57. 光の導き ~ 魔族討伐作戦 - 5
光系統の魔力と言っても、実際に力のある光として魔法を発現させるには相当に集中させないといけない。
十分な殺傷能力を込めた攻撃魔法なら普通は肉眼でも光が見えるが、瘴気などを晴らすだけの≪浄化≫に光を見るには生まれ持った魔法的センスが必要となる。
だがそれは、ハッキリと光っていた。
街道から杭を打ち込んで伸ばしてきた魔力の道が、その場にいるあらゆる者たちに光輝いて見えていた。
すべてを包み込むような温かさ、そしてあらゆる邪悪の存在を赦さぬ圧倒的な力を伴って。
『・・・来ました!アタック開始です!』
アルトの肩に乗った子犬の使い魔・スノーの声で号令が発せられた。
冒険者たちは各々の生き方そのものの体現のような地を揺さぶる掛け声とともに、深緑の谷へとなだれ込んでいった。
『やはり・・・一時的とはいえ私がここに残ると言うのは落ち着きませんね』
『アルトよ、分かっていると思うがお主には役割は魔族と戦う他に、彼らの得た情報で地図を更新し、その情報をまた送ると言う役割がある。この強力な魔力を味方に付ける事が出来るのじゃ、少しは冒険者たちを信用するべきじゃぞ』
『分かっていますよ。決戦は私の役目です。それでも彼等が血路を開くのを座して待つのは・・・』
『ええいグジグジ言うな!良いかアルト、お主は座して待っておるのではない。ダンジョンに挑む冒険者どもを生かすためにサポートしとるんじゃ!そこから不用意に離れるなら、連中は――――死ぬぞ。それはもう全くの無駄にの』
ディロラールに強い言葉で諫められ、アルトはどこかにあったイプロディカとの戦いに逸る余り浮ついた心を落ち着かせるため、一度大きく息をついた。
『・・・済みません、やはりまだ分かってはいなかったようです』
この一時的に強化されている街道結界からの魔力は、魔物との戦いやイプロディカとの決戦の他に≪念信≫を通すことで通常よりも遥かに遠距離に届かせる効果があった。
≪聖鐘≫では分からない細かな情報を前線から送ってもらい精査、アルトからの念信一斉送信で直接冒険者たちの地図に情報を書き加えると言う事が出来る様な細工をそれぞれの地図に施してある。
本来ならある程度以上の距離の念信では送信にも受信にも高価な装置が必要だが、この聖女の魔力を通し送受信の片方がアルトであるならそこまでのものは要らない。
逆に言うと、アルト以外には出来ない。
そして最終的にこの深緑の谷のどこが魔族イプロディカとの戦場になるかわからない以上、網の目の様に広く魔力の経路を築いて行くしかない。
それはアルトでなくともよく、しかしアルト一人では絶対に無理なのだ。
仮面をつけても落ち込む様がハッキリ見て取れたアルトに対し、落ち込ませすぎるのも良くないとディロラールが話題を変えた。
『ところで、じゃが――――これだけの魔力を祈りによって生み出して、聖女なる人物は平気なんじゃろうか?』
それに答えるには人の耳を気にする必要があり、アルトは基地を見渡した。
一部残っている護衛や予備隊、倉庫番などの注目がこちらに向いている様子は無いのが無事確認された上で、アルトは答えた。
『本来は大丈夫じゃないはずです。しかしイオンズ・・・聖剣の勇者の一人が古代帝国の遺物であるアーティファクトを元にドワーフと共に作った何らかの装置で負荷が相当に軽減されていると聞きました。それがなければ三日の半分の時間も持たないと思います』
『古代帝国まで引っ張り出すか、人族は――――いや、儂が言うことではないな』
アーティファクトの作られた旧き文明は、帝国の支配階級にエルフの祖が居たとされている。
いかに元長老のディロラールと言えど流石にその時代を知っているわけではないが、複雑な気分で聞かざるを得ない名前だ。
