77. 妖精の縁(えにし)
巨大な骸を晒した魔物が瘴気を薄めつつ少しづつミイラ状になっていくのを背景に、雨上がりの荒野の真ん中には変な空気が流れていた。
改めて判別するまでもなくこの場で仕留めないといけないレベルの強大な魔物相手に取り敢えず共闘したは良いものの、改めて互いを見ると冒険者風の男を除けば全員妙な風体と言わざるを得ないのだ。
額に角を生やし、毛皮を加工して服に使っているというまるでゴブリンやオークのような鬼類の魔物に知性を与えやや文明的にしたような感じの男。
古代遺跡のゴーレムの様な機械っぽいゴチャゴチャした甲冑で顔まで隠し、ギミック満載の得物のハンマーもメカニカルという背のかなり低い人物。
見た目こそ普通だが召喚可能な魔法の鎧と魔剣を携え、グレートボアより巨大な猪っぽい何かを引き連れた黒髪の少年。
また冒険者の男にしても冒険者と言う時点で世間一般的には流れ者の不審者であり、そこにあのレベルの剣と魔法の腕を持つなどどんな来歴があるのか分かったものではない。
早い話が、全員が自分以外の全員を怪しんで牽制しあっていたのだ。
「・・・取り敢えず、自己紹介と行かないか?」最初にそう言いだしたのは誰だったのか、定かではない。
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まずは自分が名乗ろう、的な事を誰かが言い出そうとしたタイミングで『みんなちょっと待って』と可愛らしい声が響いた。
精霊の光の粒子の尾を引いて見えない何かが四人の中心にふわりと舞い降り、そして魔法を解いて姿を現した。
「ゾオレ!いいのか、姿を見せてしまっても?」
『ココにいるのは全員妖精に強い縁があるヒトばっかみたいだからね。こーゆーバアイは顔出しちゃったほうがイイんだよ』
そういうもんなのか、とガメオが納得するようなしないような様子を見せているのを横に、他の三人は各々に驚きを隠せなかった。
「フェアリー、いや伝説に聞くピクシーか?」と言葉を漏らしたのは角を生やした男だった。
そんな中、全身甲冑の人物が手を上げた。
「このままでは進まぬので取り敢えず自己紹介に入るのである。吾輩はこの荒野を任地とする辺境監視武官の騎士、ヴィリアンボゥである」
「「辺境監視武官?」」
「直轄地にするしかない魔境の監視に当たる騎士だな。騎士よりも冒険者向きの能力が必要で過酷な割りに報われない、で懲罰人事の定番って言われてる・・・が、やっこさんはそんな事で来たような手合いにゃ見えねえな」
ガメオと種族不明の男の同時の疑問に冒険者の男が答えた。
「随分と詳しい様子だが、全く嘆かわしい風潮である。神聖王国の騎士ともあろうものが魔物と剣を交える機会のより多い任務を嫌うとはな!その通り、吾輩は邪悪と戦うために望んでこの任に就いている。まあ理由はそれだけでも無いが」
そう言うと、甲冑の頭部の部分の留め具が軽い重層的な金属音と共に外れて顔を覆っていたバイザーが開いた。
一同の眼前に晒されたヴィリアンボゥの素顔は、驚くべき事に下手をするとガメオよりもさらに年下に見えかねない少女の物だった。
濃い肌の色に対し髪は明るく、何とも形容しがたい瞳の色を湛えた釣り目気味の目は強い意志を感じさせるものがあった。
特徴的なのはその耳で、獣人のように毛に覆われながらも付いている位置は上ではなく、人族や妖精族のように顔の横だった。
「生まれは準男爵家であったが、長じるに従い様々な種族の先祖返りの特徴が出て来てな。妖精との縁云々は吾輩の血に妖精族の物があるからだろう。兎に角この見た目であるものだから人と同じ任には就きづらくてな。おまけにほとんど年も取れぬ・・・同期は生きておれば殆ど退役しているだろう。あのデカブツの魔物については、魔王復活が近く魔族も現れたという報に伴い警戒を強めておった所に探査の網に引っ掛かったのである。一人でもやるつもりであったが・・・正直本当に助かった。礼を言う」
「・・・アレを一人で、ってのは感心しねえな。金勇者五、六人掛かりクラスだぜ」
ヴィリアンボゥの決意に思うところがある様子の、髪を後ろで縛った無精髭の冒険者が続いて自己紹介を始めた。
「俺は・・・ん~、折角の妖精の縁とやらだ。偽名を言うのはやめとこう。俺はゼタニス、元聖剣の勇者の一人だがクビになって今はしがない冒険者ってやつだ」
「聖剣の勇者・・・シグナムと同じ!?」
「雷のゼタニス・・・聞いた事がある。何でも飛竜にやられそうになって仲間の勇者を差し出して命乞いをして無様な醜態を晒したなどと噂が流れて来ているな。そんな男には思えぬが」
「・・・済まんな、人族の事はさっぱり分からん。だがそういう卑怯者でないのは並んで戦って十分に分かっている」
