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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
一. 邂逅
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4. 剣を杖として

 何か文字数が多くなった上、後半トラウマグロ鬱展開注意です

 ・・・これ、前に書いた話でもそんな展開あったし注意書きしとけばよかったな


 後半はいつもの場面転換~・~・~・~の後だからちょっとだけ分かりやすい

「『勇者』についての伝承、聖遺物の幾つかについては敢えて()()には継がせなかった。戦にも魔導にも何の才能もないが政は優秀だからな。何より・・・」



 薄暗い回廊、アルテアの前を歩きながら先王ガルデルダは語り続けていた。

 彼は暗殺により王妃と幼い世継ぎを同時に失ったのに伴い弟に王位を譲り、王城に研究室を作り勇者と魔王に関する研究に没頭するようになった。

 そこは禁忌とされかねないようなものも平気で研究対象にしたため、王城においてある種のアンタッチャブルとなり、賢王が狂王という二つ名に変わるのに時間は掛からなかった。


 王位を退いている以上正確には王はおかしい。

 だが、ともかく(こと)勇者と魔王に関する事柄に関しては現在の王よりも発言力を保持していた。



「全ては、儂の代で勇者と魔王の無限の螺旋を断ち切るため」


「・・・それが、故郷で私が見たものの答えですか?」



 ガルデルダは答える代わりに、重い鉄の扉の前で足を止めた。

 何事かをガルデルダが呟く。

 余人には何か妙な唸りとしか認識できないが、アルテアには竜の言葉と分かる。

 応えるように、扉は音もなく勝手に開いた。



「母様らを埋葬する前に、故郷で()()()()は全て雷爆魔法で破壊し尽くして来ました。調査団に見つかって危険なものは何も残ってはいないでしょう」


「お前は、()()()()()()()()()の魔力を持って生まれた勇者だ。それだけは言える」



 答えになっていないような言葉だが、二人の間では成立していた。

 この場ではそれで十分だった。



「それ故に、魔力に大きな影響を与えるのが分かって居った『勇者の試練』はより慎重を期したかったが」


「・・・その間に魔王が死ぬとは思いませんでした」


「死んだのではない。その場合そこから出た大きな魔力の還流がどこかに流れ込んで行くはずだ。あらゆる文献の魔王討伐記録の中にある通りにな。しかし今回はただ、夥しい馬鹿げた量のマナが霧散したのが観測されただけだ。つまり転生を繰り返す魔王の力の源が『消滅』したのだ。儂と、お前の母が共に文字通り()()を掛けた悲願の通りにな。但し・・・儂等の企みとは全く関わりのない何者かの手によって」



 扉の奥には、さらに巨きな門が構えていた。

 勇者縁の場所と言うには余りにも禍々しい空間は、神の力で封印、契約した魔神に勇者の試練と言う役割を与えたがためと古い伝承にある。



「その何者かこそが魔剣のガメオです」


「随分と断言するものだが、それは真実か?」


「私以外に魔王に抗し得た者に他に心当たりはない、それが最大の根拠です」



 以前古代城砦で共に戦った時も、既に純粋な剣の腕だけなら自分を超えていたとアルテアは判断していた。

 そして先日怒りに任せて斬りかかった時には、実のところ魔法込みでも勝つビジョンが全く見えなかった。

 その水準まで技を練り上げていたのが僅かな身の熟しから分かったのである。



「成程、魔王以上に強大な・・・か」



 自嘲気味に笑みを浮かべたガルデルダ。

 各地に幾つか存在する勇者の試練の最初の門が、音を立てて邪悪な魔神に似せた口を開けようとしていた。



「父上・・・母様と同様に貴方もまた、その唾棄すべき、軽蔑すべき、そして悍ましき所業により地獄に堕ちるでしょう。そして本来ならば聖勇者にしてその『子』としてそれを告発せねばならぬのに、その所業を自らの手で葬った私もまた」


「・・・お前が堕ちることはない。全ては儂らの責任だ」


「いえ、私は何よりも私心を優先してしまったのです。ここで全てを明らかにしてはあの男に剣を届かせる術が無くなるかも知れない、その一心で秘密を闇に閉ざすのに加担してしまった」



 壁に灯った松明の揺らぎがガルデルダの貌に影を作った。

 アルテアの目には瞬きの間、悲しみを湛えた表情に見えたような気がした。

 それも一瞬の事。



 私は今ただ一人の男を、この手で斬りたいとだけ思っている。


 道理もなければ正義もない、だが私にとっては最早この世でただ一つの真実。


 奴とは今まで四度邂逅したが、もう邂逅はない。


 次に会う時は、自らの意思で殺しに行く時だからだ。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 アルテアは今までの邂逅が四度と思い込んでいたが、実際はその前、より幼い頃にもう一度だけすれ違っていたことがある。