『――――む、早速前線の冒険者から≪念信≫が来ておるな』
机に置かれた紙束の一番上に、文字や簡単な図が浮かんできた。
文字だけではなく頭に浮かべた絵もある程度送れるのが優れたところと言える。
『これは騎士団ちょ・・・謎の剣士Xさんと勇者二人のパーティが先行して入っているところからですね』
『ほとんどが魔物の情報じゃが、随分と詳細じゃのう』
『ッ!これは・・・一通り目を通したら即≪念信≫で一斉送信します。授業でも実戦でも見なかった生態や戦い方の魔物だらけです。・・・流石ですね、団長』
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「お、この地図見ろよ。余白に勝手に何か文字が書き足されているぜ」
「スゲエな・・・どういう仕組みなんだ」
神聖王国では、周辺国とは違い平民でも平易な読み書き程度なら出来る。
魔王と戦うためには効率のいい情報共有が必要だとして、比較的早い時期に簡素化された文字が共用文字として策定され、広まったのだ。
当時も一部貴族が知識を平民に与える事に反発したのだが、魔王との戦いと言う国の存在意義に関わる点を補強するものであったため、ほぼ一瞬で押し切られた。
現在では周辺国でも神聖王国との貿易が盛んな場所では誰でも使える状態だ。
そしてその遥か昔の政策が、現在の冒険者たちを生かしていた。
「ちょっと貸してみろ・・・オイオイ、見たことねえ種類のオンパレードだな」
深緑の谷攻略に参加中のそのパーティのリーダーは、長いキャリアがある男だ。
しかし彼の経験を以てしても、地図に書き足された魔物の姿や能力、擬態性は初めて見る物ばかりだ。
普段より瘴気が濃い事で魔物もあのモトローパーのように強化変異したのだろうが、それにも増して一瞬での情報共有と言うのは、実に凄まじい威力がある。
「あッ!・・・リーダー、ここに書かれている魔物ですが、ひょっとしたらあそこに・・・」
パーティメンバーの盗賊が、声を殺しながらある岩肌を指さした。
「・・・俺には何も見えないが、お前が言うならそうかもしれん」
「この情報では火に弱いらしい。ちょっとあそこに狙いは適当でいいから≪火矢≫でも撃ってもらえないか?」
そう言われて、試しに魔法使いが≪火矢≫を発動させるための集中に入った。
これは普段とは比べ物にならないぐらいの速度で魔力が回復しているから気軽に引き受けているのであって、いつもはこんなにすぐには応えるわけではない。
パーティメンバーといえど、別の冒険者同士であることに変わりはないのだ。
強力な火箭が宙を舞い、炸裂した。
『グッゲエエエエエエエェェェェェェェェェェ!』
岩壁に本体が張り付き、異常に長い脚に膜を張って下の道にまで垂らしていた爬虫類的な魔物が苦悶の声を上げて転がった。
すでに焼け焦げた頭が取れかけていて絶命必至だったが、地図に書き足された情報によれば本来であれば数人纏めて膜で絡め取り、体内に寄生させているスライムで溶かして捕食してしまうらしい。
「・・・自分の実力を忘れてしまいそうだ」
既に今までの戦闘で分かってはいたが、街道結界からの魔力を借りる事で魔法の威力が普段の倍以上と言うレベルで跳ね上がっていた。
他者の魔力を借りると言うのは本来簡単な事ではないが、街道結界は普段から光の魔法を増強する効果がある。
そして今の状態であれば、光系統に限らずその魔力を借りることができる。
「まだ休んでる暇はねえ、前に進むぞお前ら!」
リーダーの号令にメンバーは応え、気を引き締め直して陣形を整え歩き出した。
既にベテランである冒険者の彼らは知っていたのだ。
ここまでの力を大盤振る舞いされると言う事は、待っている脅威もそれに相応だと言う事を。
つまり、魔族と言うのはそういう存在らしいと言う事だ。




