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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
六. 精霊の道
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80. 霧散

 アルテアの眼前、無数のスライム達が行く手を塞いでいた。

 勇者の魔力をもって魔法で焼き払えば簡単だが、アルテアは敢えて剣による戦いを選んだ。

 これから魔族と戦う事になるのを考え、実戦の中で剣を使っての接近戦の勘を維持したいからだ。


 手にあるのは聖剣ではなく、ミスリル合金製の将官・高級武官用の業物を一般的な拵えに偽装したものだ。

 聖剣では強力な魔力を隠し切れず多少どころではなく目立ってしまう為、後で≪聖剣召喚≫で呼び出す事にしていた。


 スライムは同じ場所に出現するものは基本的に魔力系統が揃っている場合が多いが、ここに犇めくスライム達はバラバラだ。

 魔族がこの先で出現するという聖女アーフィナの予言と何か関係あるのかもしれない。

 兎に角見た目こそカラフルだが、獲物を生きたまま溶かしてえげつなく食らう獰猛で凶悪な存在には違いない。


 普段は流れる泥のように動くが戦闘機動は思った以上に素早い。

 ある程度以上に力がある個体なら、体の粘性や弾性を自在に変えることで固体に近い状態で転がったり、疑似的に筋肉に近い機能を得て跳んだり跳ねたりとゴブリンに迫る程に動ける。


≪勇者の眼≫にそれぞれのスライムの体を流動する魔力の経路が見えていた。

 スライムを武器で倒す常道は核を狙う事だが、魔力の籠められた武器による打撃でスライムの体内の魔力を致命的に阻害してやっても生命活動を停止する。

 四方から放たれる溶解液を、毒弾を、魔法を、体当たりを躍る様に避けながら斬る、斬る、斬る。


 暫しの戦闘の後、全てのスライムは完全に活動を停止した。


 ゲル状の肉体が光と共に散り、空気中の魔力に還元されて核であった魔石だけがあたりに散らばった。

 スライムの核は()()()自然に存在する魔石であり、それが瘴気を浴びるなどした結果何かの現象を起こしゲルの体が発生するようなのだ。

 死亡時にはこのように霧散してほぼ完全消滅をしてしまうのはスライム以外の魔物にはまず見られない特徴だ。

 ・・・いや、例外はある。


 魔族だ。


 魔族の場合は文献では白い炎と共に痕も残さず消滅するとあり、またイプロディカの最期も文献で見たのと全く同じだった。

 スライムの消え方と多少プロセスは違うようだが、完全に消え去ってしまうのに違いはない。



(魔族とスライムには、在り方に何か共通点でもあるのだろうか?)



 ・・・アルテアはそんな疑問をふと思いついたが、学問の徒ならざる彼はそれ以上の思索を追及する気はなかった。

 邪悪を討ち滅ぼす使命と言うのは、最強の魔力を誇る勇者アルテアをもってしても片手間では為し得ぬものなのだ。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




「ヘックシ」


「どうしたモモ?珍しいな、スライムでも風邪ひくのか?」


「サテナ。ソモソモスライムガ何ナノカ以前ニ、私ガ本当ニスライムナノカスラ分カラナイカラナ」


「・・・モモはと、もかく、ガメオ、君はよく舌、を噛まぬな」


「慣れてるから」



 ヴィリアンボゥが疑問を口にしたのも当然だ。

 現在、一行はスプーに乗って時速にして百(マイル)以上で移動しているからだ。

 戦闘時に瞬間的にこの位の速度を上回れる存在は意外と居るが、空も飛ばない生き物が巡航速度として出す例はあったとしても世には知られていない。

 ゾオレの魔法で四人の体は軽く浮き、スプーの背中に取り付けた縄で引っ張っている状態なので地面からの衝撃そのものは相当緩和されているが、速度が速度だけに乗り心地が馬など訓練された騎乗動物ほど良い訳ではない。

「慣れるほどに乗りたくはないのである」とヴィリアンボゥが呟く程度には。


 フロスギンが指をさした地平線の先に、胡麻粒ほどの何かが集まっているのが見えた。



「見えたぞ、我らの里だ」


「・・・隠れ里、って程・・・隠れてるわけじゃ、ねえんだな?」


「この荒野自体が魔境だからな」



 この広大な魔境自体が隠蔽装置であり、故に多少の結界があれば敢えてこれ以上隠れる必要もないと言う理屈だ。

 実際(荒野基準ではあるが)割と近所に居を構えていたはずのヴィリアンボゥは気付かなかったし、それはプライムオークの里側も同様だ。


 なおこの時、里からは土煙を上げて高速で接近する何かが観測されたわけでちょっとした騒ぎになっていたのはまた別の話だ。



≪では飛ばすぞ≫


『ごー!ごー!』




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 冒険者ギルドのカウンターの皿に、袋に入った魔石がじゃらじゃらと置かれた。

 一度スライム化した魔石は特性が若干変化するため錬金方面でそれなりに需要があり、買い取り対象となっているのだ。

 結構な量があるので「す、少しお待ちください」と特徴的な白い花をあしらった髪飾りを付けた受付嬢を慌てさせてしまったのをアルテアは反省し、ギルド宿泊の支払いをその中から行う事で換金を急がなくていいように言った。

