51. 魔族討伐作戦
当たり前だけど人に石を投げたら暴行罪、怪我人が出たら傷害罪になるので絶対にやめてね!
森の道を、数多くの冒険者の集団が徒党を組んで進んでいた。
先頭を歩く統率役の冒険者アクセルは斧を中心にいくつかの武器を装備しており、彼の横には犬の面をつけて肩に灰色の子犬を乗せた少年アルトが皮装備の上からマントを羽織っていた。
『そろそろ杭を打ち≪浄化≫します。準備お願いします』
荷物係を兼ねた盗賊のホビットがそれに応えて背中の背嚢に手を入れ、≪収納≫の魔法で見た目を遥かに越えた容積となっているそこからミスリル合金の含まれた杭を取り出した。
一人の冒険者がハンマーでそれを地面に打ち付けると、光系統の魔力を発し始めた。
「上手い事街道結界から魔力は来てるようだな」
『そのようですね、ではやります。≪浄化≫!』
犬面の少年冒険者アルトが使い魔の子犬の口を借りて答え、両手を天に掲げ強力な≪浄化≫の魔法を発動させた。
それは杭からの光の魔力と共振を起こし、普段から強力なアルトの魔法がさらに増幅された大威力の浄化となって広範囲の瘴気を晴らした。
神聖王国では王都を中心に放射状に延び、また街同士を環状に繋いでいる街道が整備されていた。
これはただ移動のための道路と言うのみならず、魔物を遠ざける光の魔力が常に流れている街道結界と呼ばれる役割もある。
王都の大聖堂で生み出されている光の魔力は各街の教会・礼拝堂などを経由することで増幅され、もしもの時には特定の討伐戦のために使う事も認められていた。
ただこの街では今までそれが必要となる事態は無く、ハチェーテが提案するまで誰も気づかなかった。
街の神官戦士を通じ王都まで知らせる事で許可が下り、王都からの≪光鳥≫での返信は「聖女は三日間だけ通常より強い祈りを捧げる」という内容が含まれ、全ての準備はその日取りに合わせたものとなった。
深緑の谷攻略は聖女の祈りで強まった街道結界の魔力をフルに使いたいので入り口基地の設営はそれが始まる前に行いたいところだが、このペースなら余裕をもって間に合いそうだ。
だがその時、一行に向かって魔法や毒液の雨が降り注いだ。
あちこちで上がる悲鳴、しかし怒号と共に魔法や矢での反撃もすぐに始まる。
襲撃してきた魔物たちはあっという間に駆逐され、負傷した冒険者たちもすぐに治療された。
「・・・前に来た時より魔物どもの手ごたえが強いな。魔族の影響だろうか」
『そこも考えて街道結界を使用するのです。あのレベルの魔物であれば、聖女様の祈りの時の間は杭の周りには近寄れず、設営した基地の安全は確保されます。魔族打倒のために使う魔力の副産物と言っては言い方が悪いかもしれませんが』
そんなアルトの言葉にアクセルは引っかかった点があった。
「ん?まるで聖女様の本気の力を知っているみたいな言い方だな」
『え・・・ええ、以前王都で、ちょっと』
アルトの言っていることは、ある意味においては教皇以上に重要人物とも言われる聖女の緊急事態時の力を目の当たりにしたことがあると言う事だ。
それに立ち会える人間なんて、教会の重要人物か王様、または聖剣の勇者かそこらへんに限定されるのではないだろうか。
しかしアクセルはそれ以上深くは追及しなかった。
今は魔族討伐に集中すべきなのが第一だが、仮にアルトがそう言った立場の人間だとしてもさもありなん、と自然に受け入れられるだけの力や知性を見せているのもあった。
瘴気を晴らして光の魔力の通りを良くしつつ杭を打ち込んで行き、魔族を倒すための力を届ける。
今は何よりそれを考えるべきだ、とアクセルは両手で頬を張った。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
魔族イプロディカの待つ屋外ダンジョン・深緑の谷に挑む冒険者グループは大きく二隊に分かれていた。
アルトとアクセルに率いられ浄化と杭打ちを行ってダンジョン入り口に陣を張る第一隊と、基地用の荷物を運び込む第二隊だ。
ディロラールや謎の剣士X、そしてミリオン・ミラージュことガメオは第二隊だ。
