47. 新魔法≪聖鐘≫
『ふむ、妖精の粉――――か。確かに口止めはしておらなんだが、あまり言いふらされるのは多少困るのう』
「私が無理に受付の方から聞き出したんです、ディロラールさん。それがあれば・・・」
『そろそろ本調子近くなってきた【勇者アルテア】の魔力を妖精の粉でブーストして、お前さんの相棒の場所も≪探知≫できる、か?』
ディロラールはギルドの宿ではなく、もう少し金を払って街外れにボロいがちゃんとした一軒家を借りていた。
エルフの不可思議な薬や魔法道具を財産に換えれば相当な額になり、完全に趣味として冒険者をやっている彼には快適な一人暮らしと天秤にかけるような出費でもないのだ。
こう言った客人が居た場合にも、人の目や耳を気にせずに済む。
アルト=勇者アルテアは魔族の影響で一度変異した状態から治ったという斧使いの冒険者と、その婚約者から強い精霊の気配を感じ、もしやと思って聞き出してディロラールに辿り着いたのだ。
「・・・ご存知だったのですか?」
『お前さんに関しては確証がなかったが、勇者というのは先代やその前のも見た事があるからの。後はまあ色々情報を繋げば結論も出るってもんじゃよ』
だったら、と気が逸るアルトをディロラールは手で制した。
『それはやめておけ』
「何故!こうしてる間にも彼女はッ!」
『全然間に合わんからだ。仮にお主が全力を出せ、妖精の粉一瓶使って≪探知≫の直径が2~3倍になったとしてダンジョン一つと、せいぜいその隣のダンジョンぐらいまでじゃろう。この大地と言うのはな、本当に広いんじゃぞ?』
「・・・それでも」
『それでも、と寿命を削るような魔力の使い方で連発したとしても、じゃ。まさか選定の儀の時の光の聖剣並みに、国全体に届く様な力が自分の中に都合よく眠っているなど期待しているわけではおるまいな?確かにお主の力もあるが、あれは聖剣に長年蓄えられた人々の膨大な祈りと聖剣自体の魔力増幅能力やら何やらがあっての物じゃぞ?』
本当は真の聖剣である光の聖剣にはもっと壮大な仕組みがあるのだが、アルトにはまだ早いとディロラールはその辺をわざとぼかした。
「・・・わかり、ました・・・。もう頼みません」
そう言い残したアルトは、乱暴に立ち上がってドアから飛び出した・・・わけではなく、エレガントさのある振る舞いで、なおかつ驚くほど素早くボロ屋の中から去った。
この辺りは育ちの良さであろう。
『あーもう待てっちゅーに!――――同じガキでもどこぞの黒髪は跳ねっ返りじゃが、あれは意見も情報も聞かん意味で聞かん坊じゃな!』
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魔物を探す、殺す。
より強い魔物を探す、そして殺す。
少しでもあの魔族に近い気配が感覚に引っかかればそこに飛び、殺す。
ディロラールの魔法をヒントに、≪風爆槌≫を遅延セットした上で自身の体重を地系統魔法≪軽減≫で軽くし、数百m単位で一気に吹き飛ばされるという無茶な移動方法を使ってそんな事を繰り返すアルトだったが、当然それでユプシーとその兄である魔族化した獣人イプロディカが見つかるわけはない。
全身魔物の血と泥に塗れ、息を切らせながらも疲れより焦りの色濃く滲む壮絶な様子のアルトに、遠くから追いついたエルフの声が届いた。
『だから待てっちゅーに、本当に人の話を聞かんやっちゃのう!』
「ディロラールさん・・・どうしてここが」
ディロラールは、アルトの背中に付着していた光の粒を指でつまんで見せた。
「精霊虫・・・」
『こんなモンにも気付かん状態じゃあ何をやっても上手くはいかん』
「でも私は・・・ユプシーを・・・!」
『だから聞け言うとるじゃろうが――――手はあるかも知れないんじゃよ』
その言葉に、アルトはようやく絶望の中の焦り以外の光明を見た。
思わずディロラールに思いっきり「本当ですか!」と縋りつきそうになった所を魔法で浮かされてそこに座らされ、無理矢理落ち着いて話を聞く体勢にさせられた。
『まず≪探知≫とは、魔法と見做されがちじゃが魔法ではない。魔力そのものを操作する技術の一種じゃ。では、魔法と魔力操作技術の違いとは?』
「・・・魔法は術式と言う型を使い、自身と親和性の高い精霊の力も借りることで単純に魔力を操作するだけに比べてより少ない力で、より大きな効果を得られる事が出来る。ただし魔力操作に比べ自在な使い方は出来ない」
『流石に勉強しておるな。そして五感や魔法的感覚を増強するのについては魔力操作も、魔法も存在する。だが広範囲の情報を一度に得る≪探知≫については魔法は未だに存在していない。何故かわかるか?』
「いえ・・・わかりません」
