43. アクセルとハチェーテ
ちょっと短いけど切りがいいから上げます
「・・・クソッ、俺はどうなっちまったって言うんだよ!」
薄汚い路地裏で、アクセルは壁を殴りながら自分自身に吐き捨てるように叫んだ。
俺は勇者にも英雄にもなれない。
忌々しい事に、短くない冒険者生活の中でそういう才能の持ち主を見分ける目だけは鍛えられてしまった。
最近出会った中じゃあアルトやユプシー、エルフのディロラールがそう言う種類の・・・それも飛びっきりの才能や存在だった。
黒髪のガメオはそっち側には見えなかった。
凄まじいフィジカルや勘を持っているものの、才能を持った奴が真に優れた技術を学び、磨いたならいずれそいつに追い抜かれる・・・そう言う感じの奴だった。
田舎じゃ神童とまで呼ばれた俺自身がそうだったのだから。
だからこそ、ちょっと贔屓目でもって目を掛ける気になった。
しかし十日程ギルドに姿を見せなかったガメオは、たったそれだけの期間のうちに化けていた。
今までは変幻自在ではあったものの芯と言うものが薄かったガメオの技に、まるで騎士団に入って一流の騎士にみっちりしごかれた様な強い柱が出来ていたのだ。
僅か十日という、短い時間の間にだ。
・・・ああそうだ、俺は嫉妬したんだ。
どう考えても俺と同じ凡人側だった奴が、どんな幸運かいんちきがあったのか知らないが、英雄側の領域に手をかけかねない化け方をして見せやがったんだ。
どんな手を使った!
何故それは俺じゃなくお前なんだ!
・・・そう思うと、抑えが効かなくなっていた。
ハチェーテに止められなきゃ、間違いなく俺は・・・。
ふとアクセルの目に、窓ガラスに映った自分の姿が飛び込んできた。
それは肌があらわな部分に黒い血管のような筋が走り、明確に瞳に赤黒い光を宿した姿だった。
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訓練中にアクセルの様子がおかしくなりだしたとき、ザアレの眼は彼の体から立ち上る瘴気を捉えていた。
人族であれば魔眼持ち、でなければよほど鋭敏な魔術的感覚が無いと分からないレベルではあったが確実に不自然な瘴気があった。
追おうかどうか迷っている時、ハチェーテにギルド併設の飲食スペースに誘われた。
アクセルの様子も気になるが今すぐどうにかなるとは思えず、ハチェーテからアクセルの話を聞いた方がいいとガメオに小さな声で相談して決めた。
「アクセルは、私の命の恩人なの」
そう、ギルド受付嬢ハチェーテはガメオとザアレに語り始めた。
ハチェーテは盗賊クラスの冒険者として、同期の中でも頭一つ抜けた存在だった。
しかしいよいよ初級を卒業しようと言う時に、探索中に調子に乗って足を滑らせ崖下に一人落ちてしまった。
怪我をして手動けない所をオークの群れに見つかり、あわやという所で助けてくれたのがギルドの冒険者達のまとめ役のような立ち位置を確立していたアクセルだった。
その時の怪我が治ればまだまだ冒険者としてやっていける自信はあったが、ハチェーテは敢えて引退して冒険者ギルドで働く裏方になる事を決意したと言う。
『―――どうして辞めちゃったの?』
「そうね・・・私のやり方で彼みたいになりたかったから、かもね」
個人で強く在るというのは、誰もが憧れる英雄的な在り方だ。
冒険者を目指す中でも少なくない者がそれを目指すし、ハチェーテもそう思って冒険者を始めたのだった。
だが、英雄に憧れ志した者が百万人居たとして英雄は一人、英雄の物語に顔と名前を出しそれを彩る役割の脇役も英雄志願者の内外からせいぜい百から二百といったところだ。
その他は命を落とすか諦めるか、諦め切れずにずるずる行くかの三択だ。
だが英雄ならざる彼らには、多くの頭数でもって社会を作っているという集団としての強みがある。
それを強みを持ったまま纏めるというのは並大抵の事ではないが、そこに英雄性は必要ない。
「世の中からドロップアウトしかけた冒険者と言う荒くれ集団全員に信頼されて、外との揉め事も仲裁して、その他問題も洗い出してどうにか皆でやって行けるように維持するなんて誰にでもできる事じゃないわ。アクセルがギルドで実質まとめ役のポジションになってから、冒険者の死亡率や未帰還率はかなり下がっているのよ。それが国とかの規模になったらそれこそ英雄か、でなければ王様のやることだけど・・・そこまで行ったら出来る人に任せるべきよね」
「ハチェーテさんはアクセルさんみたいになりたいんじゃなくて、どっちかって言うと近くで手伝いたいんじゃ」
「正解!でも生意気だからご褒美は無しね」
好意を隠しもしないのは全く関係ない子供相手だからなのだろう。
『生意気じゃなかったら何かもらえたの?ざんねんだなー』
「ザアレちゃんは可愛いから何かあげよっかなー・・・でもガメオは駄目よ」
「いや・・・いらないから」
その時、けたたましい足音と共にアクセルのパーティメンバーが店に駆け込んできた。
「ここにいたかハチェーテ!頼む、アクセルを止めてくれ!」




