69. 逆ダンジョンアタック
それは、歩くたびに軋みを上げるような華奢な構造ではないようだ。
深緑の谷で戦ったあのデカブツのゴーレムと似た造りや材質に見える、しかし背丈は人よりも低い四足歩行の何かがそこらじゅうを巡回していた。
いや、巡回と言うよりは獲物を探していたという雰囲気に近い。
そいつらは、瘴気を纏っていた。
『その反応からすると、相棒はまだ見た事が無かったんだな』
「・・・何の話だよ」
『ゴーレムってのは魔法使いが使役するために作る、ってのは知ってるな』
「一応な」
『それとは別に、魔物としてのゴーレムってのも存在するんだぜ。原理云々はよくわからんが、使い手が居なくなって放置された古い魔法道具が瘴気に汚染されるってのは良くある話だ。ゴーレムがそうなると、誰の言う事も聞かない魔物化しちまうのさ』
「あいつらはそんなに古くてボロい様には見えないけど」
『何故か真新しいってェのは、古代遺跡のゴーレムには珍しくもねェらしいぜ。そんな事より』
小型ゴーレムが二体、ガメオの方に向かってきていた。
その動きはまさに獲物の匂いを嗅ぎつけた魔物だった。
ガメオは無言のまま背中の鞘から魔剣を抜きはらった。
最早体の一部と言ってもいいぐらい手に馴染んだ感触だ。
魔剣の力により、ガメオの体に飛竜の幻影が下ろされた。
竜の突進を模したそれをあまりに多用するため、ガメオはいい加減技名でも付けようかと思っている所だった。
ほとんど見えず反応もできない速度での遠間からの跳躍のような突進、その運動エネルギーが剣先の一点に集中し装甲を貫き、内部の重要な機構がグチャグチャに引き裂かれた。
全く同じ構造ではないが、深緑の谷で戦ったゴーレムに似ていたように思えたので構造上の相似点もある事が容易に想像され、弱点のある場所も似ているんじゃないかと言うそのガメオの勘のような予想は正しく実証された。
回転する斬撃によりもう一体も真っ二つになり、回廊に破片を撒き散らしつつ無残な躯を晒した。
だが、手応えがアレとは違った。
ただ小さいのみならず、素材的に遥かに脆い感じがした。
動きもあの時のデカブツとは比べるべくもない程に雑かつ単純で、パワーや頑丈さを別にすれば拠点の街付近で狩っていたビッグラットの方が厄介に思えた。
元のゴーレムが戦闘用かそうでないかの違いなんだろう、とデッキーは言った。
そう言った知識は生前得たものなのだろう。
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回廊を抜けると、頭上から光が差し込んでいた。
しかしその光源は遥か上、深緑の谷の谷底から上層を見上げるよりも高い場所にあり、ガスの影響もあるのだろうが霞んで見えていた。
全面人工物であることが明らかな壁を走る通路は複雑に入り乱れ、恐らくはゴーレムどももうろついているのだろう。
ダンジョンの様に広大な規模の空間を、ガメオは登り始めた。
魔剣の力は温存した。
と言うのも、ゴーレムは魔剣によって情報こそ読み取れるものの生命力は吸い取れず使用の為のリソースが回復できない為だ。
幸いにもゴーレム達は、囲まれなければ魔剣を発動させずとも現在の剣技と膂力で何とかなる程度の相手ではあった。
時にはショートカットの為に壁を強引に上り、切れた道を飛び越え、とても相手をしていられない数のゴーレムを隠れてやり過ごし、上への道行きはどこまでも順調だった。
初めて使った時は地味で使いにくいと思ったものだったが、ガメオは思った以上に魔剣の力に頼っていることに気付かされた。
徘徊するゴーレムは戦闘技術や勘的な能力こそ低いものの、ロックリザードの鱗よりも堅固なボディはちゃんと斬るのは難しいのだ。
ガメオの素の技術では多くの場合剣が弾かれたり、叩き潰したり吹き飛ばしたりに終わるのだが、上手く刃筋が立てば軽い手応えと共にスパッとスムーズに入った。
その『上手く行った時』は何が違うのか、体の芯や剣の握りはどうだったのか、細かなタイミングは・・・頭と体で試行錯誤しながらガメオは進んだ。
