の混乱もなかったが。

 少し前にあったスライムに取り憑かれた受付嬢との戦いの時との共通点と言えば・・・瘴気をぶつけられた直後、だろうか。


 いや、今はいい。

 それよりも聖剣を王都に先に返し、自分も帰還して報告しないといけない。


 そう思ってアルテアは聖剣を天に掲げ≪聖剣送還≫を発動させようとした。



 しかし、光と共に飛び去るはずの聖剣がうんともすんとも言わない。



「・・・どういう事だ?」



 疑問には思ったが、取り敢えずは自身の帰還を優先して戦い終えた少年勇者は踵を返した。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 あぁー、勿体ないですね。

 せめて私と協力出来ていたなら準備万端、あの勇者を待ち構えた所ですが。

 と言っても私も魔族召喚儀式の準備には気付かなかったのですが。

 何せここにあったのは余りにもマイナーな古い信仰ですからね。


 ――しかしご安心ください。

 貴方方の長年に渡る憎悪が呼び出した結晶は、間違いなく()()です。

 皆様に代わり、私がその悲願を達成して差し上げましょう。




 影のように揺らめく人影の手に、黒い輝きを秘めた石が収められた。

勇者の眼の機能はアレですね。

異世界転移時に持ち込んだスマホが超パワー得たのに近いですね。

ネットは見られませんが。


追記:「同じ系統の魔法は同時使用も複数遅延セットも出来ない」という設定を忘れて全部光で固めてしまった致命的ミスがあったので修正しました。

また以前投稿したお話でも全く同じミスが見つかりました。

文字書いてる人も漫画描く人も、自分で設定忘れるってあるよねチクショウ!

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