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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
四. 冒険者達
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42. それぞれの幕間 - 2

≪身体強化≫を目的とした魔法は昔から研究されているが、技術そのものがその理想に辿り着いたことは歴史上一度もない。


 肉体に直接作用する手段なだけに回復魔法によらない傷病者の賦活など有用な副産物も多く、また重い物を持ち上げるなど単純なゆっくりした運動を強化する手段までなら数百年前の時点で確立されている。

 ただ戦闘のような激しく不規則で断続的な動作を強化するとなると制御が全く効かず、全身の骨が砕け散ったり筋肉が爆発したりと言った事故を確実に免れない。

 限界まで制御を単純化してとどめの一撃のみなどに使用する者もいたが、それでも普通に攻撃魔法を使った方が集中力でも魔力の面でもコスト対効果で当たり前に優れていた。

 そして前回の魔王の時点から現在まで、何の進展もない。


 つまり身体強化は千年に及ぶ研究と経験の積層をもってしも強大な魔物や魔族、そして魔王の肉体に肉薄する体系化された技術としては、完成など夢のまた夢なのである。



 しかしここに唯一人、例外が存在した。



 砂塵を噴き上げて巨体がうねった。

 元は水辺に棲む鰐の魔物だったのが変異と強化を繰り返し、全身をミスリル並みの硬さを持つ分厚い鱗で覆った甲獣と成り果てたものだ。

 放棄されてはいたが見るからに堅固な砦さえも物の数発で瓦礫に変えたそのパワーは、もし人里に現れたらどうなるかなど言うまでもない。


 そして、そうはならなかった。


 このサイズの狂獣の首を一刀両断にする者も、ミスリルインゴットを技だけで切り裂く者もいる。

 ・・・だがその両方を兼ね備えた巨体を目視不能なダッシュでのすれ違いざまに一閃、口から尻尾まで真っ二つにするような剣は一人にしか使えない。


 神聖王国騎士団長・ラムザイルだ。


 砂煙に赤い霧が混じり、巨大な重量物が轟音を立て崩れるのを振り向きもせず刀身を拭き、それは鞘に納められた。

 そして≪身体強化≫が解かれ、体の中から漏れるような魔力の光も消えた。


 ラムザイルは魔力量に比較的優れる割に魔法の才能が凡人並みなものの、武術に天賦の才をもち魔力によるその補強を研究してきて、ある日突然突き抜けるように、それを可能とする感覚を得てしまったのだ。

 それは魔法ではなく≪探知≫などと同じく魔力操作に属するが、芸術作品と同じようにあまりにも個人の内観的感覚によるもので、技術として一般化は不可能なものだった。

 少なくとも彼と同じ程度に肉体への理解が深く、その上で魔力操作を完全にトレースでも出来ない限りは同じ真似は絶対に出来ないだろう。



 さてここは、魔王の領域を監視するための基地からは遠く離れた砂丘地帯である。


 なぜラムザイルが一人でこんなところで迷っているかと言うと、まず魔王領域の拡大に伴い魔物が活性化、基地の維持が困難になったため前線を下げ改めて基地を築くための撤退戦となった。

 その最中不意打ちで時空の彼方に弾き飛ばすような転移魔法の直撃を食らってしまい、反射的に打ち破りはしたものの、次の瞬間には見た事もない砂だらけの土地に飛ばされていたのである。



「さて、これからどーしたモンかな・・・」



 至光騎士団については特に懸念はない。

 個々の能力も部隊としての能力もあの程度の魔物の群れに負けるような連中ではなく、また防御や撤退戦に関するなら副長の指揮の方がラムザイルよりはるかに優れ、神業的ですらあるからだ。

 今頃はあらかじめ選定されていた場所に新しく基地を作っている事だろうし、ラムザイルの身を特に案じている訳でもない事もまず間違いない。



「ま、王都の気配に向けて進んでいけば何とかなるだろ」




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




『―――メニャーン様のご様子は?』


『相変わらずじゃよ。夢と現が我ら長老衆と同じ位の長さで、今は眠り繭の中じゃ』



 ヴギルの問いに、起きている長老の一人が答えた。

 老いて長老の列に加わったフェアリーは長老としての記憶を共有するようになり、誰に尋ねても同じ知識に基づく答えが返るようになる。



『女王が癒えるのはまだまだ先、か』


『――――のうヴギルよ。あの娘自身の口から聞いたのじゃ、解かっておるんじゃろう?世界樹に力を注いだ影響よりも、裡にある人族への憎悪を必死に抑えるために消耗しておる事を』


『!そ―――それではガメオを妖精郷に迎えた事自体が、間違いだとでも?』


『影響が無いとは言わぬ。まあ限界までの期限が――――そうじゃな。一月違うかどうか、と言う程度ではあるがの。どっちみち魔王復活までには次の女王を選ぶ事になるじゃろう。人族の少年を入れた事――――それが間違いかどうかは、時を始まりから終わりまで見通す世界樹ならぬ身の我らには解からんよ』