ザアレも姿を隠した状態で着いて来ていた。
また今代初の魔族討伐と言う事でたまたま間に合う距離の近隣の街にいた銅勇者の魔法戦士と銀勇者の神官戦士も同行しており、アルトを除く主戦力は実質こちらであって第一隊は言い方を選ばなければ露払いに近い役割である。
しかし二人の勇者は、どう見ても自分達より強いのに勇者名簿にない甲冑の男とエルフの男がそこに加わっているのに多少の混乱を禁じえなかった。
また甲冑の剣士の弟子らしい、明らかに魔法の黒い鎧に身を包んだ少年も強くは無いが訳が分からないものを感じさせる。
その異変に最初に気付いたのは謎の剣士Xとミリオン、次いでディロラールと勇者二人組だった。
聖女の強い祈りが届くまではそれぞれの杭を冒険者パーティが守っているのだが、そこには血まみれの冒険者が一人倒れているだけだったのだ。
「オウガ・・・仲間が・・・やら・・・」
駆け寄った謎の剣士Xにそう伝えた冒険者が気絶すると、神官戦士が傷口にゼリーを差し込み回復魔法を発動し始めた。
それを中心に円を作り外側に各々の武器を向けた形になった謎の剣士X、ミリオン、銅勇者の魔法使い。
ディロラールは後続で馬車を守っていた。
やがて繁みの中から現れたのは、返り血に染まった三匹のオウガだった。
即席パーティーに対して連携されると不味い、という所にディロラールからの≪風爆槌≫が飛んできて炸裂、オウガたちが衝撃でバラけた事で三対三だったのからちょうど一対一が3つ、と言う状況に作り替えられた。
謎の剣士Xとオウガの決着は一瞬だった。
いや、正確にはどの瞬間に全てが終わったのか誰の目にも分からなかった。
謎の剣士Xが不意に構えを解き背中を向けたところに、猛ったオウガが棍棒のような武器で殴りかかろうとしたところいきなり胴に線が入り、それに沿って体がゆっくりとずれて上半身が斜めに落ちてしまったのだ。
それは武器を使う者であれば、所謂袈裟斬りの軌道である事が一目で分かった事だろう。
後ろで見ていた冒険者たちはその異常な光景に、言葉を失った。
銅勇者の魔法使いとオウガの戦いもまた一方的な物だった。
唸る巨体で殴りかかってきたところに足元を≪砂化≫、オウガの体が沈んでしまったところで魔法を解きただの土にオウガが埋まっている状態にした。
動けないわけではないが完全に隙が出来てしまったところに、術者の技術と魔力次第で発生させられる数が違ってくる≪炎蛇≫の魔法を十数にも及ぶ数で発動。
目や口から侵入されて体内を直接焼かれたオウガは見る間に真っ黒焦げの死体になった。
ミリオンと対するオウガは雄叫びと共に、丸太に尖った石をいくつも突き刺した棍棒のような何かを振り下ろした。
凄まじい腕力による一撃は爆発のごとき轟音と共に土煙を上げ、地面をすり鉢状に抉り取った。
ミリオン=ガメオは実際にオウガと戦うのは初めてだったが、対峙して見てあの虚の飛竜に及んでいないのはハッキリと感じていた。
初撃を避けられたオウガは間髪入れずに横薙ぎを放ったが、それも避けられたと同時に右目に鋭い激痛を感じた。
何の事は無い、その辺に落ちていた手頃な尖った石による投石攻撃だ。
ガメオの魔剣は以前アクセルから瘴気を吸い取った際、同時にその技の再現を可能とする幻影をコピーしていた。
彼は冒険者として生き残るために実に多彩な術を習得しており、その中には優れた投石術もあったのである。
投石と言うのは戦場において最も人間を殺した武器と言われており、魔法が発明された以降も魔法を持たぬ者の武器として、また魔法と共に使う技として広く使われていた。
堪らず片目を抑えるオウガだが、流石にタフな魔物だけあって出来た隙は一瞬だけだった。
しかしその一瞬があれば十分だった。
昆虫タイプの魔物が見せるような、一歩目から十分に速度が乗っているダッシュで黒い鎧がオウガの股をくぐり、同時に手にした魔剣が両脚の膝の裏を切り裂いていたのだ。
体勢を崩しながらもオウガは自分を傷つけた敵を排除すべく、見もしないで適当に棍棒を横に振った。
当たりさえすれば即死は必至の体格差だ。
