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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
五. 魔族イプロディカ
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61. DEATHBRINGER ~ 魔族討伐作戦 - 9

 アルトが最初に構えた剣と短杖(ワンド)は、実はフェイントだった。

 予め空中から投げておいた円筒形の消費型魔道具である閃光麻痺弾(スタングレネード)にイプロディカが気づいた時には、既に彼の鼻先を舞っていたのだ。


 ディロラール手製の閃光麻痺弾(スタングレネード)は、ただ麻痺させるのみならず光系統の魔力と物理的爆発による殺傷力も伴った、最早麻痺弾とは呼べない強力な代物だった。

 さらに、使用者の意思によりその爆発に指向性を持たせることも出来るという器用かつ危険な使い方も可能だ。

 そこに街道結界からの聖女の魔力が加わり、放り投げられた円筒形の物体が放った狂暴なエネルギーはほぼ直線にイプロディカに襲い掛かって、光と轟音とともにかなりの距離吹き飛ばしてしまった。


 隙ができたのを確認し、アルトは一つ大きな魔法を発動させた。

 アルトの被る犬の仮面の表面に、緑の魔法の光が反射して走った。



『≪癒しの円陣≫』



 アクセルたち冒険者はぎょっとした。

 骨折や深い傷などを治す強力な回復魔法やポーションと言うのは副作用があり、痛覚を麻痺させたうえで栄養剤ゼリーを使用しないと大きな後遺症があるのは良く知られているからだ。

 ゆえに、こう言った広範囲の回復魔法と言うのは現在では教会や病院のような一斉治療での効率化ができる環境以外では殆ど使われていない。


 だが、彼等の心配は杞憂に終わった。

 アルトの使用する回復魔法は強力であるのみならず、何の工夫もしなくともそう言った副作用の類が一切ないのだ。

 まるで10年以上前には普通に使用されていた、妖精の粉を補助に使ったように。


 負傷して動けない状態だった冒険者たちは数秒のうちに、温かな魔力の陣の中で全員自力で動ける状態にまで回復した。

 しかし数人の、既に命の灯が消えていた者は傷が塞がる事は無く、立ち上がりもしなかった。



『お疲れ様でした、皆さん。ここからは私の仕事です』


「あ・・・ああ、わかった。勝ってくれよアルト!・・・コイツラの分も」



 アクセルたち無事だった冒険者たちは入り口側に向けて迷わず駆け出したが、刹那、瘴気の弾丸が飛んできた。

 しかし瞬時にアルトが張った≪光壁≫は元々強力なのが街道結界の魔力で強化され、魔族の放った弾丸を容易に防ぎ蒸発させてしまった。


≪光壁≫を解いたアルトは、土煙の中にイプロディカが居ないのに気付いた。

 濃い瘴気を伴う気配が高速で奥の方に遠ざかっており、今の一撃は目眩ましに過ぎなかったようだ。



≪やはり戦いにダンジョン核のエネルギーを使うようです!≫



 ユプシーの思念を受け、アルトは背中からミスリル杭を取り出して足元に突き刺し、魔力でもって地面に押し込んだ。



(これで核まで街道結界の魔力が届くはずだ!じゃあ行くぞ!)



 我知らず神から勇者としての力を与えられていた少年は、今代初の魔族を撃滅すべく全力で駆けだした。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 巨人と小人。

 片や見た目では金属とも石ともつかぬ堅固で頑丈な機械の塊、片や全身鎧に身を包んでいるとは言え生身。

 そのスケールの違いすぎる同士の肉弾戦は、意外な程に拮抗していた。


 その場に吟遊詩人でもいたなら、神話の巨人退治じみた光景を興奮を持って詩にしたことだろう。


 直撃即致命傷なのは勿論の事、余波の風圧だけでも姿勢が崩れて地面に叩き落されかねない巨腕の一撃。

 そんな振るわれたゴーレムの腕を足場にし、人間離れした体捌きで駆け上がりながら目と思しき器官への攻撃を試みるミリオン。

 だが相手の体を足場にすると言う事は、僅かな動作でも簡単に振り落とされると言う事でもある。

 空中でトンボを切ってゴーレムの残骸だらけの地面に着地したミリオンに、頭上からの拳が落とされた。

 しかしファイからの≪光弾≫による援護が牽制となり、生じたゼロコンマ秒の隙を逃さずミリオンはその場から退避していた。


 足元をちょろちょろ走り回り時たま飛んだり登ったりしてくる小さな敵を、今のところゴーレムは捉え切れていない。

 無理に修復したとみられる手足の動きが若干ぎこちなく、また援護の≪光弾≫や≪光壁≫があるとはいえ常に動き回り、必ずしも動きが鈍いとは言えない巨体を翻弄するというのは驚異的な所業と言えた。


