79. 妖精の縁(えにし) - 2
「オレはガメオ。冒険者・・・冒険者、なのか?・・・ん~」
ひとまず冒険者と名乗ったはいいものの、ガメオは自分が名乗るべき肩書や立場と言うのが実際の所皆無な事に気が付いた。
冒険者はかなり昔にギルドが作られて以降は肩書として成立しなくも無いが、根無し草の風来坊と言う本質は変わらない。
むしろ薬師や商人など何らかを兼業しながら冒険者として登録している者の方が、現在でははるかに多いぐらいだ。
最初から専業で冒険者をやるしかない様な者はスタートアップの時点で予備知識や技術が足りない事が多く、死亡率やリタイア率がそれ以外のケースと比べて余りにも高い。
ゼタニス程とまでは言わなくとも相応に技能と経験に自負があれば、専業冒険者を名乗るのも恥ずかしくは無いのだろうが。
ガメオの年頃なら本来、家の仕事を覚えはじめたりどこかに弟子入りしたりして、純粋に何者でもないと言う事はあまりないのだ。
「どうにもハッキリとしない言い方であるな」
「気持ちはわかるぜ。冒険者って身の上は憧れてる時は良いが、いざなってみると思った以上に頼りないんだよな」
「葛藤は長い生の旅路に付き物だが、今は取り敢えず呑み込んでくれないか?先に君の仲間について紹介してくれてもいい」
フロスギンの助け舟に、ガメオの背後で座っていた猪の巨体がもぞりと動いた。
車輌を曳くような魔物よりも更に大きく、本当に小山のようだ。
≪では我が名乗ろう。スプーだ。頭の上で疲れて寝ているのはモモ。自分達が亜精霊と言う存在であることは最近知った≫
思念で喋る猪、しかも魔物でも動物でもなく亜精霊という珍しい存在。
いい加減驚き疲れてきた一同への容赦ない追撃である。
『アタシはピクシーのゾオレ!ガメオの今の相棒だよ!』
次いでゾオレが蜻蛉の翅でパタパタとホバリングしつつえっへんとばかりに胸を張ると、精霊の光が周囲に軽く振り撒かれた。
しかし僅かなポージングの時間の後、ゾオレが見えない誰かと『ちょっと、今ガメオのトナリにいるのはアタシでしょ!?』という具合の言い合いを始めた。
実はゾオレは一人のフェアリーにより創り出された存在でありいつでも互いに会話できるのだと驚異的な事実を解説され、ゼタニスもヴィリアンボゥもフロスギンも言葉を失った。
「・・・結局どこを突いても驚くべき真実が噴き出すのだな」とフロスギンは独り言ちた。
(そう言えば、お前は名乗らないのかデッキー?)
心の中で腕輪に呼び掛けたガメオだったが、反応は無かった。
口調に反して慎重な奴なので何かを警戒しているのかも知れない、とそのままにすることにした。
ガメオは一つ大きな息を吐き、言うべき事が整ったのを心中で確認した。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
ある日突然村がゴブリンの群れに襲われ、すべてを失った事。
その時偶然に一振りの魔剣を拾い、復讐心のままにゴブリンを一匹仕留めた事により一人のフェアリーを救った事。
妖精郷でフェアリー族の戦士たちに剣を教わった事。
冒険者として活動を始め、エルフ族の変なおっさんに腕輪の鎧を押し付けられた事。
枯れかけのドライアドに大量のモリナシをもらい、フェアリーによる≪収納≫に長期間入れていたらあんな変化を起こした事。
そして、故郷の村が襲われる原因となった魔王派なる組織が存在する事を知り、さっきモモが沼の底から引っ張り出したのがその魔王派の使う瘴気のビンだった事。
流石に聖剣の勇者シグナムと練習試合したとか魔族と戦って時空の彼方に飛ばされたとかの腕輪の鎧で正体を隠してやった事は言わなかったが、それでも改めて確認してみるとガメオ本人にとっても短期間に相当なものが詰まった経歴だ。
「ゴブリンの襲撃、拾った魔剣・・・魔王派・・・運搬途中の魔剣を狙われたあの事件か?確かに魔剣の残骸が全て確認出来たわけじゃねえだろうが・・・」
「となると、ガメオ君の今の目的は復讐と言う事であるか」
復讐。
改めて人の口から聞かされると余りにも強い言葉だ。
「・・・止めるの?」
「そんな若い身空で、と思わなくもねえが・・・口が裂けても止めろとは言えねえな。逆恨みじゃあねえようだし」
「我らプライムオークは≪闘争者≫だ。本当に無意味な戦いこそ否定するが、奪われた者が奪った者に刃を突き付けるのはむしろ推奨する部類の戦いだ」
