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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
五. 魔族イプロディカ
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49. 魔法少女のマスコット

 魔族対策の一環に組み込まれていた深緑の谷大規模討伐が、期せずして魔族討伐本番となった。

 事態を動かした張本人であり、また情報をもたらしたアルトはそこへ率先して向かい、必ずユプシーを救うと誓っていた。

 動かすのも危険な状態のユプシーはギルドの一室を借り、そこに寝かせている。



 救出から数日経つが、未だに彼女は目を覚まさない。

 ギルドの治療士やディラロールによると、まさにイプロディカが言っていた通りの命の危機の状態ではあったが、それでも目を覚まさないのはおかしいと言う。

 魔法を使っているのに近い魔力状態だというが・・・。


 今は上の方でダンジョンブレイクをするかどうかで揉めているらしいが、イプロディカさえ討てればどっちでもいいので早く決定してもらい、一刻も早く討伐に向かいたいとアルトは思っていた。

 一人で向かうのだけはやめろとギルドマスターにもディロラールにもアクセルら先輩冒険者からも口を酸っぱくして大量の釘を刺されており、流石に動けない。


 ユプシーが眠るベッドの横に座り、何もできない時間を焦れた気分でただ過ごすのに、アルトはよく耐えていた。

 しかし流石に疲れが溜まったのか、その時はうとうとしていた。



 ふと、膝に何か小さくもふもふして暖かいものが乗っかっているのにアルトは気付いた。



「・・・・・・犬・・・子犬か?ギルドに入ってきたのかな」



 その子犬の体毛は、どことなくユプシーに似ている灰色のように思えた。

 つぶらな瞳をアルトに向けたその子犬は、元気よく「ワン」・・・と吠えると思いきや、予想外の事態が起こった。



『ああ、ようやく実体化できましたアル・・・ト様。』


「!・・・?」



 アルトは、その声に聞き覚えがあった。

 と言うかその元になった声よりだいぶ幼い印象のある声を、目の前の犬が発していた。



「まさかお前・・・ユプシー、なのか?」



 今度の答えは子犬らしい「ワン」という一吠えだった。



―――――――――――――――――――――――――――――――



「・・・話は大体把握した。つまり君はユプシーの能力で作られた、所謂使い魔に近い存在と言う事だね?」


『正確には魔法少女装束(ベスティチャール)に付随する能力ですけどね。獣人の戦装束の中でも魔法少女タイプにだけ付いてくる≪マスコット≫と言うものです』


「・・・そうか、初めて会った時に私が見たユプシーの魔法同時発動は」


『そうです。(ユプシー)が瞬間的に(マスコット)を顕現させ、それで魔法制御力が都合二人分に増えればそれほど難しい事ではないのです』


「だが魔法同時発動を容易にするのみならず、様々な強みのある能力であることが想像がつく。主にも明かせない秘術扱いも仕方ないな」



 本人と感覚を共有し、同じ魔法まで仕えるのに誰にも警戒されようがない小さな動物で、どこにでも進入できるというのは仮に敵が使ってきたらと考えると恐ろしい事この上ない。



『ですが本来はただ単純に可愛らしく主をサポートする存在です。恐ろし気な秘術扱いになったのは作った先祖も遺憾なことでしょう』



 一通りの話でユプシーとそのマスコットである子犬についての事は分かった。

 ユプシーはマスコットを顕現させる為の魔力を練るのに専念するため、眠りから敢えて醒めなかったのだ。

 と言うわけで、アルトは次の質問に移った。



「マスコットを出すことに成功したのは分かった。それで、君は何をするつもりなんだ?まさか・・・」


『ハイ、そのまさかです!これで私も討伐に着いていけます!』


「だ、ダメだ!危険だ!」



 本人と同じ思考、同じ魔法を使えるとしても、その肉体は脆い子犬の物に過ぎない。

 そして受けたダメージは本人にフィードバックされると言う。

 魔物の跋扈するダンジョンなど、わざわざ餌になりにいくようなものだ。



『お願いします!私ならアルト様に使えない氷結魔法をカバーできます!』


「だが・・・」


『危険と言うなら一時的にアルト様と主従の紲を結ぶことで、魂の中に隠れることだって可能です。私は一度、誰も巻き込まぬよう独りで兄・・・あの男に挑んで敗れました。だからこそ分かるんです、ああ言う脅威にはたった独りで挑んではいけないんです!』



 マスコットである子犬の口から語られるユプシーの言う事は、分かる。

 アルト=勇者アルテアにしても飛竜の時も、イプロディカとユプシーを探して暴れていた時も独りで突っ走ったから失敗したのだ。

 

