60. STINGER ~ 魔族討伐作戦 - 8
今回は挿絵付き(美しいとは言っていない)
『これは・・・パーティの一つが魔族と戦闘に入りました!全パーティに≪念信≫を送り、私もすぐに・・・え、何ですかこれ!?団ちょ・・・謎の剣士Xさんのパーティも謎の強大なゴーレムと交戦?一体何がどうなってるんですか!』
『落ち着けいアルト!お主がやる事は決まっておるじゃろ』
『分かっていますが、あの人をして「強大」と言わしめるような魔物が魔族イプロディカ以外に・・・あーもう信じて任せるッ!』
やや混乱しながらも、アルトは手をしっかりと動かして今回の自身の武器である地の魔剣と短杖を装着し終えた。
『≪念信≫!標的の魔族との戦闘に入る、これより念信によるバックアップはなく、各隊判断で動け!遭遇した魔物については任せる!』
『任せる、か。まあそれしかないんじゃがの。杭の魔力は問題ないぞ、あとはホレ。儂手製の閃光麻痺弾を持って行け』
筒状の魔道具を有難く受け取ったアルトは、基地中心の杭の前に立ち魔法の集中に入った。
細かなコントロールはまだだが、魔力量自体は半死半生の傷で臥せる前にかなり近い所まで復調している。
杭からくる強力な光の魔力はアルトの魔力と容易に融合し、彼にとっては仮に万全であったとしても容易ではないある一つの魔法をかなり安定して発動可能にする。
それが今回の魔族討伐の切り札の一つだった。
『空間魔法≪転送≫!』
それは本来であるならば、例え神に選ばれた勇者であっても人族に使いこなせる種類の魔法ではない。
大きな魔力を持って強引に大規模殺傷魔法に使うことは出来ても、妖精族でもそれに近しい魔物でもない身には生きた物を生きたまま飛ばす空間魔法などと言う、大きな力と詳細なコントロールを同時に要求される術は基本的には不可能だ。
だが聖女の祈りによる魔力を味方につけた今なら、街道結界の及ぶ場所限定ではあるが制御含めて出力によるごり押しで人一人を≪転送≫する事が可能になっているのだ。
(ユプシー・・・奴を倒して、必ず君を助ける!)
少年アルトの肉体は数秒間掛けて融けるように光の粒子に変わっていき、最後に巨大な雷を発した。
スパークが収まると、既に彼の姿は無かった。
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そのゴーレムが放つ奇妙な≪圧≫を、それと対峙する四人ははっきりと感じ取っていた。
それは瘴気と存在そのものが強く結びついた遍く魔物特有のものに近い印象だったが、それに比べてより黒さが純化したような、まさに「邪悪」と言う言葉がふさわしい感覚だった。
謎の剣士Xだけは、それに近似するものを知っていた。
魔王の領域周辺に生息し、その力の影響を受け強化してしまった魔物たちにどことなく似ていた圧力だったのだ。
ゴーレムの足が瓦礫に取られたのを隙と見て、ミリオンは駆けた。
自分より遥かに上の一流や超一流の仲間とともにダンジョンに潜り、洗練された技を身近で素直な目で見ていると何かしらの影響はある。
魔剣による魔物や戦士達の技の連続・同時憑依が今までになくスムーズになっているのも、そういう作用なのだろう。
バッタやカエルの魔物を合わせた跳躍からの、シグナムの剣にピアルザの刺突を重ねた一閃。
剣先はゴーレムの装甲の隙間に見事に突き刺さった。
だが、それだけだった。
纏わりつく煩い羽虫を払う程度の動作でさえ、サイズとパワー差の前では致命傷になる。
追って飛んできた謎の剣士Xがゴーレムの肩からミリオンを引っぺがし、もう片方の手に持った大剣を巨大な機械の腕に叩きつけて軌道を変え、そのまま飛び退いた。
「ったく、行くなら行くって言え!」
『アテにしてたからな』
そう言うとミリオンはゴーレムの影が呼び出せるかどうか試すため、魔剣を持ったまま楽な姿勢で集中に入った。
まずは時間停止。
魔物など敵との戦いの最中に使うには必須だ。
自身を含め完全に時の流れが止まった世界、たった今魔剣を突き刺したゴーレムの影の呼び出しを試みた。
無生物相手にこれが効くかどうかは不明だったが、強いイメージに伴い精神世界内に素材不明の巨大な人型機械が顕れ、影の呼び出し自体は無事成功した。
もっともあのゴーレムには何か良からぬものが憑りついているらしくその結果かもしれないので、他のゴーレムに出会ったときにも有効かどうかはわからない。
とにかくミリオンは、時間を止めたまま眼前のゴーレムの能力や性質を一つ一つ検証するという意外と根気のいる作業を開始した。
『・・・中までみっしり魔法金属以上に固いのが詰まってる・・・っぽいけど、ゴチャゴチャしてデカイほうの手足をどこかかばっている動きのように思えた』
「あれは強化と言うより修復中ってことか」
『あーあともう一つ。目が光ると・・・』
丁度そのタイミングで、ゴーレムの頭部に当たる部分で目のように見える何かが、赤く光った。
『・・・ヤバイのが来る!』
刹那、無機質な高周波音を伴う強烈な熱線。
ゴーレムの目から放たれたそれは、自身の足元から四人パーティの隠れる柱までの地面を閃光とともに直線に赤熱させた。
