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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
五. 魔族イプロディカ
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50. 作戦会議と脳筋魔力修行

 ちょっとお待たせしました。

 蒸気サマーセールは恐ろしいですね(言い訳)。

 王都のものほどスペースに余裕のない地方都市の冒険者ギルドは、一つの施設が複数の用途を兼ねていることがよくある。

 普段屋外訓練所として使われる開けた場所は、余り機会はない物の多くの冒険者たちを集める場合などには必ず利用されている。

 そして現在、大規模依頼の魔族討伐及びダンジョンの魔物の間引きのミーティングのために、参加予定の冒険者たちの主だった顔ぶれが集まっていた。


 流石に魔族となると依頼を通り越して作戦の域にまで話を詰めないといけないが、魔族と言っても前回の魔王の時代以来この世のどこにも存在せず、言うまでもなく戦った人間もいないためどこかだらけたと言うか、舐めたような空気を醸し出している冒険者も居なくはなかった。

 つまり、魔族と言うのは本当に伝説にあるほど強いのか?と。


 まあそんな空気がどうでもよくなる程おかしな様子の人間が、その実質中心に陣取っているわけだが。



『・・・という訳でアルト様は、魔族を打倒しユプシー様を助けるまで人前ではこの面を被り、言葉も発さぬと言う二重の誓い(ゲッシュ)を立てられました。しかしそれでは不便があるため、使い魔である私スノーがアルト様の代わりに言葉を発することにしております。直接思念が通じているため問題はありません。以後お見知りおきを』



 ミーティングに当たり、光魔法を始めあらゆる系統を使いこなし凄まじい魔力を誇るギルドの最高戦力の一角である作戦の中心人物、件の魔族とも戦った≪彩色魔術師(プリズムアート)≫アルトが一同の前に立っていた。

 だがその顔には狼を象った面を被り、肩に乗せた灰色の子犬が本人の代わりに喋ると言う異様な状態だった。

 なおこの面はたまたまユプシーの荷物にあった物だった。


 ・・・この変装は言うまでもなく、なぜかこんな所に魔族討伐に加わりに来た騎士団長ラムザイルから勇者アルテアとしての正体を隠すためである。

 その謎の剣士Xを名乗る騎士団長は、この作戦会議には参加していない。



「本人であることはギルドマスターたる俺が保証する。誓いの立会人になったからな。まあ、魔法を自在に使える子供の冒険者というのがそもそも珍しいからあんまり隠してるとも言えないが」



 アルトの強さや優秀さに関して疑問のある冒険者はこの街にはおらず、多少おかしな空気にはなったものの話の腰を折るほどではなく、議論は続けられた。

 まずは冒険者の一人からアルトに対し、会敵した魔族の強さが如何程であったのかと言う当然の疑問が投げかけられた。

 その答えとしてアルトは、刀身部分が熱か何かで根本付近で融けて無くなったのが一目で分かる剣を取り出した。



『これは敵の攻撃ではなく、私が光の魔力を全力で込めた事でこうなったものです。この剣での一撃は流石に有効な打撃にはなりましたが、それでも余裕をもって耐えられました』



 一堂に緊張が走った。


 光系統の魔力というのは通常は物理的威力を持ちにくい一方、瘴気によって変異した魔物相手には非常に有効という特性がある。

 それを刀身が蒸発するほどの程の強さで集めたならば、食らって無事でいられる魔物など常人には想像もつかない(なお以前滅ぼされた村に向かう途中でアルテアの剣がゴブリンの一団を吹き飛ばしたのは、魔物が光の魔力で致命傷を負う際爆発などの物理エネルギーに変換される現象が起こるためである)。


 そんな一撃を、余裕を持って耐え切ったと。


 魔族の強さを大げさに吹聴していると疑っていた疑念は消えたが、今度は冒険者たちが尻込みし掛けていると言う問題が発生した。

 さらに変身を残している、などと余計なことを言わないアルトの判断は正解であった。

 既にイプロディカによると思しき襲撃で幾つかの村や集落が滅んでおり、ギルドどころか領として討伐は一刻も早く行われなければならず、士気を削ぐ分けにはいかないのである。


 そして当たり前の議論の流れとして、どうやって戦うかという話となった。

 危険を冒して光系統の使い手を全員ぶつけるのか?と。

 


「当然ながらプランの用意はあります」



 それに回答したのは、資料を手にした眼鏡のギルド職員ハチェーテだった。



「≪街道結界≫から光の魔力を引きます」




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




「さてそろそろ体もこなれてきたところか」



 拠点の街のはずれの草原で、謎の剣士Xを名乗る鳶色の髪と髭の男が少年を見下ろしていた。

 流石に重い甲冑はギルドに置いてきていたが、現在はミリオン・ミラージュと名乗っているガメオは頭だけ漆黒のフルフェイスの状態で地面に転がっていた。

 腕輪の鎧と言うのは召喚時に本人の意思に反応し、こう言った形態も取れるのだ。

 なおザアレは物陰に引っ込んだうえで姿隠しで消えているのだが、それでもあの男には普通に気取られているのがさっきから見て取れていた。



『・・・これでこなれてきたとか、どういう体力だよ』



 ガメオの体力は既に野生の魔物並みにまで向上しているのだが、それを木刀の打ち合いでここまでヘロヘロにさせて置いて自身はケロッとしている剣士Xのそれは最早意味が分からないレベルだった。



