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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
六. 精霊の道
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81. 辺境の朝

 アルテアが解放されるまではそれ程の時間は掛からなかった。


 あれからすぐにスライム化した受付嬢の家に調べが入り、そのタイミングで家に侵入しようとしていた不審な男が拘束された。

 そして家の地下からは魔物素材が大量に、とは言わないまでもそれなりに纏まった数が発見された。

 つまり受付嬢は持ち込まれた素材の一部を日常的に横領してどこかに横流ししており、捕まった男がその取引相手だったという訳だ。


 経緯はこうだ。

 アルテアが持ち込んだスライムの魔石の中でも価値がありそうなものを受付嬢がくすねて家に持ち帰り、≪鑑定≫のためのマナポーションを誤ってこぼしてしまった結果、偶々その中に残っていたスライム使いの怨念が呼び覚まされてああいう事になった。

 これは常に結界や対魔の香で魔物素材の活性が抑えられ、もしもの時にはアラートが鳴るギルドの保管庫ではまず起こらない事故である。


 聖剣の勇者などと言う身分を開示しなかったのもあり、それでもアルテア――この時はいつかと同じように偽名としてアルトと名乗っていたが――を疑う声はあったが、既に責任者の所在は死者と犯罪者にあったと判明しているのと、アルテアの戦闘力を目の当たりにしてそもそも本気で暴れられたら捕まえようもないという判断が重なっての結果だ。

 ・・・厄介払いとも言う。



 色々あって翌日の昼頃、アルテアが出立しようという頃。

 完全武装とまではいかないが腰に剣を下げた四人の男がその前に立ち塞がった。

 ――隠しようもない敵意を漲らせて。


 ギルドにいた冒険者達だ、とアルテアは思い出した。



「何のつもりですか?」


「・・・あいつはなァ・・・アイラは。そこまでイイ女かって言うとそうでもなかったよ。金に汚くて、がめつくて、ケチで、愛想の欠片もありゃしねェ。やってた事も褒められたもんじゃねェし、貢いだだけいい思い出来るかって―とそうでもねェしな。だがよう・・・俺達にとっちゃそれでも、可愛いヤツだったんだぜ」



 一斉に剣が抜き放たれ、怒号と共に冒険者の男たちはアルテアに躍りかかってきた。


 しかしベテランとしては凡庸ながらも組めばオウガぐらい狩れる、その程度の力量でアルテアの相手になるはずがなかった。

 まして、アルテアはこのところ格下の執念と言うものを学ぶ機会が多い。

 油断など欠片も無かった。

 荷物をその場に降ろし、剣も抜かなず魔法も使わないアルテアが素手で彼らを沈黙させるまで30秒程度の出来事だった。


 それでも、思ったより食い下がられたのは彼等にとってそういう戦いだったという事だろう。



「・・・分かっていたはずでしょう。気は済みましたか」


「うるせェな・・・ケジメってやつだよ、クソッ・・・」



 鼻血を流して大の字に倒れた彼が言うのは誰に対してのケジメなのか、敢えて問う事をアルテアはしなかった。

 衛兵が飛んできたのはそれからすぐの事だった。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 プライムオークの里人たちは、フロスギンに案内された一行を篤く歓迎した。

 初見こそ異常に巨大で威圧感溢れる猪に警戒したものの、亜精霊を見た事のある里長がその存在を見て取ったところで槍は下ろされ、更に里一番の戦士であるフロスギンに匹敵する妖精所縁の戦士達にピクシーまで付いてきたのだから当然の流れとしてそうなった。


 プライムオークは≪闘争者≫なる役割があるだけあり、歓迎の軽めの宴の中でも腕試しに挑みたがる男達だらけだったが、本番の事を考えそれはフロスギンと里長が止めた。

 女達は男達ほどには血の気は多くないようだ。

 闇に堕ち鬼種のゴブリンやオーク、オウガとなったら雄しか生まれなくなるようだが、人族に比べ角がありやや逞しく肌の色が違う野生的な美しさのある女性が妖精であるプライムオーク族には存在した。