 ただし駆け出しではあっても選ばれた【聖勇者】の力を持つ勇者と、救われるべきその他大勢では、一方だけが一方を知っている状態になるのは無理からぬが。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 けたたましい轟音とともに馬車が横転した。


 散乱した荷物である木箱には馬車同様神聖王国の紋章が入っており、さらにそこに光弾が撃ち込まれ爆発が起こった。

 壊れた剣の破片が砕けた箱の木片と共にあたりに飛び散ったが、それらは大量生産品ではなくそれぞれ違う意匠をしていた。


 全て魔剣であった。


 顔を隠した暗い色のローブ集団は目標破壊を確認したところで、馬車の護衛の神官戦士が何か動いているのに気付いた。

 慌てて集団の一人が短槍で止めを刺したものの時すでに遅く、神官戦士の手から小鳥の形をした光の塊が飛び上がり上空で炸裂した。

 清浄なる気を光と共に強く放つただそれだけの魔法『信号弾(シグナル)』だ。


 神官戦士になる条件の一つに、この信号弾(シグナル)を国内であれば最寄りの駐屯地まで必ず届く出力で使えるというものがある。

 つまり、今ので確実に異変は知られたことになる。


 ローブの集団は顔を見合わせ互いに頷くと、リーダー格らしき男が何か小瓶のようなものを取り出し、地面に叩きつけた。

 黒い液体が飛び散り、一拍置いてもうもうと瘴気が立ち上り始めた。

 瘴気とは生命を歪め魔物に、知恵と力ある物を魔族に変える力があるとされ、薄くとも魔物を活性化させる効果のある魔力汚染された空気。


 別にさしたる戦術的戦略的意図があった訳ではなく、ただ単にゴブリンでも暴れて近隣の村が襲われれば逃走のための良い目眩ましになる程度の考えでしかない。

 そして間もなく、猛り狂ったゴブリンの群れが近くの村を襲撃した。




(何でだよ・・・何でこんな事に・・・父さん、母さん、シィタ・・・)



 燃え盛る村、異形の醜い人影が踊るように殺戮を繰り広げていた。

 まだ子供と言っていいぐらいの黒髪の少年は父と母、幼い妹の名前を頭の中で唱えながら物陰でガタガタ震えているしかなかった。



「おにい・・・ちゃん」



 消え入るような音量だが良く知っている声が少年の耳に届いた。

 振り向くと、少年と同じ色の髪の幼い女の子がいた。



「シィタ・・・」


「おと・・さ・・・と、おかあ・・・さ・・・」



 普段来ている服に赤い物が付き、言葉も上手く出ないほどに震えながら恐怖と絶望を顔に浮かべていた。

 何があったかは最早、聞くまでもなかった。



「大丈夫だ、シィタ。兄ちゃんと一緒に逃げよう」



 不思議な物で、ついさっきまでの自分と同じ状態の妹を目の前にする事で震えが動ける程度までは収まり、勇気と決断力と行動力がぐんと戻ってきた。

 お気に入りの青い石のブレスレットをした妹の手を取り、少年は駆けだした。

 日々のイタズラやかくれんぼのために、人目に付かないルートはお手の物だった。


 だがそれも、所詮子供の浅知恵であった。

 いつの間にか村の大人たちよりは背丈が小さいが、自分たちよりも少し大きいぐらいの、人間をグロテスクにパロディしたような二足歩行の魔物たちが前後の逃げ道を塞いでいた。