四人は柱が爆発して蒸発する寸前に横に跳んで退避して無事だった。
「もっと早く言えミリオン!」
「こんな時になんだがバッドニュースだ」
謎の剣士Xの言葉に思わず険を込めた視線を向けたプシールは、思った以上の状況に一瞬思考が飛んだ。
このパーティ、と言うか人類屈指じゃないかとさえ思える最強の前衛の得物である大剣が、中頃から先が融けて消えてしまっていたのだ。
「たった今剣士じゃなくなった」
それを見たのとほぼ同時に、ミリオンがゴーレムの前に飛び出した。
『時間を稼ぐ!その間に何とか剣士に戻れ!』
「アイツ!・・・あークッソしょうがない、何かないのか!?」
切り替えの早すぎる仲間の言葉にプシールは毒づきながらも高速で思考を回転させ始めた。
見るとそこらには、ゴーレム用と思しき大きなサイズ、素材も見て分からない武器が躯体同様にボロボロの状態で転がっていた。
言うまでもなく重量的に、人間が武器として使えるようなものではなく、いかに謎の剣士Xが怪力と言えど同じだ・・・が。
「地の魔力でこれを圧縮・形成して剣っぽいものをでっち上げる!謎の剣士さんは作業中柄に魔力を軽く流し続けて手に馴染ませてくれ!ファイはミリオンを援護!」
「っしゃ分かった!」
「応!」
正体不明のゴーレムとの戦いは始まったばかりだ。
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「はぁ、はぁ・・・魔族ってのはここまでとは、なあ」
『ほんの少しはやるよォだな、斧使い。褒めてやってもいいぜ?』
あたりの地形は醜い破壊の痕が目立っていた。
十人近い冒険者たちは既に倒れ、うち幾人かは見ただけで命がないのが火を見るよりも明らかに分かる状態だった。
立っている冒険者はアクセルだけ、闘志の火は何とか灯しているものの満身創痍、息は荒く左腕は骨折してしまっていた。
「ケッ、遠慮させてもらうぜ」
アクセルの手にある愛用の斧が、見る者を幻惑するような動きを見せ始めた。
飛び跳ねるとも摺り足ともつかぬ、じっと見ていると精神に異常をきたしそうな緩急の付いたステップから魔族の男に斬撃が襲い掛かる。
空を切る斧。
また空を切る。
何度目かの空振りの後、イプロディカの逞しい腕がアクセルの反応できる水準を超えた速度で迫り、右手で斧頭、左手でアクセルの首を掴み完全に動きを封じてしまった。
「・・・っが・・・ッ!」
『諦めねェのは感心するが、それだけじゃァどうにもならねェんだぜ』
首を掴む手に力が込められる。
冒険者の男が手の内で全力で足掻くが、それも全くの無駄に終わると言う核心をイプロディカは抱いていた。
これで、終わりだ。
そう思われた瞬間だった。
ドスッ
イプロディカの腹に走る衝撃、そして少し遅れてやってきた肚を中から焼かれるような痛み。
思わずアクセルの首と斧を掴んでいた手が解かれ、狼の獣人の巨躯に蝙蝠の羽を生やした男はその場に膝をついてうずくまった。
転がってやや距離を取ったアクセルの斧の柄の下端部には棘が付いていたのだが、現在はその部分に穴が開いているだけだった。
中にはクロスボウ用の短矢が仕込んであり、発条仕掛けで飛び出す仕組みになっていたのだ。
これには硬い火山岩にも深く突き刺さる威力があった。
それだけではない。
「・・・魔族殺しのために聖別された聖水を腸に直接ぶち込まれた気分はどうだ?」
矢は中に液体を入れられる特別製で、本来は毒を仕込むのだが今回は討伐に当たり支給されていた強力な聖水が中に入っていたのだ。
『グ―――――――ガァ!』
イプロディカは苦悶の中で思い出していた。
使っている道具も状況も違うが、これはかつて幼い頃、氏族の長をイプロディカが殺害した時にやった事をそのままひっくり返されて食らったものだったのだ。
しかし、それまでだった。
苦痛の中でイプロディカは地面を爪で引っ掻きながらも立ち上がり、アクセルにはもはやそれだけの体力も残っていなかった。
『思い出させてくれて礼を――――言うぜ、冒険者ァ。俺みたいなのは、驕り高ぶって弱い――奴を甚振る様な真似をしちゃァ――――いけねェんだった。どんなに弱っちィく見えても、相手をぶち殺す必殺の一撃を隠し持ってる――――モンなんだってなァ。だからこれから油断せずに、しっかりと――――お前を殺す』
乱暴に聖水入りの短矢が引き抜かれた腹の穴から青い火が上がり、血の流れ出す傷が塞がっていった。
アクセルは、今度こそ死を覚悟した。
妻になる予定だった女性に、心の中で詫びながら。
・・・しかし彼の懺悔は、命を絶たれる以外の手段で中断された。
突如として飛来した強烈な雷光が二人の間に落下し、視界と聴覚を塗りつぶしたからだ。
『――クケケ、ケケケッケケ!待ってたぜェ、光に愛されたクソガキがァ!』
『今度こそお前を倒し、ユプシーを救う!これがお前の最期だイプロディカ!』
眩いばかりの雷を纏った≪転送≫の魔法の残滓をスパークさせながら、アルトは全身に魔力を滾らせつつ魔剣と短杖を構えた。