 だが、限界はあった。

 サイズ差と材質ゆえに、ミリオンの攻撃は有効打どころかかすり傷一つ付けるのさえも困難である。

 逆にゴーレム側の攻撃は一度でも当たれば確実に命が奪われる。

 まだ幼さのある少年ミリオンの戦いは割とそんな感じの物ばかりだが、流石に今回のサイズ差は今までとは桁が違った。


 頭上からの拳を跳んで避け、腕に取りつくミリオン。

 予想通り大きな音と土煙を噴き上げゴーレムの手は地面に刺さったが、装甲の表面に光が漏れたかと思うとさらに一拍遅れて突然地面が大きく爆発した。

 腕部に仕込まれた衝撃を発生する機構か何かが発動し、大地を抉ったのだ。


 瓦礫とともに空中に放り出され多少の姿勢制御位しかできないミリオンの視界一杯に、機械むき出しの手が迫った。

 咄嗟にその前にファイが張った≪光壁≫も、圧倒的な質量を正面から受け止めるには至らない。


 小さな体が今にも為す術もなく掴まれ、粉砕されようかと言う時だった。



「ウルァアアアアアアアアアアアアアッ!」




 人の物とも思えぬ気合の叫び声、そして言葉にさえ表せない凄まじい破砕音。

 空中のミリオンを握りつぶそうと伸びていたゴーレムの機械丸出しに膨らんだ腕が、根元から叩き折られて上空数十メートルまで吹き飛んでいた。


 ゴーレムの肩を足場に立っていたのは、体から魔力の光を漏れさせていた謎の剣士X。

 その両手には、人が扱うものとしては些か大きな大剣があった。

 いや、剣と呼ぶのは正直憚られる雑な物体と言うべきだろう。

 刀身の部分は先端が若干丸まっている幅広な形だが、刃が作られてないのは見ただけで分かり言わば板と言った方が適切な代物だ。

 その板から長めの棒が生えていて、それが柄になっており全体として辛うじて剣としての体裁を保ってるという具合だ。

 しかしその重厚さは、使えさえするならば立ち塞がるあらゆる存在を粉砕して回るだけの内包された力の存在を感じさせた。


 あたりに機械類のパーツが雨のように降り注ぐ中、ゴーレムは肩に乗った敵を焼き払うべく目に魔力の光を集め出した。

 あまり瘴気は感じさせず、ゴーレムに宿った何者かではなく機体自身に兵器として搭載されている機能なのだろう。

 しかしその企みも、今度は横薙ぎに「あぶねえな」と振るわれたその剣で顎がかち上げられ首が上に向くことで阻止された。

 かなり上の方の谷の上層に沿って見える木立が熱線で焼かれたが、それだけだった。


 片腕を失い頭部にダメージも負ったゴーレムの巨体はゆっくりと倒れ、また大量の瓦礫を巻き上げた。



「良い剣だな。デスブリンガーとでも名付けようか」



 体格や甲冑装備に見合わぬ身軽な身のこなしで着地した謎の剣士Xは、その新しい大剣に早速名前を付けていた。



「良く分からない古代のゴーレム用武器を聖女の魔力を借りて無理矢理圧縮した代物・・・少なくとも頑丈さと打撃力だけなら、現在のドワーフの鍛冶屋の作品さえも凌ぐだろうね。・・・もう一本作れとかは、勘弁してくれよ」



 プシールは全身汗まみれで息を何とか正している状態で、明らかに自身の限界近くの集中力と出力で魔力を放出していた事が見て取れた。


 このデスブリンガーという武器は、この時この場所、この人物が居なければ誕生しなかった奇跡的な一品であった。

 聖女の祈りにより街道結界からの凄まじい魔力が得られる魔族討伐作戦中、現在の技術では再現不可能な強靭な材質の武器が比較的原形を保って落ちている遺跡、地系統を得意とし出力の大きさよりも魔法や魔力の精密なコントロールを信条としている銅勇者の魔法使いプシール。