『魔法化すると、魔力操作に比べて技として固くなるんじゃ。それゆえダンジョンの地形や魔物の反応が上手く返ってこない。燃費が最悪ながらも実用性が確保されるのは魔力操作としての≪探知≫が限度、とされる所以じゃ』
アルトは、段々とディロラールの真意がわかって来た。
「・・・つまり、魔力操作技術である≪探知≫を今よりも遥かに強力な魔法化して使用する方法があるんですね?」
少年の察しの良さに、ディロラールは内心流石は勇者と感心した。
だが事はそう簡単ではない。
『ある。広域の情報を知る魔法として儂自身が協力者と一緒に途中まで研究しておったからな。じゃが地水火風の基本四系統に光を加えた魔法適性を併せ持たんと得られる情報が実用域に達せず、また情報を絞った上で魔法化による効率化を図っても≪探知≫と同程度の魔力を使って直径にしてせいぜい約5倍じゃ。儂が火系統適正が無いのもあり、正直誰が使うんじゃこんなのと放り出すしかなかった』
しかし全系統に強い適正を持ち、規格外の魔力を体に有し、勇者の眼で足りない情報を補えるなら。
「・・・恐らく、勇者の眼による補完を前提として精度を下げるならさらに拡張できます。ですが、それでも不足しています」
『段々と冷静になって来たの。まあ範囲の拡張に関しては妖精の粉よりもいい物がある。まずはこの未完成の魔法を完成させるんじゃ』
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あたりで一番高い山の山頂に魔法で建てられた即席の掘立小屋の中で、二人の人物がテーブルの上の魔法陣の掛かれた雑記用スクロールを囲んでいた。
『――――二日は掛かると思っておったが、その半分の時間で出来てしまうとはの。本当に術式弄った経験は初級魔法ぐらいしかなかったのか?』
「私さえ使えたらいい、と言う風に雑に作りましたからね。お陰で元の≪探知≫の20倍の範囲まで伸ばす事が出来ました。今すぐに試したいのですが」
逸るアルトの隙を突き、魔法の籠ったディロラールの指がアルトの額を直撃した。
アルトはその場で崩れ落ち、眠りに就いた。
一時間ほど経って部屋の隅の毛布に包まっていたアルトは跳び起き、ディロラールに抗議を投げつけた。
『≪精霊の眠り≫じゃよ。疲れが取れて魔力もまあまあ回復しとるじゃろ。儂はその間にちょっと準備をする、賢い時間の有効活用ってやつじゃな』
涼しい様子のディロラールの前には、魔法道具らしき取っ手付きの鈴が置いてあった。
「・・・それが範囲を広げるための道具ですか?」
『エルフに伝わるアーティファクトの一つで、正しい名前は誰も知らん。ただちょいと時間を掛けて魔力を込める事であたりの精霊を喜ばせ、鈴を振りながら魔法を使うと込められた魔力と精霊の力も一緒に使う事が出来るという物じゃよ』
「つまり二人分の魔力に精霊の力も上乗せして魔法を使える、と?そんなアーティファクトを持っているなんて、あなたは一体・・・」
『儂が何者かは別にいいじゃろ。精霊の力をより多く借りるのは妖精の粉を使った効果と同じじゃが、魔力を込めるのを止めるとものの数分で霧散してしまうんじゃ』
「!わかりました、すぐにやってみます」
この地域で一番高い場所だけあって、見晴らしは非常にいい。
邪魔になる木々もなく、ディロラールの鈴の効果なのか辺りには精霊の力がはちきれんばかりに満ちていた。
りぃん、と神秘的なまでに澄んだ音が閑かな山頂に染み入るように響き渡った。
その魔法は、唯只管に広い範囲の精霊と瘴気の粗密を感知する、それだけのものだ。
だが勇者と老エルフの魔力に精霊の力を重ねたその直径範囲は≪探知≫の数百倍に達し、勇者の眼による情報補完によりそれは気配を知る相手であれば人や動物、魔物の個体識別までも可能になる驚異的な情報収集魔法となる。
「≪聖鐘≫!」
ある程度魔力感知の出来る者であれば、その山頂を中心に光の輪が広がったのが分かった事だろう。
アルトは脳裏に浮かんだ地図に描かれていく反応を見ていた。
数多くの人間が集まる場所は街や村か。
林野には高密度の、平原などには少ない動物や魔物の気配。
水の精霊が多い場所は川や湖。
人里離れて動く人らしきものは狩人や冒険者だろう。
なかでも妙に精霊の気配が強い二人組がいるが、今は関係ない。
瘴気の濃い領域は魔境、その中にある一層濃い場所がダンジョンだ。
核に当たると思しき部分はあまり直視すると気分が悪くなりそうだ。
そんなあるダンジョン核のすぐ傍に、消え入りそうな水と風の精霊がある。
氷結系統を得意とする者特有の気配だ。
「・・・見つけた、ユプシー!」
何でも便利おじいちゃんディロラール