 フロスギンがガメオ達に頼んだのは、もう一頭の魔物の討伐に協力して貰う事だ。

 共闘して倒した沼の魔物よりもさらに強力も育ってしまい、監視に留めるしかなかったのを倒して浄化する前に、補給と休息などの為に一度この里に寄ったのだ。




 翌朝、ガメオは日も登り切らない時間に起きた。

 魔境として瘴気が満ちる以外は雄大な大自然そのものと言った荒野は、基本的に乾燥していても朝には朝靄が掛かるようだ。


 フェアリーの戦士たちに習った通りの剣の型を一通り。

 それから内観魔力を発動させた状態で、もう一通り。

 それが、身体能力が異常に上がる例の術を何とか使いこなそうと最近のガメオがなるべく日課にしている訓練だった。



「・・・やっぱり≪身体強化≫か。誰に習ったのか、あるいは何かの拍子に自得したのかは知らねえが」


「!?」



 声のした方向をガメオが振り向くと、そこにはゼタニスが腕組みして柱に寄りかかっていた。

 集中していたとはいえ魔物の気配を誰よりも見逃さないガメオに全く気取らせない辺り、やはり相当な達人なのだろう。

 それよりも聞いたことのなかった言葉にガメオは反応した。



「・・・≪身体強化≫?」


「知らずに使っていたのかよ?自己流で変な使い方してると体壊すぞ・・・いや、それでもあんだけ使えてたってのが驚異的って言うべきか」



 そこでゼタニスは、≪身体強化≫と言う魔力操作技術についてレクチャーを始めた。

 それは、魔王や魔族に対抗するために開発されたものの未だ戦闘用の技術体系として完成しておらず、誰でも使える物になっていない事。

 決まった運動をする力仕事には相当使える為、一部職人系の職種であれば一生食いっぱぐれない程度の特殊技能にはなっている事。



「そんなこんなで技術の一部とは言え直接の戦闘用に使う奴は例外、と言うか変わり者の類だが・・・それ以外にも有用な使い道はある」


「それは?」


「俺の場合だが、≪身体強化≫を使いながら限界までゆっくりと剣の型をなぞる事で、動作から歪み淀みを取り除くのに毎日使っている。少しでも引っ掛かりがあるとそれが何倍にも増幅されて、メチャクチャ分かりやすくなるんだよな。これは≪身体強化≫を()()()()()使()()()()()()()()に直接習った方法だから、間違いなくガメオにも有効なはずだぜ」



 唯一の例外、と聞いてガメオの脳裏に例のメチャクチャな男が思い浮かんだ。

 そこにもう一人、話に割り込んできた人物がいた。



「ふむ、興味深い話をしているな。吾輩も混ぜてはくれぬか」


「ヴィリアンボゥか。まさかあんたも≪身体強化≫を使っているのか?」



 そこに居たのは、鎧を脱いだヴィリアンボゥだった。

 思ったよりも髪のボリュームが多いのを一房の三つ編みに纏めて垂らしており、シャツは肉体労働者並みに肩を露出したものを着ていた。

 それにしても種族不明な容貌だが、何種かの妖精の血が発現した影響なのか何とも言えない美しさを湛えていた・・・体系は完全にちんちくりんの類だが。



「いや、吾輩には全く適性が無いようで取っ掛かりさえも掴めなかった。血や体質がそうなのかも知れんが」


「えッ・・・じゃあ、完全に自前のその細腕の腕力だけであのハンマー振り回したり鎖であの魔物を止めてたりしてたのか!?」


「それはそれでとんでもねえな・・・」


「それで吾輩自身のパワーで体幹が崩れる事がどうしても多くてな」



 ゆっくりと型をなぞる動作は元々≪身体強化≫とは関係なく存在した武術の稽古法なので普通に有用だろう、とゼタニスが応えるとヴィリアンボゥは早速ハンマーを持って来て試し始めた。


 暫く三人でああでもないこうでもないと稽古をしていると、いつの間にか朝日がまぶしい位置まで上がっていた。

 主に指導役になっていたゼタニスは、汗を拭きながら最後に言った。



「剣に『これさえ出来ればいい』は存在しねえ。仮にあるとしても永遠に等しい工夫の先にあるもんだ。変わるのを止めたら、その剣は死ぬ。これから剣と共に生きるなら変化を止めるな」



 と偉そうに言っちゃいるが俺も気付いたのは割と最近だがな、と付け加えたところにもう一人やってきた。

 フロスギンが全員を呼びに来たのだ。

 そして、持って来た知らせは若干意外なものだった。



「悪いが、討伐は一日伸ばしてくれ。もう一つの瘴気の沼への道がほぼ丸一日砂嵐に覆われそうだからな」

止まるんじゃねえぞと書きそうになったのを我慢した

追記:なんかタイトルが朝稽古だと相撲感がヤバイ事に気が付いたので章タイトル変えました


なお初めて≪鑑定≫の魔法が名前だけ出てきましたが、この世界はステータスオープンで能力値とか見られる例の仕様ではないので「知恵あるものにとってどんなものかが何となく感覚的に分かる」という感じになっています。

フレーバーフレーバー。

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