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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
五. 魔族イプロディカ
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65. 決着、そして

魔剣の能力についてちょっと捕捉:

ガメオ君の魔剣は一杯幻影を呼び出すだけ単純に破壊力が加算されて行く訳ではなく、それらをミックスする事でに剣の真理に疑似的に近づいて一時的に達人・超人じみた技量になって行き石畳叩き割りとか川真っ二つとかの威力になるのです。

本来の技ではないため隙がかなり大きく、加えてそれの反動を強引に抑えるパワーを絞り出して全身バッキバキになるのです。

「で、療養中のはずなのに何だってお前はそんな変なお面被って冒険者なんかやってんだ()()()()?」


『・・・何のことか分かりませんね、私は冒険者の≪彩色魔術師(プリズムアート)≫アルトです。それよりも貴方の≪謎の剣士X≫などと言う偽名にもなってない巫山戯るにも程がある名前の方がどうかと思うんですが』



 アルトと謎の剣士Xは空中で合流し、煙とスパークを吹いて動かないゴーレムの残骸とともに降下していた。

 眼下の稼働中の遺跡にこの巨大な塊がそのままの勢いで落下したら何が起こるか分かったものではないため、アルトが安定させるための風魔法を張って再び降下開始するのに多少手間取った。



『それよりも黒い鎧の彼です!早く戻って加勢しないと!』


「・・・いや、あれを見ろ」



 アルトは、瘴気交じりの異常に強かった気配が急激に萎んでいるのをハッキリと感じ取った。

 見ると背中に翼と尻尾を生やした巨体が前のめりに倒れ、血と思しき液体が赤とも黒とも言い難い水溜まりを作っていた。

 その傍らには魔剣を携えた全身鎧(感じられる波長から多分男)の人物。



『まさか・・・単身で撃破したというのか!?聖女の魔力を借りてさえなお強敵だった魔族イプロディカを!』


「単身じゃねえさ。大勢で追い詰めてお前がゴリゴリと消耗させて、そこにアイツの剣が止めを刺すのに十分だったって事だ。やるとは思わなかったがな」



 ユプシーからの思念もまた、事態の終息を告げていた。



≪アルト様・・・私の胸に刺さっていた爪が消滅しました≫


(・・・そうか)



 たった今イプロディカは絶命したか、仮に生きていたとしても戦装束を維持できない程の状態になったのだ。

 犠牲者は出てしまったが、結果としては完全勝利と言えるだろう。


 勇者とは邪悪を滅ぼすための存在でありその力と責を共に背負っているが、可能であれば別に誰が邪悪を討ってもいい。

 だが奴だけは自分の手で討ち取りたい所だった・・・そんな余計な考えを、アルトは意識の片隅になんとか追いやった。

 この状況の後始末が待っているのだし、また恐らくはイプロディカを嚆矢としてこれから魔族達との戦いも始まっていくのだ。

 騎士団長や鎧の彼も、その力となっていくことは間違いない。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




『――やめとけ』


『やっぱり知ってるんだな。瘴気を撒いてあちこち魔境を作ってる連中の仲間、じゃなきゃあ関係者か』



 どんなに強大で厄介な連中だろうと必ず追い詰めて報いを受けさせる・・・そう語るバイザーに隠れた表情が血に狂った魔物のように殺気に満ちているであろう事は、イプロディカには見通せていた。

 それでも、イプロディカによる返答は『やめておけ』だった。



『奴らがどんなにデカかろうが知ったこっちゃない。本当だったら今この瞬間だって生かしておけない、それだけだ』


『そーじゃねェよ――逆だ、この俺様を真っ二つにする野郎の剣を向ける相手にしちゃケチでしょぼくれ過ぎなんだよ――アイツラはな』



 身動きも出来ず、左腕の爪付きの鎧のような何かも消えた状態ながらも、魔族の生命力ゆえなのか声は弱々しいが存外喋りの流暢さを保っていた。

 一方ミリオンは普段の少年らしさなど欠片もない、感情の完全に消えた声でさらに問うた。



『知ったことじゃない。いいから話せよ』


『ケッ――じゃァ折角だから一つだけ教えてやるぜ。そんなカスみてェな集団だが、本気で世界を滅ぼす意志とその力の両方を兼ね備えた奴が、一人だけいる。せいぜい気を付けるんだな』


『誰だ、ソイツは?』



 その時、頭上から殺気の籠った何かが降ってきた。

 イプロディカが使ったのと似た、しかし比較して威力はかなり落ちる瘴気の弾丸の雨。

 ミリオンは反射的に避け、遺跡構造物としての材質不明の肌を晒した床は細かい炸裂を無数に起こした。


 そこに倒れたままだった魔族の男の場所を見下ろしたミリオンは、原形を留めないほどに壊れた人型の何かが輪郭を崩しながら白い炎を噴き上げているのを見た。



『≪堕ちた――妖精女王≫』



 最後に、一言だけ聞こえた気がした。


 青空には、黒い粒子を纏う何羽かの黒い蝶。

 それも水に入れられた砂の塊が崩れるように、空の中に消えた。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