 それでも・・・と悩んでいるアルトの耳に、何やら騒がしいギルドの音が飛び込んできた。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




「俺も魔族討伐に参加するぞー!っつーわけで受付のお嬢さん、俺もこのギルドに登録したいんだが」



 鳶色の髪と髭に騎士団じみている全身甲冑の男が、片手に材質の良く分からない黒い全身鎧で顔も見えない少年と思しき体格の何者かをぶら下げて登場してこんなことを言い出しておいて、荒くれだらけのギルドがおかしな空気にならないわけがない。


 全く季節の変わり目とデカい山が重なると変な奴が湧くもんだぜハッハッハ、ようオッサン頭の療養所はココじゃなくて教会だぜ、というまあ冒険者ギルドに割とよくある状況が展開された。

 表出ろやオラァ、となったあたりでいつのまにか床にポイッと投げられて解放されていた小さいほうの黒い鎧が、受付のハチェーテまで這って到達していた。



『あ・・・あの、ボクは登録名ミリオン・ミラージュでお願いします・・・魔族討伐参加希望、です・・・』


「!・・・あなた、もしかしてガ・・・いえ・・・」



 それはハチェーテがガメオに付けようとした二つ名だった。

 目の前のガメオとおなじぐらいの体格の全身鎧の少年と思しき人物は、顔もフルフェイスで見えず声も何か魔法的な効果で変わっているのか全く聞き覚えの無いものだった。

 しかしその鎧の少年が出してきた名前、そして全身で発している(あんなの相手に顔と名前晒して関わりたくないんですお願い助けて)と言う声にならない声を、ハチェーテは正確にキャッチした。


 冒険者の二重登録は本来はペナルティものだが、愛する未来の夫の命の恩人の頼みとあっては素知らぬ顔で受け付ける他あるまい。



「ハイ、確かに登録しました。でも()()()()()余計な騒ぎは起こさないでくださいね?」


『・・・分かりました、分かってます・・・』



 そうこうしているうちにギルドの前で起こっていたケンカは終わり、ただ一人の勝者が威風堂々と再び入館してきた。



「肉食って酒で流し込みたくなる程度には運動になったぜ。んじゃ登録頼むわ。俺の名前は・・・そうだな」



 受付の前まで行った男は、登録用紙にサラサラと記入した。



 登録名:謎 の 剣 士 X



「っつーわけで俺は謎の剣士Xだ、よろしくな!」



 現在ギルドに居る中で正式な戦闘訓練を受けた者、または勘に優れた者は一人残らず「謎の剣士X」などと言うふざけた名前を名乗ったその男が絶対に敵に回して戦ってはいけない種類の人間であることを察していた。

 ヤバさには倫理観が欠如してるとか執念深いとか種類があるが、ただ単純に、圧倒的に「強い」と言うだけでそれを余人に感じさせるなど間違いなくただ事ではない。


 そしてそんな奴に明らかに目を付けられてしまったガメオ、いやミリオン・ミラージュにハチェーテは同情を禁じえなかった。

 強く生きてほしい。


 そしてそんな一連の騒動を、2階吹き抜けの廊下の床で頭を低くして観察していた少年が一人。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 なんで・・・。

 なんでこんなところに・・・。



 ラムザイル騎士団長がいるんだよーーーーーーー!?



 騎士団長ラムザイルはアルト=勇者アルテアの顔も声も知っている。

 療養中という事になっているアルテアがこんなところで冒険者活動中と言うのを見られたら、どんなトラブルになるか分かったものじゃない。

 いや、そうなるのは確実だ。

 冒険者ギルドにエントリーと言う程度の事でさえこんな騒々しくしてしまう彼の事だ、それはもうエライ事になるのは決まっている。


 いや聖剣の勇者と言う立場が仮に公にはならなくても「鈍ってないか見てやる」とか言ってボコボコにされるのは間違いない。

 いや鈍ってるに決まってるでしょーが、一応病み上がりでリハビリ中ですよ!?


 と、実際には無い会話さえも幻聴で聞こえるほどにアルトは騎士団長ラムザイルを恐れていた。



『あのー、アルト様?あの方に会うのがマズイ、と言う事でしょうか?』


「ああそうだよ、今すぐこの悪夢が醒めることを心から期待する程度にね」


『でしたら私、お役に立てますよ?もちろん討伐に連れて行って頂けるなら、ですが』



 灰色の子犬は、可愛らしさに狡猾さを秘めた表情でアルトを見詰めていた。

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