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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
五. 魔族イプロディカ
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52. 魔族討伐作戦 - 2

 屋外ダンジョンである深緑の谷は、比較的狭隘な道が入り組んでいるもののその入り口はたった一つしかなく、入り口前にはまるであつらえたかのように開けた場所があった。

 討伐隊の基地はそこに設営されていた。


 後発隊が深緑の谷ダンジョン入り口基地に辿り着くと、既に戦闘で負傷した冒険者たちが多数いるさながら野戦病院のような状態になっていた。

 珍しく『こりゃいかん』と焦った様子のディロラールが基地スペースの中央に打たれた杭付近で何やら強い魔法を発動させると、一帯の精霊が活性化するのに伴い、人によっては毒や魔術的な呪いも食らっていた怪我人達の苦痛が和らいだ。

 同時に魔物の気配も遠のいた。



『この≪精霊庭園≫は魔物除けと同時に緩やかな癒しの力を持つ結界じゃ。張っとる間は儂はこの中から動けんがの』



 そうディロラールは討伐参加者達に説明した。


 基地にアルトの姿は無かった。

 冒険者たちの指揮を取って状況を何とか保っていたアクセルによると、断続的な四方からの魔物たちの襲撃に晒され続けてこの有様になっているのだという。

 アルトは襲撃がひと段落して周囲を≪探知≫しダンジョン外の魔物の密度が低くなったことを確認した後、一足先に単身でより多く魔物がやって来たダンジョンで入り口付近を掃討しに行ったと言う。



「私はそのアルトと言う人物を知らないのですが、多少能力に自負があってもそんなスタンドプレーは蛮勇と言うものではないですか?」



 神官戦士の銀勇者の疑問はもっともだった。

 だが街の冒険者ギルドメンバーで、地方都市ギルドの枠に比してアルトと言う冒険者の余りにも過剰な能力を目の当たりにしていない者はいない。

 ・・・いや、何故かタイミングが合う事がなくガメオとザアレは今まで一度も一緒に仕事をするどころか顔を合わせる事も無かったが、その名声は聞き及んでいた。


 聖女の祈りによる強い魔力が届くまでは、攻略に入るよりも基地の構築など足場固めに専心する方が基本的には良いのだが、世の中には例外を肯定する個人と言うのも存在する。

 例えば勇者と呼ばれる者たちのような。


 だがその勇者である討伐参加者の神官戦士や魔法使いにしても、入り口付近とは言えたった一人で魔族の待つダンジョンに潜るような真似をするかどうか。

 魔族の脅威は未知数だが、だからこそ慎重になるべきだ。



 その時何かに気付いた黒い鎧のミリオンが魔剣をダンジョン入り口側に向け、ほぼ同時に謎の剣士Xも背中の剣の柄に手を掛けた。

 強い瘴気と共にそれが姿を現す頃には、戦える冒険者たちの準備はほぼ完了していた。



触手の生えた車輪(モトローパー)だと!」



 柱のような体に触手を生やした魔物であるローパーの亜種に、体を車輪状に進化させより積極的に捕食行動を行うようになったモトローパーと言うものが存在する。

 轢かれて動けなくなった哀れな犠牲者に、側面の軸に当たる部分から生えた触手を突き刺して体液を啜る捕食方法の為原種に比べ触手での殴り合いは巧みではないとされる物の、車輪の直径に比して広い横幅を持ち、接地面は鱗状の黒光りしたいかにも頑丈な表皮に覆われ形そのものが殺意の塊のようだった。