だがその時にはもうミリオンは森の木を蹴った空中機動でオウガの首に取りつくところだった。
大振りの魔剣を振る余裕のある間合いではなく、既にオウガを倒した謎の剣士と魔法使いの勇者は首にダガーでも突き立てるのかと一瞬想像した。
だが、それは悪手だ。
オウガの皮膚とその下の肉と言うのは正に鎧と言うにふさわしく、ダガーでは逆に刃が負けて欠けてしまったり、刀身そのものが肉に挟まって取られてしまう事もよくあり、オウガと初めて戦った者がよくそれで致命傷に程遠い手傷を与えた代償に命を落としているのだ。
しかし次の瞬間の光景は、観戦者たちの想像の斜め上を行っていた。
黒い小手に覆われた拳が突き出され、それを食らったオウガの首が「ゴキィッ!」と言う余りにも耳に残る音とともに見るも無残な角度に捻転してしまったのだ。
これは炎の勇者シグナムの技の中にあった体術の応用で、外からは打撃のように見えて実際には関節を外す事を目的とした言わば「拳によるサブミッション」であった。
最も、オウガの分厚い筋肉に覆われた頑丈な頸椎を標的にそれが可能なのは彼の膂力あっての事であり、シグナム本人にもまず無理である。
「まッ・・・まだだ!オウガには≪狂化≫が・・・」
と銅勇者の魔法使いが警句を叫ぼうとしたが、倒れるオウガの首に取りつきながらも全身黒い鎧の少年はキッチリと魔剣をオウガの後頭部に突き刺していた。
首を捻じった時点で命は無いが、それでもしばらくは動いて≪狂化≫で暴れまわる可能性があるのは膝の後ろを斬った時点で魔剣を使って「見ていた」のである。
同行していたザアレは姿を隠したまま『どうだっ!』と胸を張ったが、当然見ている物はディロラールぐらいしかいなかった。
まあ黒い鎧が虫っぽい素早い動きをして見せた場合受ける一般的な印象は、特に女性にとっては受けが悪い物を含むのだが。
事実何人かいた女性冒険者はミリオンの戦闘を見て、元々無かったお近づきになりたい気持ちがさらに低まっていた。
既に辺りには魔物の気配はなく、負傷していた冒険者も一命を取り留めたようだ。
「ぶっははは、まさか素手でオウガの首を捻じるとは思わなかったぜ!」
『おれの剣の腕だと首の肉に剣を絡め取られるとか、あんまり効かない感じがしたからな』
あの空中の体勢、あの間合いで使える攻撃のほとんどが、次の瞬間にオウガの反撃を許す可能性がある物ばかりだったのが分かっていたのだ。
だから確実に動きを止め、落ち着いて止めというプロセスを選んだのである。
『・・・そう言えばオウガで思い出したんだけど、聞いていいか?』
「オウ、何だ?」
『オウガのあの丸太っぽい奴の振り下ろしを、魔法も使わず技だけで真正面から音もなく受け止めるのって、どのぐらいの腕があれば出来るんだ?』
フェアリー族の戦士長ヴギルがオウガ相手にやっていた芸当を少年は思い出し、たまたま目を付けられ同行する羽目になった謎の剣士Xとかいう腕だけは常軌を逸している男に訊ねたくなったのだ。
オウガの打撃はちゃんと地面を叩けばこの通り、直径1mと半分程度のクレーターが出来る程の威力があるのである。
聞いた話では妖精戦士たちは現在訳あって人間界では全力が出せず、ヴギルに至っては魔法は全滅、剣も通常の半分程度の技量しか発揮できていないという。
それなのに、彼はそれをやった。
「そっそんなの、人間に出来るわけないだろ!あり得ない!」
「いや、あんたに聞いたわけじゃないだろ・・・そうだな」
思わず口を挟んだ魔法使いの勇者を制し、謎の剣士Xがミリオンに答えた。
「もしそんな奴がいるなら、だが・・・この俺が物凄く興味がある程度、だな」
あ、やっぱりその異次元レベルなんだ、と鎧の下で少年は心から納得を覚えた。
その時隊列の後ろの方から魔物の襲撃があったような騒ぎの音が聞こえたが、腕利き揃いらしく瞬く間に排除されたようだ。
まだダンジョンにも入っていないというのに、この領域は既に魔物たちのための世界なのである。
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