≪やるならば今しかない≫



 古代帝国で建造され使用されていたゴーレムは、まるで生きているような判断や運動を自律的に行うために記憶や思考など「人の心に似たもの」を収める仕組みがあった。

 躯体に取り憑いていた元の邪悪な存在そのものはアルトの≪光嵐星弾≫で砂粒も残さず消滅したのだが、その人格は偶然にもゴーレムの疑似精神領域に転写されていた。

 しかしそれが許されるのも、ゴーレム完全崩壊するまでの極僅かな時間だけだ。


 イプロディカを何度か襲撃した時に、ダンジョン核の地下には何かとてつもない物が眠っているのは感知していた。

 手を出しようもないので無視していたが、まさか巨大なゲート施設が存在し、しかも起動しているとは思わなかった。

 ゴーレムを飛翔させたのも、イプロディカからの力の回収は諦めて破れかぶれの自爆に巻き込んで魔族と戦えるほどの英雄的存在もろとも葬るためだ。


 だが現在は、それ以上にうってつけの物が存在する。

 主の邪魔となりうる者共が集まっているのを、ダンジョンもろとも消滅させる事も可能な仕掛けがすぐそこにある。



 完全停止していたはずのゴーレムが、脚部の飛翔用スラスターからの噴射を突如再開しアルトの風魔法の膜を破った。

 衝撃で吹き飛ばされたアルトと謎の剣士Xを無視し、落下方向に噴射推進で加速しながら目からの熱線を乱射。

 ダンジョン核の代わりに現れた転送門を円形に囲んで配置されていた柱、それらが次々と貫かれ見る間に爆炎とともに半分以上が破壊された。


 空中を落下しながらもゴーレムに向けて≪雷撃≫を連射するアルト。

 全弾直撃するも勢いは止まらず、胸部から強力に励起したエネルギーを発しながら巨体はゲートへと突っ込んでいった。


 空間魔法は本来人間が使うのが極めて困難な、不安定なものだ。

 使用するにしても移動を多少補助するような一部の低出力な魔法か、でなければ≪空裂≫のような強力な破壊殺傷の用途ぐらいだ。

 それを暴走させるだけなら存外簡単で、空間魔法が既に発動しているところに何か強力なエネルギーをぶつければ良い。

 周囲にある制御装置を全部破壊すれば暴走の勢いはより強まるが、それだけの余裕はない。

 主上により生み出された時点で知っていた知識も、精神ごと端から解けていく。

 ゴーレム内にコピーされていたその存在の人格は盲目的な忠義の完遂を自ら確信した時点で、今度こそ世界から完全に消えた。


 ゴーレムがゲートに突っ込み、その内部で機関部のオーバーロードによる自爆を果たしたのは数秒後だった。




 僅かな静寂――――――――――そして、より局地的ではあるものの先程の地震よりもさらに激しい揺れが発生した。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




「見つけたぞファイ、この杭を再び励起させれば街道結界は奥まで届く!」


「了解した、≪浄化≫!」



 ファイが発動した魔法により刺激され、ミスリル合金の杭は再び街道結界からの強力な魔力を視認可能な光の脈動を伴い流し始めた。



「多分・・・これが最後だ」


「まさか3か所も途切れていたとはな・・・いや、3か所で済んだと言うべきか。核までは遠い、最後の仕上げは彼らに任せるしかないな」



 ファイの言葉にプシールが頷いた、その時だった。

 先程の地震ほどではないがやや強い揺れがあったが、そんなものがどうでもよくなるレベルの異状が同時に発生した。

 核の方向から突如として感じられ始めた、今まで生きてきて経験したことがない種類の強大なエネルギー。



「・・・そもそも僕達が生きて帰れるかどうか、って話かもね」




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 膨張を始めたゲートは周囲の物を無差別に、そして強烈に吸い上げ始めた。

