59. 会敵 ~ 魔族討伐作戦 - 7
深緑の谷というダンジョンは、通常であれば核まで辿り着くために最低でも一週間は見ないといけない規模がある。
加えて現在は魔族が陣取っている影響で瘴気は濃く、魔物も強化や変異をしている。
それでも今回の大規模攻略開始から二日経った時点で、最も先行しているパーティが既に核まで後僅かと言う場所まで来ていた。
アルトの≪聖鐘≫による事前の地図補完と瞬時の情報共有、そして強化された街道結界の魔力を味方に付けているが故の普通ならあり得ないハイペースだ。
魔力ブーストにより戦闘用の魔法で魔物を蹴散らせるのは勿論の事、回復魔法の中で最も基本的なものに疲労を癒し体力を回復させるというものが存在するのだが、コスト度外視で連発してパーティ全員良好なコンディションを保ったまま強行軍可能なのは今この時だけだ。
攻略参加の冒険者達にも脱落者がいないわけではなかった。
魔族が何者かを聞き積極的に参加した全員獣人のパーティが居たのだが、途中までは先行していたものの気が逸りすぎたのか不注意で転落、死人は出なかったもののリーダーを含む半数が探索続行不能の重傷となった。
他のパーティに救助され、現在はダンジョン内の中継地点の小屋で動けるまで治療に専念している状態だ。
「・・・おい、そっちは違うぞ。今回はそっちの廃墟なんかに用は無いだろ」
「ああ、そうだった。今回は魔石採りに来たんじゃなかった」
魔族討伐に参加していた冒険者の一人がいつもの癖で馴染みの道に入ろうとしたところを、仲間に呼び止められて現在の目的を思い出していた。
深緑の谷はかつての古い文明の遺跡の一部が露出している場所があり、そこには壊れた人型の何かの残骸が見渡す限り大量にあった。
それは巨大な魔導人形、ゴーレムだった。
ゴーレムを作り使役する魔法的な技術は今でもあるが、古代帝国時代には今とは比べ物にならないぐらい高度な技術でそれがなされ、無数の頑丈で強力な自動人形たちがインフラでも軍事でも重要な役割を担っていたとされる。
現在の文明とは違う技術で作られたゴーレムの体を形成する石とも金属ともつかぬ物質、そして心臓部に使われている魔石は冒険者たちの懐を潤していた・・・そこに跋扈する谷の中でも一際強力な魔物どもの餌にならなければ、だが。
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木々に呑み込まれかけている廃墟に、何か奇妙なものが顕れた。
よく見るとシルエットは人の姿に似ているがまるで影が凝り固まったような良く分からない存在で、下半身に当たると思わしき部分が千切れたように消えかけており腕で這っている状態だった。
それは、先程イプロディカに挑み敗れた影だった。
≪主上の御力の極一部をくすねる矮小なる者が居るのは問題ない≫
≪偉大なる御力を勝手に中ツ国にばら撒き我らの威光を示す助けとなるのだから≫
≪だが、あの不遜なるモノは駄目だ≫
≪栄光ある眷属へとその身を変えながら、主上よりの永久の祝詞に全く耳を傾けず、あまつさえ反逆の意さえ見せている≫
≪あれは、ある意味【勇者】以上に危険だ≫
≪撃ち滅ぼし、その身から主上よりの御力を回収しなくてはならない≫
このゴーレムの墓場にたった今影が辿り着いたのは、完全な偶然だった。
ゴーレムは使える、と判断した。
だがこれを使おうと再びあのモノに戦いを挑んだところで、返り討ちは必至だ。
影は一計を案じた。
あのモノに対する討伐隊が、今ここに進入してきている。
眷属討伐であれば、その中に【勇者】が居る可能性は高い。
勇者に倒されては力の回収も出来なくなるために急ぎたかったが、ここはむしろ戦って双方疲弊したところを纏めて始末するのを狙った方がいいだろう。
そう考えた影は、一先ずはそこにあるゴーレムの中でも比較的状態の良い物を選び、体をガス状に変えて倒れた人型の人工物を包み込み、砂に水が染み入る様にその中に侵入した。
