表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
四. 冒険者達
50/131

44. 変幻百剣

 挿絵回・解説回含めて連載50回になりました。

 読者の方々、評価やブックマークを下さる(奇特な)方々が励みになっております。

 ありがとうございますコンゴトモヨロシク

「アクセルの奴、一人でダンジョンに行くって言って聞かねえんだよ!あんまり暴れるから今は抑えてギルドの離れの牢屋に押し込んでるけど、危なくて近寄れねえんだ!」


「何ですって!」



 アクセルの仲間がもたらした衝撃の報にガメオとザアレは一瞬顔を見合わせ、ハチェーテと一緒に駆け出した。

 だが数十秒走って牢屋のある建物に入る前に、何か激しい破砕音のようなものが鳴り響き誰かの上げた悲鳴が聞こえた。


 瓦礫が上げる土煙の中に、アクセルは拳を突き出した姿勢で立っていた。

 全身に黒い血管のような何かが走り、赤黒い光を秘めた瞳は血走っていた。

 息は荒く、髪もどこかしら逆立っているように見えた。



「・・・まさか鉄板が入った牢屋の壁をパンチでブチ抜いたのか?オウガじゃねーんだぞ!いやそれよりあの姿は!?」


『―――そんな―――アクセルさん、邪妖の意思が乗った瘴気に憑りつかれている!でもどうして?』



 そのザアレの言葉を聞いたものはガメオ以外に居ない。

 アクセルが天に向かって雄叫びを上げ、直後に人間離れした速力で走り出したからだ。

 まるで裡に抱えた余りにも大きな苛立ちに堪え切れず何かを吐き出したかのように、ガメオには思えた。



『まったくとんだことになっちまったモンじゃ!――――そうじゃな、ガメオとザアレ、あと受付のハチェーテちゅわぁんは儂と一緒に追うぞ』



 そこに現れたのはエルフのディロラールだった。

 魔法の風を杖も使わない指の一振りで巻き起こし、返事も待たずに今名前を呼んだ相手と自身を加えた四人を同時にフワリと浮かせた。



「ディロラール!・・・言いたいことはあるけど後にしてやるよクソッタレ」


『お主はもっと子供らしく未来を見て生きるべきじゃぞ?』


「了解しましたディロラールさん。でもどうしてこのメンバーで?腕利きの冒険者なら他にもいると思うのですが」



 いつの間にか瓦礫からアクセルの斧を拾っていたハチェーテはそれを抱えながら、脚を上手い事折り曲げスカートが魔法の風でめくれないような姿勢をとっていた。

 どこか残念そうな様子のディロラールは、このスケベジジイめという視線に気づいたのか微妙に不貞腐れた表情をどうにか振り払ってハチェーテの質問に答えた。

 それは思った以上に切迫した事態を告げていた。



『あ奴を生きたまま救い出せる可能性があるのは、多分このメンツだけじゃからの』



 その言葉に合わせるように風で浮いた四人は高度を上げ、アクセルが駆けて行った方向への飛行を開始した。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




「・・・そう言えば以前アクセルは、新しく生まれた魔境を調査するクエストに行った事があります。そこで強い瘴気を放つガラスの破片で偶然指を切ってしまったと言う報告を上げてきました。よく洗って≪浄化≫の魔法も掛けてもらったし、その後も何もなかったので大丈夫とは思っていたんですが・・・」



 風の魔法の中は意外な程に静かで、普段通りの声のボリュームで普通に会話する事も可能だった。

 ディロラールの年季の入った超人的な技術によるものかもしれないが。



『―――瘴気の、ビン―――』



 それは王都で戦ったダークエルフの女がシグナムに突き刺そうとした物。

 ガメオの故郷を滅ぼし、魔境に沈めた物。

 いつの間にか石のように固く握られていたガメオの手に、そっとザアレの温かい手が乗せられた。


 ガメオは一度大きく息をつき、無意識に入っていた拳の力を解いた。



『咄嗟にアクセルに付けた精霊虫の存在はあそこから感じるの』


「ここは・・・!」



 一行の眼下には起伏のある鬱蒼とした森が広がっていた。

 かつては初級と中級の中間ぐらいの難易度で薬草採取に適した魔境だったが、瘴気の濃度が増したために魔物が変異・狂暴化して中級でも十分な準備が必要になった場所だ。

 そしてハチェーテが引退を決意する怪我を負い、アクセルと出会った地でもある。

 そこは≪若草の森≫と呼ばれていた。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 そこには、瘴気の影響でやや強化したとみられるオークの惨殺体が無造作に捨て置かれていた。