 女王の居城から出てきたヴギルをランツェが出迎えた。



『女王は相変わらずのご様子で?』



 ランツェの問いにヴギルは詰まった。

 有意義ではあったが何一つ嬉しい材料が得られなかっただけに話し下手のヴギルでは上手い返しが全く思い浮かばず、付き合いの長いランツェはそれを敏感に察した。



『それで――いつまで、なんですかい?』


『―――魔王復活までは持たぬだろう、と長老衆は言っていた』


『ソイツはまた――短いですね』



 語るにはあまりに辛い話題であるため、ヴギルは強引に話を変えた。



『ランツェは、ガメオの事をどう思う?』


『んー、そうですね――久しぶりにできた人族の友で、妖精郷に溶け込んでいて、出来の悪い可愛い弟子で――そして、異常ですね』


『異常―――やはりそう思うか』


『多少の応援や戦う術が用意されてるとは言え、まともに戦ったら確実に死ぬ遥か格上の相手の釣り出しを駆け出し以下の身で一人でとか!オレッチだったら同じ一月寝込むんならジャウバの臭汁を壺一杯飲み干しますぜ。少なくとも死にやしませんから。けどやり遂げた――ヴギル戦士長の見込み通りに』



 相変わらずヴギルが何となく感じている事を正確に受け取り、誰にでもわかる言葉に直すのがランツェは上手い。



『アイツ言ってましたよね。飛竜と戦いながら何度も死ぬかと思って、実際に死にかけて。それを()()()()()()延々と続けて、最後まで心が折れなかった――どう考えてもおかしいでしょーが?そんな鍛え上げた戦士の精神力をあんな素人に毛が生えたのが持ち合わせちゃ。あの魔剣にそーゆー効果でもあるんなら話は別ですが』


『ガメオの魔剣にそのような能力はない』


『つまりガメオ自身の性質ってこってす。――まーそんぐらいでもねーと、ザアレを嫁にやる相手には不足でしょーがね』


『?何故そう言う話になるのだ?』



 この話題に持っていくにはまだ早かったか、とランツェは自省した。

 しかし娘を嫁に出す話題で苛つきを感じる以前の段階とは。

 焦る必要のない話ではあるようにも思うが何故口をついて出てしまったのか。



『兎に角フォーリムの眼がある限り、我らフェアリーは現在の中ツ国で全力を出し気配を発する事は出来ぬ。今後を決めるためにもガメオとザアレにはなるべく多くの情報を得て、そして必ず無事に持ち帰ってもらいたいものだ』


『――持ち帰ったと言えばあのモリナシのパイ、恐ろしく美味かったですね』



 苔むした巨石の如く硬い意志でもって人の世界と断交したのを食べ物一つで揺るがすとは、やはり人族と言うのは恐ろしい物である。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 新月の夜、特定の時刻に決まってそいつは現れる。


 王城に与えられた自室、シグナムは鍛えられた美しい裸体をあらわにしていた。

 姿見の中の白い肌には、戦で得た傷に混じって黒い血管のようなものが走っていた。

 そして背中には、黒い蝶の翅。

 鏡の外の生身の彼女には、言うまでもなくそんなものはない。



『段々とこちら側に近付いてきたんじゃない?綺麗よ、シグナムちゃん』


「黙れ・・・新月にしかこちらに干渉できない幻め。私が貴様の側に立つ日などこの世の終わりまで来ないと知れ」



 シグナムは袋の中に保管していた小さな瓶を取り出し、鏡に向かって見せつけた。



『フェアリーの鱗粉!―――それだけの量がまだ入手できるとは流石に驚きね』



 小瓶の中身がシグナムに振りかけられ光の粒子を生じると、鏡の中のシグナムにあった黒い異状が汚れが落ちるように薄くなっていった。



『―――いいでしょう、これから暫くあなたの前に姿を見せる事は出来そうになくて残念だわ。クク―――でも忘れちゃあダメよ?その程度で貴女に刺さった棘がどうにかなるなんて思わない事ね?』



 部屋に存在していた妙な気配は消えた。



「・・・貴様こそ勘違いしているようだな。私は魔王の尖兵と戦って死ぬ。仮にそれより邪悪な糸が私を絡め取るのが早くとも、その時はこの世で最強の雷が私を焼き尽くす。貴様の思う通りになる物など一つもないぞ・・・フォーリム!」



 それが初めてシグナムの前に現れたのは、邪妖事件の生き残りとして糾弾されていた頃の事だ。

 まず間違いなく戦いの最中に楔となる何かを食らったのだろうが、それが何なのかは未だにわからない。

 兎に角知らないうちに浸食を受け、それは心の中にある闇につけ込み、呼応して大きくなって行く性質があるのは間違いない。

 暗黒騎士として命乞いする人を殺めてきた経験がなければ、少し前まで同僚や守るべき住民達だったものを斬り捨てた事実に耐えられずとっくの昔に堕ちていたであろう事は皮肉かも知れない。


 シグナムは窓の外に目を遣りながら、既に空になった妖精の粉をくれた不思議な黒髪の少年の事を思い出していた。



(でも・・・君の手に掛かるならそれはそれで悪くないわね。二回しか会った事がないのに自分でも不思議ね)

 前回に引き続き幕間回

 書きながら設定作るのやめろ、ムジュンが生じて異議アリ!しちゃうだろ

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