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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
六. 精霊の道
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73. 魔法戦

 タウルキアス本人に加え聖角魔法騎士団50名。

 それが七人づつの七部隊に分かれ散開し、トップであるタウルキアスは側近らしき一人だけ連れて高台に陣取った。


(早い・・・!)アルテアはその手際の鮮やかさ、そして分かれた各部隊の機動力に警戒度を上げた。

 それぞれの隊に風魔法の使い手が最低一人おり、移動速度の補助に専心しているのだ。

 役割分担は組織の基本とは言え、そこまで徹底する場合というのはそうはない。

 戦える騎士と言うのは大なり小なり自身の能力に自負と言うものがあり、それにサポート的な特定の役割のみに専従させるというのは生中な統率力ではない。



「見よ、私が考案した戦陣≪七本足の蜘蛛(レインボーパック)≫!」



 対峙する騎士団と同時に駆け出したアルテアに対し、魔法の砲撃が殺到した。



 タウルキアスは憎悪、嫉妬、その他のネガティブな感情の混じった視線で長らくアルテアを見てきたものの、それでもその観察眼は曇る事なく機械のように正確で冷徹だった。

 その結果分かった事がある。


 確かに魔法自体の出力や速度、狙いの正確さなどは口惜しいがタウルキアスを含め余人を寄せ付けるものではない。

 しかし戦闘時に限ればだが、アルテアの魔力・術式操作は意外な程に()なのだ。

 これは何を意味するかと言うと、アルテアの魔法は威力に比べると打消しや反射、吸収などに弱く、逆に敵側の魔法に対しそう言った対抗をする際にはロスが大きく魔力効率が悪いという事を意味する。

 だが元々のパワーの桁が二つ三つ外れているが故に大した問題ではなく、弱点と呼ぶには余りにも小さな穴であった。

 それに未熟であるがためにある隙だとすれば、成長していくにつれて必ず修正される。

 つまり、タウルキアスがアルテアに一時たりとも追いつく可能性は無かった。


 飛竜との戦いの傷で寝たきりになる期間が発生しなければ。



 轟音と共に着弾する攻撃魔法の雨を魔力障壁で防ぎながら、散弾型の攻撃魔法を連射して反撃するアルテア。

 今回の訓練は魔法のみと言う申し合わせで双方ともに全員が杖に盾と言う装備で統一されており、アルテアの左手の盾に細かい傷がガリガリと付いていた。


 タウルキアスの騎士団は魔力障壁ではなく≪土壁≫などの防御魔法で飛んできた反撃を防いだ。

 防御魔法は魔力障壁と違い同時に他の魔法を使うことは出来ないが、ただ単純に防御能力が遥かに高く、各隊にそれに専心するための人員を割り振っているのだろう。

 大規模な部隊でも、あるいは冒険者パーティーでもそういった役割分担はある。

 だが複数の隊が一つの大きな意思のもとそれぞれ生き物のように動き、各隊の中に盾や移動補助役などを内包していると言うのは斬新な戦術であった。


 アルテアが大きな魔法を一つ撃てば戦局は一気に決まる。

 しかし的確なタイミングの攻撃で阻害されその隙を作らせてくれず、大将であるタウルキアスへも近付かせない。

 見事な操兵、そして練度だ。


 しばし追いかけっこと撃ち合いが続き、タウルキアスはそろそろ次の一手を打つべく側近に信号の魔法を発動させた。

 それは神官戦士が使うような≪信号弾≫と同様にかなり高いところで発動して訓練場全体から見える物だったが、一目瞭然の特徴的な違いとしていくつか色がついており、また複雑かつ機械的な光の明滅を見せた。



「我が騎士団の力を見せつけてやるのだ!」



 荒野を駆ける聖角魔法騎士団員達が、一斉に頭に何かを装着した。

 額冠とゴーグルが一体になったような、恐らくは魔法道具である奇妙な何か。

 魔法の威力に精度、そして速度を向上させる効果があるのは勇者の眼で分かった。



(それは・・・悪手だ!)