 現在のガメオなら素手でも倒せるぐらいの魔物ではあるが、それでも筋肉の詰まった太い首を腕力で強引にねじ切るような殺し方が出来るわけではない。

 横に生えた木には、人間の成人男性ぐらいの大きさをした血の手形があった。



『どうやら狂いはしてるものの――――英雄願望なのかそれが魔物に向いてるのは、不幸中の幸いと言ったところじゃな』


「アクセル・・・無事でいて、お願い」



 一行が進むほどに多くの魔物の死体に遭遇した。

 その全てが岩や地面に叩きつけられたり首や四肢が変な方向に曲がっていたり、また胴体そのものがへし折られ内臓がはみ出たりと、常軌を逸した腕力で雑に殺されたと思しき物ばかりであった。

 心なしかオークの死体が多いように思えた。


 突然の殺戮者に恐れをなしたのか、ガメオ達は道すがら魔物に遭遇しなかった。



 それに最初に気付いたのはガメオ、次いでディロラールだった。

 森の中の少し開けた場所、通常と比べて明らかに大きく筋肉質で装備も整ったオークと一人の男が対峙していた。

「オークキング・・・!」とハチェーテが呟いた。

 オークキングはオークの強化個体であり、多くは群れを率いるポジションにありその戦闘力はオウガにも迫ると言われている。


 オークキングが絶叫とともに振るう長槍が殺意を音にしたような唸りを上げ、男の首を狙った。

 硬い岩でも容易く粉砕しそうなその一撃ではあったが、あまりにも鮮やかに受け流されそのまま長槍がへし折られた。

 折れて初めて、長槍の柄に鉄芯が仕込まれていたのが判明した。

 男はオークキングの盾をかいくぐり、腹に拳の一撃。

 流石にここに来るまでに落ちていたオークの死体のように吹き飛んだり、胴が引き裂けたりはしなかったが、オークキングは堪らず体をくの字に曲げた。


 届く位置に降りて来たその首に対し、足刀が飛んだ。


 高く舞った首が地面に落ちて転がってから、巨体はゆっくりと崩れ落ちた。



「アクセルッ!」



 ハチェーテの呼び声に応えて振り返ったアクセルは、全身の黒い筋が先程よりも増えているように見えた。

 ガメオのアイコンタクトと同時にザアレは≪収納≫から魔剣の柄を出し、それをガメオは引き抜いた。



「ハチェーテさん、この剣については他言無用で頼む」


「魔剣!・・・わかったわ」



 まだ子供の身で魔剣を持っている危険性からそれを隠しているのだと、ハチェーテはすぐに察して了承した。

 ザアレに鞘を投げて寄越し走り出したガメオに、ハチェーテが声を掛けた。



「気を付けて、アクセルは体術も相当使えるわ!」


「痛い目見たから知ってるよ!」


『取り敢えず何とかして動きを止めるんじゃ!そしたら儂の魔法でバーッと何かイイ感じにやるわい!』



 緊張感があるのかないのか分からないディロラールの言葉はさておいて、アクセルの使う技は正道な技術をベースに実戦の中で原形を留めないぐらい大胆にアレンジしたものだ。

 純粋な殴り合いと言う意味では、技術のレベルを問わなければある意味シグナム以上に隙が無い。

 そして現在は邪妖に憑りつかれた影響なのだろう、身一つで鉄板入りの壁を叩き壊し、オークキングさえも一方的に破壊できる身体能力がある。


 凄まじい身体能力と全方位に色々妙な技と言うのは、ほぼガメオの上位互換に近い。



 いつの間にかディロラールによると思われる魔法の茨の結界が、アクセルとガメオのいる広場を囲んでいた。

 ガメオはまず、現在最も信頼できるシグナムの剣を呼び出し、斬りかかった。

 出し惜しみのできる相手ではない。

 だがその洗練されて美しく滑らかな剣閃が悉く躱され、いなされた。