「どうしても自らの手で決着を付けねば収まらぬ事は往々にしてあるものよ」
復讐という、自分自身でも血生臭いと引け目に思っていた目的を否定されず、ガメオはむしろ意外だった。
とは言え控えめに言って人とは違う道を人並外れた力でもって切り開いてきた彼等の意見は決して、一般的に言って正しいとは言えないかもしれないが。
「復讐のよろしくねえイメージは・・・どうしても人の命を奪う結果が待っているのもそうだが、それに囚われた奴が成否にかかわらず心がぶっ壊れて破滅したり、他人も巻き込んだりする場合が多いからだな。例え相手が大手を振ってぶっ殺せる賞金首だとしてもだ。だがその辺は何とかする方法はある」
「・・・それは?」
「孤独にならねえ事さ。力が足りなきゃ一緒に戦う仲間を集めりゃいいし、ダチでも恋人でも作れば事が済んだ後の事だって考えられる。だが人間関係を復讐の同志だけで固めちまうと碌な事にならねえ」
「・・・ひょっとすると、そのなれの果てが魔王派と言う連中なのかもな。伝え聞く話を纏めると不満分子で構成されているようであるしな。ガメオ君の場合、今の所心配は要らぬかも知れぬが」
ゼタニスの警句に、ゾオレ達に軽く視線を遣りながらヴィリアンボゥが付け加えた。
『そーだよ、アタシがガメオを一人ぼっちになんかさせないもん!』
「つーわけでだ、俺から言えるのは『一人になるな、それ以上に復讐心の奴隷だけにはなるな』ってとこだ」
「・・・ありがとう、気を付けるよ。・・・一緒に戦う仲間、か・・・探さないといけないんだろうな。オレあんま強くないし」
その瞬間、丸くした目による視線が一斉にガメオに注がれた。
「・・・えっと、何?」
「「「いやそれはおかしい」」」
突然のユニゾンによる反論に、ガメオは思わず仰け反った。
「いやいやいや、この俺が新必殺技とか言ってドヤァしてる横でそんなもん遥かにぶっちぎる一発見せといて『あんま強くない』はねーだろ!?」
「吾輩はガメオ君の声が無かったらあの毒団子の直撃を食らっていたぞ?そうなれば戦線離脱は必至であろうよ」
「私もだ。この鉤爪を見てくれ、一本だけ腐食して折れてしまっているだろう。君の警告が無ければ完全に毒煙にまかれて全身こうだ。無事では済まなかったよ」
捲し立てられる様に反論を食らったガメオだったが、それでも自分自身の強さを全く信頼していなかった。
「それもこれも全部、魔剣の力だよ。オレ自身は全然そんな事ないんだ」
「魔剣・・・か。チョット見せてくれねえか?」
鞘から抜き払われたガメオの魔剣の刀身が顕になり、ゼタニスの前に差し出された。
美しい剣だ。
装飾も無くはないが、この美しさの根源はそんな所には無い。
機能美、あるいは用の美・・・それを突き詰めた極致。
そんな表現さえも陳腐に思える何かが、そこに居た。
何となく、ゼタニスは柄に触れようとした。
だが出来なかった。
“あと1センチ近付いたならその指を切り落とす”
そんな拒絶の殺気を、『剣自体』が放ったような気がしたのだ。
「ああ間違いねえ、コイツは≪真の魔剣≫だ」
「分かるのか?」
「俺の愛剣がそうだからな。こう言う≪真の魔剣≫は、認めた主以外にはまともに使えないはずだ」
ゼタニスは鞘に入った自身の剣と盾に少しだけ目を落とした。
「単なる魔法武器とは違う真の魔剣、か。吾輩が手にした事は無かったな。それにしても定められた主にしかその力を使えないと言うのであるなら、それは本人の力とどう違うのだ?」
「仮に借り物の力だとして、それは戦う相手から見たら敵の持つ危険な刃の一本と言う事に変わりはない。振るわねばならんのなら自身の力として十全に振るうべきだ。使い慣れた道具が体の一部になるようにな」
魔剣の力は自分の力。
そんな風に考えた事も無かったガメオは、鞘に剣を戻しながらもずっと心の中に掛かっていた霧が僅かに薄くなるような思いを抱いた。
会話も途切れたタイミングで、フロスギンが一つ大きな伸びをして立ち上がった。
改めて見ると非常にリーチの長い腕だ。
「さて、戦いの疲れもそろそろ抜けたところで私からこの場の皆に提案がある。いや、提案と言うより・・・一方的なお願いと言うべきだろうな」
その戦士らしい表情を見て、続く言葉に察しがつかぬ者はこの場にはゾオレぐらいしか居なかった。
こいつらの思考はサツバツ方面だから必ずしも参考にすべきじゃないよ!
もっとスケベな事とか考えて平和に生きたいね!