ゼタニスと名乗った男はヴィリアンボゥの語った尾鰭付きの噂話に「流石にそこまで言われてると思うと凹むな」とやや肩を落としうなだれた。
噂の真偽に関しては裏の政治的なあれこれを匂わせながらもはぐらかしつつ、ゼタニスは続けた。
「そんなわけで普段はゼットって名乗ってる。ここの魔物については・・・まあ、元聖剣の勇者の性質ってやつで見過ごせなくてな。一応一人でも何とか出来る手はあったが、やっぱ仲間がいた方が安定するし遥かに楽だぜ。妖精との関係は・・・この剣と盾をドワーフの職人から受け取ったぐらいか」
『それだけでそんな強い縁にはならないよ?よっぽど気に入られたんだね、そのドワーフさんに』
「そうか?そんなタマ・・・なのかねえ」
脳裏にいかにも気難しく、何を考えているのかが分かりにくい深いしわの刻まれたドワーフの顔を思い出し、ゼタニスは唸った。
次は種族のいまいち不明だった男が名乗る番が来た。
戦士らしくしなやかで逞しい長身の体躯をしているが、それ以上に目に入るのが緑がかった肌と額の短い二本の角だ。
それはゴブリンやオーク、オウガなど魔物の鬼種によく見られる身体的特徴なのだ。
「私はフロスギン。プライムオークの戦士だ」
オークといえば魔物の鬼種を代表する邪悪な存在だ。
フロスギンの名乗った種族名に一瞬にして「オーク!」「オークだって?」と緊張を込めた反応が返ってきたが、それを制したのはゾオレだった。
『――ちょっと待って!アナタひょっとして妖精族なの?アタシの知らない種族なんて初めて見たよ』
「ゾオレなるピクシーの言う通りだ。縁と言うより私自身が妖精族というわけだな。魔物として知られるオークやゴブリン、オウガなどは元々我等鬼族の一部が瘴気によって闇に堕ちたものだ。エルフに対するダークエルフのようにな。但しそいつらは魔物として定着しすぎて最早妖精としての特徴はほぼ残っていない」
歴史を専らとする学者であれば貴重な記録に喜んで残すであろう出会いと大発見だが、今日だけで驚きの連続の一同を尻目にそうはいかない事情が語られた。
プライムオークは追いやられたのだ。
知性と個々の技能を捨てた代わりに残忍さと繁殖力を得た鬼種、そしてプライムオークと魔物の区別がつかない人族達に。
今では立ち入るものも殆どない魔境に数少ない同胞が隠れ住むだけで、数が減り過ぎて妖精族さえもホビット族の極一部ぐらいしか交流がない状態だと言う。
「ここの無限に瘴気を生む沼は、元々我等プライムオークが管理してきたものだ。地よりの過剰な瘴気をあえて依り代とした魔物に吸わせ、それを退治する事で瘴気を浄化するという形でな。しかし今回現れたのは今までに例のない強大な獣だった。魔王の復活が近いからなのか、原因は不明だが」
「原因ナラ分カッテイルゾ」
どこからともなく、甲高く間延びした気の抜けそうな声が割り込んだ。
ガメオの後ろに控えていた大きな猪の体毛をかき分けてスライムのようなピンクの塊が現れ、さらに落書きめいた顔が付いていてあまつさえ喋られては反応にも困るというものだ。
だが珍妙な空気が流れる時間は長くは無かった。
ぺっ、と吐き出された物が地面に転がった。
ガメオはそれに対し一瞬にして総毛立つものを感じ、ゼタニスも「コイツはまさか!」と深刻な反応を見せた。
それは、ガメオの知るものとは違うタイプだが間違いなく魔王派の使う瘴気のビンだった。
「沼ノ底ノホウニ妙ナモノヲ感ジタノデ≪遠隔視≫ヲ使ッタトコロ、ソレヲ見ツケタ。≪収納≫内ニ≪転送≫シタガ、ドウヤラ少シヅツ瘴気ヲ放出スル仕組ミラシイ。トリアエズ魔力デ蓋ヲシテオイタケド、少シ疲レタ」
「あ、ああ・・・ご苦労さん、モモ」
とガメオがポーチから取り出した巨大な果実に、共闘者たちは今日何度目かもわからない驚きを感じた。
一目では分からないが、それは強力な魔力と精霊の籠ったモリナシ離れしたモリナシだった。
モモと呼ばれたスライム?はそれを一口で丸呑みにし、ジャクジャクと噛み砕いた後種をプププッと窄めた口から飛ばした。
「・・・ふむ、私の自己紹介はこんなものでいいだろう。後は少年、君だけだぞ」
魔剣と魔法の鎧、珍しい妖精であるピクシーに魔物の様なのに瘴気を持たない巨大な猪、スライムだかなんだかよくわからない生き物まで連れて異常なモリナシをポイッと軽く取り出した少年に対し、一斉に何とも言えない種類の視線が注がれた。
そう言えば前に「このモリナシだけでも軽々に人に見せるものではない」と神官戦士の勇者ファイから忠告を受けたんだった、今更とガメオは思い出していた。
精霊に近い存在はHP=MPの度合いが大きくなるのでモモはモリナシ一個で消耗分と瘴気によるダメージは全快しました。
でもセ○ナーのつもりで作ったのがいつの間にかカ○ビィになってないかお前