 そんな自分の本能で動く人の背丈よりも大きな車輪が、五体。



『チッ、儂の結界ではアレは追っ払えん!来るぞ!』


「アルトという冒険者はコイツと鉢合わなかったのか!?」


「中は入り組んでるって話だ、普通に出会わなかったんだろうさ」




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




『アルト様、この辺りは大方掃討し終えたのでは?そろそろ戻った方がいいと思います』



 深緑の谷は、鬱蒼とした森の生い茂る上層部に亀裂のように入った渓谷だ。

 ダンジョン本体である谷底部分にはむしろ植物はほとんど生えておらず剥き出しの岩に苔が生えている程度で、通年湿気の多い空間となっている。

 遥か頭上からの光の散乱が複雑な層をなし底まで届く様は神秘的な雰囲気を強く醸し出しているが、ここはあくまでも濃密な瘴気の満ちる危険な空間である。

 アルトの周辺には甲虫型を中心としたさまざまな魔物たちの死体が落ちてあり、焼け焦げたり真っ二つになったり、凍り付いていたりとその死因はさまざまであった。


 その時、金属が擦れる様な僅かな音とともに、巨大なムカデが宙を舞ってアルトの背後から躍りかかった。

 まさに全身を巻いたバネのようにして飛び掛かる≪発条百足(スプリングピード)≫という魔物で、全長は2~3mもあり外殻は正に装甲板だ。


 しかしそのムカデの殺傷本能が満たされる事は無かった。

 地面から突き出た馬上槍のような氷柱に貫かれ、空中に縫い止められてしまったからだ。



「ありがとう、ユプシー」


『アルト様の露払いが私の役割ですから。それよりも・・・』


「ああ、そうだな。強めに≪浄化≫を掛けておけば一日程度は魔物も大人しくなるだろう」



 ユプシーの分身である子犬型のマスコットがマントの中に入ったのを確認すると、アルトは左手の短杖(ワンド)を頭上に掲げ、思い浮かべた術式に流し込んだ光の魔力を邪悪を払うイメージに乗せ、一気に解き放った。

≪浄化≫の魔法が空間内の瘴気を一気に散らし、蠢動する魔物の気配が小さくなった。



『・・・これだけの威力でも常時張られている街道結界より多少強いぐらいですよね。聖女様の魔力とは、一体どれほどの・・・?』


「少なくとも、戦いに直接関係しない光系統の魔力においては私など及ぶべくもないよ」



 ・・・まるでそのためにこの世に生まれたようにね、とはアルトは口にしなかった。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




「こいつで最後だッ!」



 飛び出した空中から数十m伸びた触手で木を掴み急降下突撃をしてきたモトローパーに対し、謎の剣士Xは真っ向から刀身が消えたかのような勢いで剣を振り下ろした。

 中央から二つの車輪に分かれたモトローパーは、切断面から血を流しながら藪に突っ込んで木々を何本か倒してそこで止まった。


 基地は縦横に異常に太い轍が走るものの、どうにか携帯式の小屋や治療中の怪我人達、食料などを収めた倉庫は無事だった。

 また突然の襲撃にも拘らず、戦闘に参加した冒険者の幾人かが負傷しただけで済んでいた。



「しかしよく分かったな、アイツラの触手があんなに器用に動いて伸びるなんて」



 魔法使いの勇者は感心を言葉にし、流石に無傷とはいかず鎧に傷がついていたミリオンに声を掛けた。

 モトローパーの触手は一般に止めと食事用であって、警戒は必要なもののそこまで巧みに動くわけではない。

 しかし襲ってきたモトローパー共は強化体だけあって触手で矢玉を防ぎ、またその辺の物を掴んで直接攻撃や方向転換に使うなど非常に強力で多彩な使い方をしてきた。


 それを最初に看破したのは、ミリオンだった。

 突っ込んできた一体を地面の狭い溝に飛び込んでやり過ごし、そのついでに鋭い魔剣で表面を軽く斬っていたのだ。

 魔剣から得た情報を時間停止しながら確認し、ギルドなどで言われているよりも遥かに触手が厄介に動く事を確認し『強化体だ!コイツラの触手は伸びるぞ!』と叫んだのだ。


 ミリオンの正体がガメオであることはハチェーテから聞いていたアクセルはその言葉を受け素早く指示を出し、分断させたうえで≪砂化≫による生き埋めや触手への集中雷魔法、触手の根元の氷結、方向転換のために掴もうとした岩を破壊して崩れたところに近接での集団ごり押しなどで各個撃破に成功したのである。

 ミリオンは最初に叫んだ以外は触手を二本ほど斬っただけだが、はじめのそれが無ければ全滅・・・までは行かなくとも半壊していてもおかしくはなかった。


 なお魔法使いが先に声を掛けた事で、ザアレはガメオを労うタイミングを失って『うぅ~!』と歯噛みした。



 オウガを見えない太刀で真っ二つに続き非常識な活躍を見せた謎の剣士Xは、基地の冒険者たちがミリオンを見る目を確認して少し考えていた。

 そして実質現場指揮官であるアクセルに歩み寄り、ある提案を行った。



「・・・正気か?って言いたいが、あんたほどの人なら理由もなく言い出す事でもないだろうな。取り敢えずは聞かせちゃくれないか」

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