期待した通り、ゴーレムの中に入っていれば忌々しい光の魔力の影響はかなり少なくなったようだ。
影はそのままゴーレムの魔道具としての性質を高速で理解、次いで躯体の破損状況や動作用リソースの残量を把握。
不快な軋みを上げ、遥かな時間を越えて再び巨腕が動いた。
がりがりと土煙を上げながら周辺の残骸を集め影自身の魔力を込めると、残骸が熔けるように変形し躯体の破損個所の傷口を埋めていった。
さらに動けるようになると這った状態で動き出し、さらに残骸を残存エネルギーごと集めていった。
暫くの時間の後、そこには歪なシルエットのゴーレムが立っていた。
元々の無機質な巨体に加え、破損が大きかった手足はメチャクチャに機械をつなぎ合わせたような外見となって巨大になっており、バランスが悪い。
しかし反面、そのバランスの悪さが内包している不気味な凶悪さと力強さをも顕わしていた。
もっとも、今はそれを見る者もいないが。
否、今は誰の目にも触れさせるわけには行かない。
考えた手筈ではその時まで姿を隠している必要があり、また外見に加えて何とか動けるだけの修復は行ったものの全力で戦うにはまだ内部的な調整が必要なのだ。
見た目こそ凶悪で巨体の分パワーもあるものの、最高速で走ればまず間違いなく足に亀裂が入り、フルパワーで殴ったら破片を撒き散らして腕が砕け散る可能性がある。
あのモノの魂の位置は捕捉してあり、戦闘があれば分かるし疲弊したならその状態も分かる。
時が来るまではここの瓦礫に紛れながら躯体の万全化に専念し、機を見て一足飛びにその位置まで跳躍する。
このゴーレムの性能なら可能なはずだ。
影は影らしく、企みの実行までは隠れるものなのだ。
そして・・・・・・影の企みは、僅かな時間で瓦解した。
甲冑の戦士二人と神官戦士、魔法使いの四人組がいきなりこの場所に現れたのだ。
「魔物に対する勘が鋭すぎるのも困りものであるな」
「まったく・・・前衛二人が余計な魔物まで発見しまくるから先行していたはずの僕達が随分と遅れてしまっているよ」
『ああ、加減を覚えないといけないっぽいですね。でも・・・アレは流石に見過ごせませんよね?』
「魔族じゃあねェようだな、狼の獣人が化けたって話だし。ありゃあ多分・・・ゴーレムだよな?俺の知ってるのとはかなり違うが」
鳶色の髪と髭の甲冑男がそう言いつつ背から大剣を抜いたところに、魔法使いと神官戦士が各々の武器構えながら問いに答えた。
「間違いなくゴーレムだね。ただ恐ろしく強力な古代文明の遺産なのが、原形を何とかとどめる程度に変形していて・・・」
「そこいらの魔物よりも一章強力な瘴気を放っている。恐らくは何かに憑りつかれ、その意のままに操られているのだろう」
『・・・ゴーレムと戦ったことないんだよな。効くのかな、コレ?』
小さな黒い鎧の者が、見ただけで魔剣と分かる長剣を抜きはらった。
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全く同じ頃、最も先行していたのは斧使いアクセルのパーティであった。
彼等が真っ先にそれに遭遇するのは、至極当然ではあった。
既に最深部寸前まで到達しており、ベテランである彼らが警戒を怠り油断するようなことはあり得なかった。
それでも、突然の衝撃には対処などしようがなかった。
黒く疾走る閃光と、一瞬遅れての轟音。
アクセル以下のメンバーが身構える事ができたのは、戦闘を行くスカウトの冒険者の上半身と下半身が横凪の土煙とともにばらばらになって空中で回転しているのを見てからようやくだった。
ゼロコンマ何秒で対応できるのは間違いなく早い。
だが人の限界の埒外にある化物に対して十分かと言うと、また別の話だ。
「お前が魔族か!」
『魔族、なァ――。まー誰だっていいだろ。あの本命の小僧が来るまではアソんでやるよ』
景色が歪む程の強い瘴気を纏い、蝙蝠の羽を生やした獣人の姿をした魔族の男は退屈そうに嗤った。