 逆に反撃で顔の寸前まで拳が迫ってきて、咄嗟に時間を止めたうえでランツェの回避術を呼び出して何とか距離を取らないといけなかった。


 ならば妖精の剣と魔物の動きを一緒に呼び出した変則的な技はどうだ、とガメオは試してみたがせいぜい拮抗するだけでやはり通じはしなかった。

 デッドリービーやサイレンドスパイダー、ゴブリンやオークといった魔物というのは冒険者であるアクセルが人間以上に相手にしてきたもので、その動きを取り入れるのはカモとまではいわなくとも対応しやすい物だったのだ。

 的確に拳足での反撃が飛んできて、何発か掠った。

 恐らくは掴まれたらそこで終わりだ。


 唯一飛竜の突進は通じる感覚があったが、絶対に使うわけには行かない。

 確実に命を奪ってしまうからだ。




「信じられない・・・何であの子、あんな戦い方が出来るの・・・!?」



 アクセルと切り結ぶガメオの戦いぶりに、ハチェーテは自分の目を疑っていた。

 あそこまで変幻自在に、一流にしか見えない様々な技を切り替え、時には魔物の動きさえも忠実に再現したかのような動きも見せるなど人間業とは思えなかったからだ。

 知らないうちに冷や汗を手の内に掻いていたが、震えるハチェ-テの手をザアレが握った。



『ガメオは強いよ。だからハチェーテさんは、アクセルさんを信じて』


「!・・・ええ!」




 地面を薙ぎ払う強烈な足払いに対し逆に掴まり、トカゲの魔物の動きを呼び出したガメオは素早くアクセルの体をよじ登った。

 敵の体を足場にする絶技は存在するが、そういう動きとも違うまさに魔物的としか言えないぬるっとした移動だ。

 ガメオはアクセルの顔を殴りつけて倒すことを狙っていたが、その試みは振りほどかれて失敗した。

 それどころか空中に無防備な状態で放り投げられるという致命的な状態に陥った。


 拳を振りかぶるアクセルに、ガメオは反射的に時間を止めた。



 ガメオが時間停止を使うのは、瞬間的な判断が難しい場合のほか、敵の攻撃に対応可能だがより落ち着いて精密な身体操作が欲しい場合が多い。

 この場合は後者だった。

 ガメオは妖精戦士のような翅が生えておらず当然ながら飛べないが、その動きは空中機動にかなり応用可能だ。

 しかしやはりどうしても翼のない身にとっては難度の高いアクロバティックな動きであることには変わりない。


 その時、ガメオはアクセルの表情に気付いた。

 全くの偶然で、その瞬間ガメオの浮かぶ位置はアクセルの目線よりも高かったのだが、まるで「それ以上高く飛翔する事を許さない」と言っているかのようだったのだ。


 訓練所の時からずっと「嫉妬」と言うのは感じていたが、ここまで表情に出ていたのは初めてかもしれない。



(そうか・・・そういう事なのか)



 遠巻きに見ているザアレ達まで風が届くほどの拳を体の捻りで避け、ガメオは転がるように着地してそのまま再び距離を取った。



「ハチェーテさん!斧をこっちに!」



 ガメオの声に応え、ハチェーテはアクセルの斧を茨の結界の中に投げ入れた。

 それを片手でキャッチしたガメオは、何を思ったのかそれをアクセルに投げて渡した。



「ちょ・・・いったい何やってるのガメオ!」


「アクセルさんは・・・ちゃんと真正面からこれ以上ないぐらい叩き潰されないと、永久に納得しないんだ。だからこれから万全の状態のアクセルさんを、ぐうの音も出ないレベルで完全に叩きのめす!」



 そう言ったガメオは魔剣から、自分の知る最強の幻影を二つ同時に呼び出した。

 これで終わると思っていた時期が俺にもありました。

 区切りの回としてコノエピソード終わらせたかったです(涙)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