 元々ここで一泊するつもりだったのだ。


 それにしても、アルテアはギルドについて予習はしていたが街道結界の影響がギリギリ届く程度の町でもシステムが共通で助かっていた。

 間抜けな事に路銀を落としてしまっていたのだ。

 コインを入れた袋自体には魔力で印を付けていたが、袋自体に穴が開いてしまってはどうしようもない。

 換金用の宝石も無くは無いが、商会での手続きに時間がかかって今すぐの宿泊費の捻出が難しくなるために、魔物素材としての魔石の換金を選んだのだった。



 その夜更け。



 襤褸布を頭から被った黒い人影が、建物の外からアルテアの宿泊する部屋の窓を見上げ口角をにやりと上げた。

 そしていざ行動に移ろうと静かに一歩を踏み出そうとした時。



「そんな駄々洩れの殺気では暗殺には向いてないな」


「!」



 勇者の眼を使わずとも、既に数多の戦いを経験しているアルテアにその気配を察知して逆に待ち構えるのは容易な事だった。

 しかし振り返った襤褸布の侵入未遂犯が振り返って見せると、流石のアルテアも多少驚いた。


 フードの下に見えるのは白い花をデザインした髪飾り。

 昼間対応してくれたギルドの受付嬢だったのだ。

 そしてその右目には魔石と思しき何かが嵌っており、そこを中心に魔力の経路が全身に生みだされていた。

 しかし女性の肌にケロイドか血管か分からない物が走る様子は、見た目にかなり痛々しいものがある。



「その目は・・・私が持ち込んだ魔石!取り憑かれてしまったのか!?」


「オマエ・・・ワレ・・・コロシ・・・コロ・・・コロス!」



 襤褸布に見えていたものがぞわりと動き出した。

 アルテアの勇者の眼には、一目見た瞬間にはそれは布などではなくスライムの集合体という正体がはっきりと分かっていた。

 分かってはいたが、実際に動かれると相当にグロテスクだ。



 結果から言うと、アルテアにとって強敵と言えるほどの存在には到底なり得なかった。

 大量のスライムを呼び出し、あるいは生みだし使役しての攻防一体の戦法と言うのは、普通に考えれば余りにも厄介だ。

 勇者の眼には受付嬢の物とは明らかに違う何者かの執念、怨念のようなものが右目の魔石に見えていた。

 力を求め、そして溺れた術者の末路があのスライムの群れだったのだろう。


 そしてその力、そして情念は聖剣を手にしてさえいない聖剣の勇者に届かない。

 圧倒的な魔力で薙ぎ払われスライムを削られ、剣で残りを始末される。

 力の差と呼ぶことさえも烏滸がましい、あえて言うと存在の格の違いの前には多少の特性や戦法など無に等しい意味しかない。


 とは言え町中であり、影響や人々の安全を気にしなければならない以上アルテアも遠慮なく魔法をぶっ放せたわけではない。

 騒ぎを聞きつけた冒険者や野次馬に反応し、そちらに矛先を向けようとした襲撃者に牽制を加えようとしたアルテアは、一瞬の隙を突かれて瘴気のガスを吹き付けられた。


 強敵にはなり得なくとも、一矢は報い得る。


 視界を塞がれてのその一撃に対し、何故か勇者の眼による予知は働かなかった。

 スライムの体を石のように硬化させて鈍器化したそれはアルテアの左手を鋭く強かに打ち、衝撃で中指と小指が千切れてどこかに飛ばされてしまったのだ。


 光の魔力を纏ったミスリル合金の剣先が彼女の喉を突くのもほぼ同時だった。


 その場に崩れ落ちた受付嬢だったものの肉体が光となって解け、霧散を始めた。

 スライムとほぼ同じ死に方だ。

 最終的に彼女の遺体は上半身だけ骨になり、おおよそ両脚の腿から下だけ肉が付いている状態で残された。

 煤けた髪飾りがカランと音を立てて落ちた。



 取り敢えずアルテアには現状、三つの問題があった。


 一つは自分の持ち込んだ魔石で受付嬢がこの状態になり、あまつさえやるしかなかったとは言え衆目で戦い、止めを刺してしまった事だ。

 疑われるのは仕方ない状況だが、最悪権力を使えば何とかはなるだろう。

 しかし魔物化して手遅れだとしても一般市民を手に掛け完全に平気なメンタルなど、アルテアは持ち合わせてはいない。


 二つ目が、勇者の眼の予知が働かず一撃を貰った事だ。

 いや、場合によっては働かない事があり得るのが分かったのはむしろ有用な情報だろう。

 どんな状況や状態でそうなるのかは色々試す必要はあるが、魔族と戦う前に明らかになったのは僥倖かも知れない。


 そして三つ目が、左手の指が二本も欠損してしまった事だ。

 とは言えアルテアの回復魔法をもってすれば新しい指を形成するのも魔力的には難しくはないので、最終的には大した問題にはならない。

 だが、流石に相当な集中が必要で戦闘以上に疲れる事は避けられない。

(飛んでいった私の指はビッグラットあたりの胃袋に収まるかもしれないな)と、野次馬の声を聞きながらアルテアは一人考えた。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 その飢えたビッグラットは、幸運なことに食べやすそうな新鮮な餌を見つけた。

 小さいが新鮮な血の匂いのする肉だ。

 邪魔者や罠がないことを注意深く確認し、電光石火の動きで接近し齧り付く。


 しかし彼の、あるいは彼女の目論見は失敗した。



 その小さな肉は、口に入る寸前に火のような光の粒子になって霧散してしまったからだ。



 ビッグラットは当然知る由もなかったが、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と非常に似たものだった。

スライムが特殊な立ち位置のモンスターって扱いの作品は多いよね!

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