 激しく波打つその表面に岩や木が吸い込まれるたびに魔力のスパークが走った。


 ゲートを囲む柱の破壊されてなかったうちの同じ一本にミリオンと、落下してきた謎の剣士Xが掴まって耐えているのは、全くの偶然が(もたら)した状況だった。

 アルトは上空に留まったまま、暴走を始めたゲートの吸引に逆らっていた。

 この荒れ狂う力の前では、勇者と言えど何もできないのだ。


 行き先の設定されていないゲートに呑みこまれたなら、それは死か消滅か、あるいはそのほうがまだマシだと思えるような()()()()()()になる事を意味する。



「おい、ミリオン!」


『何だよこんな時に!』



 謎の剣士Xはデスブリンガーを持っている側の手の籠手がいつの間にか脱げてしまっていた。

 器用にその親指を立て、ミリオンの持つ魔剣の刃に当てて軽く横に引いた。



『・・・!』


「ま、気にすんな。次に会うときは俺は今の倍強いからな」



 魔剣の初見殺し殺しのみならず、戦った、と言うかその刃で血を吸った相手の技を模倣出来る能力と言うのは流石に見抜かれていたようだ。

 厳つい造りに不敵な笑みを浮かべた貌は、この絶体絶命の状況に自分自身は愚かミリオンの生還も露ほども疑っていない事を物語っていた。


 そして次の瞬間には自ら手を放し、「また会おうぜ!」と門の中に吸い込まれると言うより短ら勢いよく突入、そのまま消えてしまった。



 ミリオンは握力の限界が近い事を感じながら、少しだけ考えていた。

 この局面で魔剣が人の技をコピー出来るのを承知の上で、それを渡してきた。

 そして自分自身は死ぬつもりが蟻のゲップほどもない様子であの中に突っ込んだ。


 つまりどういう経緯で覚えたのかは知らないが、彼はあそこから生きて還れるための技のような何かを習得していると言う事だ。


 ミリオンは魔剣で時間を停止させ、その中で謎の剣士Xの幻影を呼び出した。

 自分より遥かに強い仲間たちに協力して貰ったお陰で、魔剣内に溜まった生命力はゴーレム、魔族の男と連戦してついでに異常に燃費の悪い真似までしてもなお十分に余裕があった。

 そして今しがた時空の穴に消えた謎の剣士Xのそれらしい技を検証に入った。



『・・・頭おかしいだろあのオッサン』



 もうそんな感想しか漏れないが、()()を上手い事再現すれば確かに生き延びるチャンスはある。

 ミリオン、いや恐らく二度とそう名乗る事のない少年ガメオは、意を決して自らも激しく荒れ狂うゲートの中に飛び込んでいった。







「・・・!街道結界の魔力が、戻った!」



 その時アルトは、どこかで途切れていた聖女の魔力が再び流れ込んできたのを感じ取った。



≪どうするのですか?≫


「こうするのさ!」



 ゲートの吸入に抵抗するために使っていた風魔法を中止。

 吸い寄せられ始めたアルトは、街道結界からの凄まじい魔力を取り込みつつ一つの魔法構築のために集中を始めた。


 それは、使用後の影響力の残り方があまりにも大きい空間攻撃魔法≪空裂≫を覚えたのと同時に、その影響を最小限にするために覚えた魔法だった。

 それは、魔法でありながら系統を持たない特殊な術だった。


 範囲内にあるマナや魔力の流動、精霊の働きを一時的にではあるが完全に沈黙させるためだけの魔法は、出力さえ足りるならどのような魔法やその暴走でも強制的に停止させる。

 聖女の魔力を味方につけた今、その上限はアルト自身にも分からない。



「≪(クローズ)≫!」



 一瞬のうちに、アルトを中心として球形に魔法的に負の力場が広がった。

 嵐の海よりも、燎原の火事よりも激しく荒ぶっていたゲートも、それに触れた瞬間に一瞬で縮小、そのまま消滅した。



 あとに残されたのはすり鉢状の地形の中央に、半球型に抉れた巨大な窪みのみ。

 ゲートはその発生装置さえも呑み込んだ後、なおも貪欲に膨張、拡大しようとしていたところだったのだ。



「・・・騎士団長・・・」



 空中で発動させた風魔法で柔らかく着地したアルトは、谷を駆け抜ける風の音以外に何も聞こえない中一度だけそう呟いた。




 深緑の谷ダンジョン魔族討伐作戦は、成功に終わった。

 しかしそこから生還して報酬を受け取った者の名簿の中に「謎の剣士X」「ミリオン・ミラージュ」の名前は無かった。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




「ウオリャーーーー!・・・・ん、ここはどこだ?」



 謎の剣士X改めラムザイルは、やけに人気の多い石畳の道の上から落下して着地した。

 よく見ると、そこは見知った場所だった。

 王都に入るゲート前、常に順番待ちの人々が溢れる道路だ。

 流石に、いきなり空中から完全武装の大男がでかい奇声と共に登場したことで辺りにいた人々は皆ざわついている。

 遠くの方で馬が驚いたのを御者が慌てて窘めていた。


 一度空間魔法で飛ばされたのを魔力のバーストで無理矢理破った経験でコツを掴んでいなかったら、より規模の大きい今回の転送ゲートを破るのは難しかったかも知れない。

 ミリオンについては、魔剣を通して上手くそれを使ってくれた事を祈るのみだ。


 鎧を着こんだのが分かる金属交じりの足音が複数聞こえてきた。

 不審人物の通報に対してあと3秒来るのが遅い、とラムザイルは思った。



「取り敢えず一度登城して報告して、ああ甲冑も直さねーとな。コイツの鞘も作らんと・・・」



 再び至光騎士団のいる前線に出るまでにやる事をあれこれ考えながら、ラムザイルは巨大なデスブリンガーを担ぎ直した。

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