 杖や魔剣の様な発動体以外に魔法を強化する魔法道具は、予め術式を仕込みその制御負荷を節約させる仕組みになっている。

 しかしああ言った揃えた装備で、軍団が軍団相手に使うことはまずない。

 同じ工房で作ったものは道具内に仕掛けられた補助術式が全て同じになってしまうため、装備者達が一斉に魔法を使うと悪い意味で()()()()()()のだ。

 そうした魔法弾幕は、魔力障壁や魔法をもって打ち消すなどして防ぐ際の魔力制御負荷が威力に対して相当少なく済んでしまう。

 感覚的には、強く鋭いが軽い。

 アルテアのような魔力に異常に優れた個人に対しては最も効果の薄い手段と言える。



 ・・・しかし。


 その魔法弾束を魔力障壁で受け止めたアルテアは、予想だにしなかった「重さ」に思わず障壁を破壊され吹き飛んだ。



「ぐっ!?」


「まだまだ行くぞ、アルテアアアアアアアアッ!」



 気が付くとアルテアは七つの部隊に囲まれ、釣瓶打ちを食らう格好になっていた。

 この騎士団達による魔法弾束の重さのからくりは単純だ。

 ()()()()()()のだ。

 ゴーグル上の魔法道具の術式は工房でおよそ半分まで作らせているものの、あとの半分は各騎士団員個人が自分の手でオリジナルの物を作って仕上げているのだ。

 そのため一塊に放たれた魔法の中にはここさえ衝けば崩せるという「目」が存在せず、故に重さを感じやすく非常に受け止めにくい。

 貴族に生まれ、幼い頃から高度な教育を受けて来た人材を集めた聖角魔法騎士団でなければ全員が術式を作る能力など持ち得ないであろう。


 以上が、アルテアの魔力操作の未熟さを突いたタウルキアスの作戦の肝だ。

 予想ほどには崩せてはいないが、有効性は十分だった。


 アルテアの足がほぼ止まった事を確認し、タウルキアスは好機と見た。

 手だけの合図に従い、側近が魔法金属の輪をいくつも取り出し地魔法で変形させ、空中に固定させた。

 それは大きな筒のはりぼての骨組みだけ螺旋状に拵えたような、奇妙なオブジェだった。

 全長10mに達する砲身である。

 発射体が魔法であるならば、この脆弱そうどころではない見た目でもさして問題はない。



「食らえ、≪我、高貴(ドミニオン)にして不可侵也(パニッシュメント)≫!」



 極限まで増幅、加速された魔弾が閃光とともに荒野の空を切り裂き、衝撃波を産んだ。




 タウルキアスには誤算があった。


 アルテアは療養期間の半分を、正体を隠した冒険者アルトとして活動していた。

 その中で最も鍛えられてきたのが、本来の水準に届かない魔力をいかに効果的にコントロールするかと言うまさにタウルキアスが衝いた不得意分野の技術だったのだ。

 故に、予想外の衝撃を持つ集中砲火であっても何とか余裕をもって耐えられていた。


 また、ゼタニスから教わった魔法の遅延発動についてもそのまま活用するのは勿論、アイデアのインスパイア元としても非常に研究し甲斐のあるものだった。

 その結果の一つが、今まさに発動しようとしていた。



 アルテアの杖の先が地面を突き、風系統の魔力が疾走した。

 まるで予め描かれたレールに沿うように。


 荒れ狂う魔力の爆風に、放たれた閃光が食われた。



 タウルキアスが≪我、高貴(ドミニオン)にして不可侵也(パニッシュメント)≫と名付けた魔弾は複数の魔力系統の魔石を組合わせた弾頭を超高速で撃ち出すもので、着弾と同時に壊滅的な破壊を引き起こす必殺の一撃のはずだった。

 今回は訓練なので威力は抑えてあるが、しかし例え実戦用だとしてもこの規模の爆発にはならない。


 何が起こったのかは、戦場を俯瞰するタウルキアスの位置からは辛うじて確認できた。

 戦場一杯に広がる、余りにも巨大な≪風≫を意味する魔法文字だ。

 それを利用して呆れるほどに大規模に強化された≪衝撃波≫の魔法が騎士団全員を吹き飛ばして気絶させ、ついでに撃ち込まれた取って置きの魔弾も弾かれてしまったのだ。



「まさか、戦場を駆け回りながらアレを描いていたと言うのか!?」



 魔法を強化する最も基本的な術式技術として、該当系統の魔力で魔法文字を一文字描くと言う物がある。

 但しある程度以上の熟練者になるとコストが効果に勝るために使われることが無くなる。

 しかし、コストを度外視できる者があれほど巨大な、しかも光って目視できる程の魔力を込めた文字でそれをしたならば≪衝撃波≫のようなシンプルな魔法でもああなる、と言う事なのだ。



「クソッ、まだだ・・・せめて一撃、一撃だけでも奴に・・・!」


「タウルキアス様」



 側近の声で、≪風≫に重なるように在るもう一文字にタウルキアスは気付いた。

 それは、風系統よりも遥かに殺傷力に優れる≪火≫を表す魔法文字だ。

 二つの文字は並行して描かれていたのだ。

 恐らくはあれで強化されれば≪火矢≫程度でも、タウルキアスに逃げる暇も与えず消し炭に出来てしまうだろう。

 魔力操作の習熟度など、そのパワーの前では関係ない。


 タウルキアスは、己と聖角魔法騎士団の敗北を悟った。




「・・・何とか、上手く行ったな」



 アルテアもまた、正直甘く見ていた相手の善戦に心の中で称賛を送りつつ、試した技の手応えを感じていた。

 ゼタニスから習った魔法遅延を何とか魔法以外の違う形で出来ないか、という考えに魔族討伐戦時の街道結界がヒントとなり、この巨大魔法文字戦法は生まれた。

 しかし他の誰かが再現するには多少どころではない工夫が必要に思えた。



 何はともあれ、アルテアと聖角魔法騎士団の実戦形式の訓練はここに終了した。

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