 そして、こんな物を作る必要に鼻先まで迫られたという状況。

 もちろん、こんな威力は高いが使えそうな人間の限られる珍兵器を平気で振るえる使い手も必須だ。



「しかしこの場所がダンジョン核でもおかしくないのであるが、意外だな」


『どういう事?』


「ダンジョン核と言うのはある程度広さがある袋状の地形という瘴気が溜まりやすい形、尚且つ瘴気を引き寄せる種類の魔法的エネルギーが多い場所に出来やすいのさ。ここは形と、ゴーレムの残骸に残ったエネルギーと割と理想的な場所なんだ」


「・・・つー事はだ。核のあるトコには、ゴーレムからの魔力の渦巻いているここよりもヤベーモンがあるって事なのか?」



 四人がが顔を見合わせた、その時だった。



『・・・まだだッ!このゴーレム動く気だぞ!』


「ぬうッ、≪浄化≫!」



 ミリオンの声に反応してファイが≪浄化≫魔法を放ったが、魔法耐性が高いのかボディの表面で形を成しかけた光が弾かれ、粒子となって霧散した。

 ゴーレムは全身で跳躍するように巨体を転がし、四人から距離を取りつつ破片の雨とともに立ち上がった。


 まだやる気か、と思ったところでゴーレムは一瞬膝を屈め、谷の上層より高い所まで飛びあがった。

 修復された方の足が若干軋みを上げたようだが、両足の裏から青白い炎を噴き出し水平飛行を始めその場から飛び去った。



「あの方向は・・・ダンジョン核のある方向であるぞ!」


「この地図に書き込まれた情報だと、既に冒険者パーティが魔族との直接戦闘に入っている。そこにあんなものが乱入、ひょっとしたら何か古代文明のヤバイものまで・・・一体何をする気なんだ!?」



 魔法使いの帽子の下の頭脳で苦悩するプシールに対し、ミリオンは向き直って提案した。



『プシールさん、風の魔法で飛んで追うことは出来ませんか?』


「!・・・街道結界を使える今なら、核までであれば二人飛ばせる!」



 アクセルを救った時に長時間にわたり楽々と四人、帰りには成人男性一人を加え五人も飛ばしたディロラールはやはり規格外と言うやつなのだろう。



「だったら行くのは俺とミリオンだ。いいな?」


「待て。貴殿が行くのはいいが、魔族と戦うのだ。もう一人行くとしたら邪悪との戦いを専らとする神官戦士たる私だろう?」



 ファイが謎の剣士Xに当然ともいえる異を唱えた。

 しかしプシールによってそれは阻まれた。



「二人を先行させてから僕たちも行けば良いだろう。どっちみち重い全身甲冑の大人二人を同時では僕の魔法には重すぎるんだ」


「ぬ・・・それもそうか」



 プシールは地図を広げて核までの距離と方向を手早く正確に確認し、謎の剣士Xとミリオンを一緒に立たせた。



「それでは行きます・・・≪風≫!」



 渦巻く風が二人を包み込み、最初はゆっくり宙に浮いた勢いがそのまま加速を続け見る間に谷の上へと消えていった。



「向こうまでは定められたルートを通るよう設定している。切れた手応えがあったら僕たちも行こう」


「ああ、分かった」



 その時、突然の地鳴りが発生した。

 それはどんどん振動を強め、最後には鍛え上げられたファイでさえ立っていられないほどの大地震となった。


 数十秒も経っただろうか、漸く揺れが収まって現状を素早く確認したプシールは、今日何度目かの毒づき付きの焦りを感じた。



「な、何てことだ!さっきまで届いていた街道結界の魔力が感じ取れない!クソ、さっきの地震で・・・!」


「核までの経路も切れたかも知れん!途切れた所を探さぬと、魔族やあのゴーレムと戦う彼等は・・・!」



 プシールとファイは真剣な表情で顔を見合わせると、ダンジョン内の道へと駆けて行った。

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