「今からやる事に余計な力が入ると危ないからな。っつーわけで」



 謎の剣士Xはミリオンと名乗る少年を上半身だけ起こさせ、その背中に自らの右掌を当てた。

「はっ!」という気合の声と共に少年の体内に衝撃を伴う熱が放たれ、自らの中に荒れ狂う謎のエネルギーに堪らず、全身の疲れにも拘らずそこいらを勢いよく転げまわった。

 思わずザアレが飛び出しそうになったが、謎の剣士Xに目で制された。



「うお・・・スゲェ暴れるな・・・いや、何でもいいから楽な姿勢を見つけろ!そしてそのまま収まるまでキープだ!」



 ガメオが転がりながらなんとか見つけたのが、倒れたままで左膝だけ立ち上半身は海老ぞり、右腕は左肩を抱え左腕が前方に思いっきりピンと伸びると言う何とも言えないポーズだった。



『・・・あー・・・どうにか・・・』


「収まって来たな。さてミリオン、お前が今体の中に感じているのが≪魔力≫と言うやつだ。俺の魔力に反応し、お前自身の魔力が暴れたって事だ」


『魔力、だって?』



 その言葉にガメオは驚かされた。

 横で聞いていたザアレの『ええーっ!?』と言う音にならない声も聞こえた。

 魔力と言うのは個人差が極めて大きく、魔法使いの才能がある者であれば潤沢に有し、無い人間はほとんどゼロに近いと言うのが一般常識だからだ。

 もっと言うと、魔法を専門に研究する学者や、魔法の使い手としての道を邁進する者たちにとっても絶対不変の通説と言うものでさえある。



「どいつもこいつも勘違いしているが、人間以外の種族はどうか知らんが俺が見た限り、人間であるならば()()()()()を除けば魔力と言うのは誰でもほとんど個人差ない量を持っているものだ。世の中で所謂魔力と呼ばれているものは、体の外に出せる分だけが観測されているものに過ぎん」



 彼の言っていることは、もし仮に事実であれば世界中の魔法研究者が資料を破り捨てて狂ったように泣いたり笑ったりするのが避けられないような重大な事だ。

 但しこの剣士Xが言う「体の外に出せない魔力」と言うのはそれを持っている人間の内観と言う個人の感覚以外では感じ取る事が出来ない物で、絶対に外からは観測不可能なため取り敢えず研究者たちの正気は安全である。

 そもそも、これが本当に正しい意味での魔力なのか誰にも分からないのだ。


 ようやく完全に体内の嵐が収まったガメオは体を起こしたが、それでも今までは意識できなかった自身の体内に満ちる温かい力の感覚だけは残っていた。

 それに意識を向ければ感じ取れる、そういう物として。



「まあ、大抵の魔法の修業は体の外に出せる魔力が無いと最初の取っ掛かりさえもねーからな。それが出来ないイコール才能がない、と見るのも間違いじゃあない。≪火矢≫や≪回復≫みたいに直接外に出す現象としての魔法を絶対に使えないって事だからな」


『これが魔力なのは分かったけど、魔法が使えないんじゃ意味がないんじゃ?』


「ある。現に俺はその手の事が使えないわけじゃないがぶっちゃけヘッタクソだ。それでも、自分自身の魔力を意識出来るか否かでまず魔法抵抗が天と地ほどに違う。あとそれ程劇的ではないが、ピンチの時に魔力を意識するだけで骨折するところがヒビで済んだり、毒や精神攻撃に意識的に強く抵抗出来たり、もう動けないって所であと少しだけ動けたりと万事に於いて数段粘り強くなれる。俺の騎士だ・・・仲間にも魔法の使えない奴がいるが、そう言うやつにもこれを覚えさせてある。と言うか、魔法が使えない奴の方がこの恩恵が大きいぐらいだ」



 それが一般に言う魔力と、身体の外に出ないから観測できない分の魔力が同じリソースから分かれているものだと剣士Xが判断している最大の根拠だ。

 あと彼が騎士団と言いかけたのをガメオは聞かなかった事にした。



「お前には足りんモンが色々あるが、取り敢えずこれさえ完全に習得すれば魔族のいるダンジョンに潜っても死にゃしねえ」


『完全に習得』



 ガメオはその言葉に、嫌な予感がした。

 つまり覚えるにはこれからさらに苛酷な訓練が必要であり、この男の今までの言動から考えて荒っぽくて手っ取り早い方法を取ることが瞬時に予想できたからである。

 ちなみにここは草地だが、すぐ横には転げ落ちればいかにも危なそうな危険な崖があった。



「つーわけで・・・行ってこーい!」



 謎の剣士Xが少年の襟首を掴むと、頭だけ黒いフルフェイスの少年はそのまま宙を舞い崖下に向かって真っ逆さまに落ちて行った。



『うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・』


『いやーーーーーガメオーーーーーっ!』



 フェアリーの姿隠しによりザアレの姿が見えず、当然叫び声も聞こえていないはずの男は当たり前のように、姿も何も知らぬままザアレの動きを諫めた。



「アイツを追うんじゃねーぞ、生きるための修行だからな」

 50話記念だけど特に何もないです。

 しかしいつもお読みいただきありがとうございます。

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