 そいつらが手にした思い思いの武器を振り上げ、醜悪と言う概念を音にしたような大音声(だいおんじょう)の奇声を上げたところまでは少年は覚えていた。




・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。




 大丈夫だ、必ず助かる、シィタ。

 そう言う事をうわごとの様にぶつぶつと呟きながら、幼い手を引いて少年は森に作られた道を走っていた。

 最早歩いているのと大差ない速度であったが、それでも全力だった。

 ふと、妹に笑いかけようと引いている手の方を見た。




 小さく柔らかい手の、肘から先が、無かった。




 妹お気に入りの青い石のブレスレットが、カランと音を立てて落ちた。

 その瞬間世界が色を無くし、あらゆる生あるものの足を地に付けているという重力(地の加護)が消え去ったような感覚に襲われ、視界がメチャクチャに転がった。

 力の抜けた足がもつれて道の下の方にある草むらの中に転がり落ちた事に気付くのには、少しだけ時間が必要だった。



 どれだけそうしていたのか。

 草むらの中で死体の様に動けなかった少年の耳に、何か金属音交じりに言い争うような声が聞こえてきた。


 ・・・お前は修行中の身だ、勝手な行動は許さん。

 ・・・いえ、私は勇者として一刻一秒も早く行かなくては。


 勇者を名乗る方の声は、若いと言うより幼い。

 あれは自分と同じぐらいの年の頃じゃないのか。

 そう言えば、と少年は頭の片隅で思い出した。

 都のから来た行商人が、史上最も幼い勇者が誕生したと言っていた。

 やがて制止を聞かず、幼い勇者は放たれた矢のように飛び出した。


 いつの間にか、勇者の前をゴブリンの一団が塞いでいた。

 だが気合の声とともに剣を振るうと光の三日月が生まれて飛んで行き、十匹近い集団が一撃のもとに言葉通り粉砕されてしまった。


 仕方ない、という風に後続の部隊も駆けていった。

 草むらに転がる少年には気付かずに。



「どうして・・・どうしてもっと早く・・・そんな力があるなら・・・」



 少年は自分でも知らないうちに声を漏らしていた。

 これは間に合わなかった救助者に対する八つ当たりに過ぎないが、そんな自らを省みられる人生経験もなく、仮にあってもそれが出来る精神状態でもなかった。


 ふと、少年の視界の隅で何かが動いた。

 さっき粉砕されたはずのゴブリンの一団の内の一匹だ。

 気を失っていただけで、無傷ではないが無事だったようだ。


 少年は、自分の体の中に燃え上る炎が満ちるのを感じた。



 殺してやる。


 おまえだけは殺してやる。



 その時、手に何か固いものがぶつかった。

 真新しいが焦げと汚れの付いた鞘に入った、それは剣だった。


 黒いローブの集団が全て破壊を目論み、消し飛ばし損ねた一振りが偶然飛んで落ちて来たものである事など、少年には知る由もない。

 だがそんな事はどうでもいい。

 最初からそこにあったのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 少年は、武器によるらしい満身創痍の自分の状態に初めて気付いた。

 力がなかなか入らない足に、少年は鞘入りの剣を杖にして立ち上がった。


 ゴブリンは耳が良い魔物だが、杖でヨタヨタと追跡する少年に気付く素振りもないまま、どこかへ導かれるように歩いていた。

 よく観察すれば尖った両の耳から血を流しているのが見えただろう。

 森の中の獣道を歩いていき、やがてやや開けた場所に出た。




 そこには、一人の少女が木に体を預けるように倒れていた。

 見慣れない衣装、この世の物とは思えない綺麗な顔立ちと雰囲気の娘だった。




 醜悪なゴブリンの存在に気付いたようで、少女は怯えたように身じろぎをした。

 だが何らかの理由で上手く動けない様子で、為す術なく接近を許したようだ。


 思わず少年は剣から鞘を取って投げ捨て、剣を腰だめに構えた状態で雄叫びを上げながら全力で突進していた。


 肉に突き刺さる感触、だが浅い。

 剣は言うまでもなく子供の手には大きく重すぎるもので、加えていくら聴力を失った状態でも流石のゴブリンも気付く。

 僅かに身を捻られ、胴に刺さった傷は命までは届かなかった。

 どんな獣もここまで不快な声を上げないという叫び声とともにゴブリンは手入れのされていない剣をめちゃくちゃに振り回し、何発か少年に命中した。

 腕に力が入らないのか一発一発は致命傷には程遠いが、着実に危険な裂傷が増えていった。


 少年はそんなものお構いなく、幼い体のどこから出ているのかと言う叫びと共に、ゴブリンに剣先が刺さったままの剣にさらに体重を掛けつつ、更に腕などどうなってもいいとばかりに力を込めて抉り込んだ。

 今度こそ命に届いた感触がし、ゴブリンの口から血が毀れた。


 倒れたゴブリンに、何度も剣先が突き刺さる。

 何度も。

 何度も。




 少女は、今し方眼前で繰り広げられた拙い死闘の勝者を呆然と眺めていた。

 事切れたゴブリンの胴に刺さったままの剣を杖とし、片膝をつくような格好で、少年が震える声で言葉を紡いだ。

 ゴブリンに剣を突き立てる叫びからは想像もつかない、穏やかな声で。



「・・・ありがとう」


『え?―――』


「助かってくれて、ありがとう」



 もし他者の目があったなら、女王に騎士が(ひざまず)き忠誠を誓う光景を思ったろう。

 騎士があまりにも寂しげな笑顔でボロボロと涙を流していなければ、だが。



 少女の名は、ザアレと言った。

 半死半生の状態でそのまま気を失った少年は、少女の背にある蝶のような美しい翅には最後まで気付かなかった。

 人間の重要ネームドキャラはギリシャ文字由来にしてしまったんだけど、24文字しかないんだよなぁ・・・

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