魔剣で再現した技を体に通す事は技術を高める上での意味は大きいが、自分で考えながら剣を振るというのもまた違う意味がある。
他に人も居ないこの空間は、まるで邪魔の入らない修行場のようにも思えた。
その最後に、ソイツは待っていた。
『今までのとは違ってちゃんとした警備用、あるいは戦闘用って所だな。どォするんだ、相棒?』
出口と思しき場所の前には、一体のゴーレムが仁王立ちしていた。
そこいらにいる小型の四足歩行の物とは違い二足歩行タイプで背丈のオウガ並みに大きく、左手には盾、右手には人間用のサイズではないハルバード。
頭部は獅子のような意匠を施されていた。
「どうするって、一つしかないだろ。このために魔剣を温存してきたんだから。でもその前に・・・」
『その前に?』
「腹ごしらえだ」
少し手前の休憩に適したポイントに戻ったガメオは、ザアレによる≪収納≫を掛けられたポーチから黒パンと干し肉、巨大化したモリナシを取り出した。
≪収納≫は、維持し続けるだけなら魔法の同時発動には引っ掛からないタイプの魔法だ。
ザアレの魔法に付随する不思議な効果により本来塩気があるだけの干し肉は程よい歯ごたえと共に肉の旨味が味わえ、固い黒パンは香りが立ち、モリナシは冒険の合間に食べるものとしては過分なデザートとなっていた。
干し肉とパンは割と新しく金で買ったものであまり長い日数分は用意していないが、モリナシは正確には数えていないが千個以上ストックしているのではないだろうか。
この大量のモリナシは、ある時の冒険で枯死する寸前のモリナシの森の樹精と知り合った事で得た物だ。
最後の力で可能な限りモリナシの実を実らせるから、それを提供する代わりにその種を出来るだけでいいから旅先で撒いてほしい、と頼まれたのだ。
深緑の谷で臨時パーティで食べた時も、実はしっかりと種を回収しその辺の地面を掘って埋めていたのだ。
それはともかく、あの最後の武装ゴーレムだ。
出来れば戦う前に謎の剣士Xと狼魔族の技を確認しておきたかったが、その余裕は無かった。
自身の技術レベルとの隔絶度合い、そして慣れの少なさに応じて魔剣のリソース消耗は激しくなるのだ。
現に空間魔法破りを再現した際は思った以上に持っていかれた。
しかし奴は、待っていても居なくなるような相手ではない。
ガメオは意を決した。
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彼の任務は、その道を不正に通ろうとするものを排除する事にある。
以前空を飛んで侵入し、何かを盗み出して逃げた者は流石に取り逃がしてしまったが、そうで無い者は必ず止め、抵抗を続けるなら永久に停止させる。
彼はそのために存在する。
例え主を失おうとも、それは変わらない。
ギィン!ギン!ガキン!
突如として、何者かによる攻撃を受けた。
初撃に反応できなかったにもかかわらず、それは驚愕すべきことに遠距離からの射撃ではなく、何と接近しての剣による攻撃であった。
各種センサーを欺瞞して、あるいは反応できない速度でもっての接近を許したのだ。
斧槍と盾、そして胴体に一撃ずつ食らったが、しかしそれは無視してもいい掠り傷レベルだった。
こちらが反撃するより先に瞬時にして距離を取った「敵」の武装は剣型の生体金属兵器だが防具類はありふれた弱い魔物の皮革製、接近した手段は不明ながらも一方攻撃力およびその技術は不十分。
脅威レベル判定:低から中。
ガメオの魔剣は≪初見殺し殺し≫を可能とするが、性質上その為には必ず先手を取り最低でも一撃浴びせないといけない。
という訳で、ファーストコンタクトで魔剣の能力をケチるわけにはいかなかった。
音と気配を断つ魔物の力で接近し、セバーの剣技で切りつけたのだ。
果たしてそれは成功した。
だが情報と言うのが必ずしも都合がいい物とは限らない。
「・・・やべえな。アイツを倒す手段がないぞ」
魔剣による模倣剣技は、ガメオのレベルと元になった人のレベルの中間ぐらいの技になります。
もしゴーレムがセバー本人と戦った場合の判定は「剣術レベル高、但し打撃力皆無」で脅威度:低になります(魔法なしの場合)。




