表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
四. 冒険者達
42/131

38. 邪妖事件

 かつて神聖王国には≪戦乙女騎士団≫と言う団が存在していた。

 解散したのではない。

 一人だけ残して全滅したのだ。


 生き残った唯一人の名は、シグナム。


 後の女勇者、炎の聖剣を与えられた≪炎のシグナム≫その人である。




 シグナムは爵位と領地を持たぬ法衣貴族の子に生まれたが、幼少期から武と魔法に優れた才能を発揮して将来的に騎士の身分を得られる事を当時のガルデルダ王直々に約束したほどの逸材である。

 折しも王妃が女児を身籠っている事が宮廷魔導士と宮廷医師の両方の検査で明らかとなり、国威発揚も兼ねて女性騎士のみで構成された女性王族専用の親衛隊を設立することが提案され、王により了承された。


 この時十を少し過ぎたぐらいのシグナムが、親衛隊に最年少で抜擢された。

 後にアルテアが聖剣を抜いたのと同じ年齢であるが、そっちは人類史における殆どの事の比較対象として適切を欠くほどの偉業であり、シグナムの抜擢はその事だけ見れば異例中の異例である。


 王妃の出産前に正式な発足を目指し準備の進められていた女性親衛隊だが、しかし最終的にこの計画は消滅した。

 守るべき対象が無くなったのだ。



 懐妊中の王妃が王子ともども暗殺されるという大事件のために。



 暫くしてガルデルダ王は王弟に王位を譲る決断をしたが、そちらに数人の息子はいるものの娘はおらず、また王弟妃は患った病の後遺症でそれ以上子を為す可能性が無かった。

 数か月の訓練で既に隊として完成しつつあった親衛隊ではあったが妃一人の為としては些か規模が大きく、新しい隊の存在意義そのものが無くなってしまった。

 しかし高価な装備や魔物討伐遠征などのコストの非常にかかる訓練まで熟しており、チームとしての高度な連携能力まで鍛えてしまったのを無駄にするのはどうかと言う意見が国務、軍務会議で大勢を占める事となった。

 当初のガルデルダの意向でお飾り部隊ではなく実際に能力のある組織が望まれ、才能や実績のある者を集めたがためである。


 斯くして発足前の親衛隊は組織をそのまま騎士団にシフト、女性だけの騎士団である戦乙女騎士団として誕生する事となった。




 神聖王国は勇者を立て魔王と戦うと言う役割、また対魔物戦の兵法研究の中心と言う役割を負い魔王復活時以外は世界情勢がどうあろうと相当安定しており、騎士団も対人と同程度に魔物と戦う機会が多かった。

 戦乙女騎士団はその中にあって例外的に対人戦の機会が多い団であった。

 これはその誕生の経緯が人による悪しき行為であることに端を発していたため、団長の方針がそれとの戦いに偏り、また団員も喜んで従ったのである。

 やがて護衛任務の他に捜査や諜報的な活動も多くなっていき、結果数々の陰謀や組織的犯罪と対峙する事となった。


 守るべきものを守れなかったと言うトラウマは、彼女たちをして「大きな正義の為なら手段を問わない」と言う方針を肯定せしめた。

 暗殺などの後ろ暗い任務も行うようになった彼女たちは、やがて元の戦乙女騎士団ではなく≪暗黒騎士団≫と言う名で呼ばれるようになっていた。





 戦乙女騎士団が壊滅した事件は≪邪妖事件≫と呼ばれている。



 それは報告時は異常発生した魔物による街の襲撃と言う、巻き込まれた者には命がけの緊急事態ながら国や世界全体ではよくある災害に過ぎなかった。

 急行したのは、偶々近くで山賊のアジトを焼いていた戦乙女騎士団だった。


 街を襲っていたのは確かに多数の魔物だったが、本来群れを成さない雑多な種類が混じり、それぞれの個体も不自然に強い瘴気を纏って強化体に進化していたのだ。

 街に小さくない被害はあったものの戦乙女騎士団の奮戦により魔物は全て討伐されたが、悲劇はここからだった。


 魔物の死体から立ち上っていた瘴気が急激に強まり、生き物のようにうねって騎士団員達、逃げ遅れていたがまだ無事だった街の住民達の口や目から体内に侵入、次々に血を吐いて倒れていった。

 やがて立ち上がった時、彼等は既に彼等ではなかった。

 肉体はやや小さく変異して服や甲冑もそれに合わせて禍々しく変形し、頭からは触覚が生え、そして各々の背中には真っ黒い蝶のようなどす黒い翅が広がった。


 それは、邪妖に堕ちたダークフェアリーだった。



 邪妖とは自らの意思で強い瘴気を受け入れ変化した妖精族の事だ。

 中でもダークエルフが最も有名であるが、肉体と言う概念がやや薄いフェアリー族の場合は少しプロセスが異なる。

 フェアリーが瘴気を受け入れただけでは元々の体も形を保てなくなり、言わば意思のある瘴気のようなものでそのままでは大した力もない。

 魔法も使えず、初歩的な≪浄化≫魔法を服の軽い汚れを落とす程度の強さで放たれても簡単に消滅してしまう状態なのだ。

 彼等は人間の肉体を乗っ取ることで受肉し、初めて形を得られる。

 魔物や動物を乗っ取って操るなども可能だが、受肉のためには優れた≪媒体≫である人間の肉体が必要になるのである。



 戦乙女騎士団で無事だったのは強力な光の魔法で防いだ団長と、後方で住民の避難に当たっていて偶々その時魔物を殺していなかったシグナムだけだった。

 それでも生き残ったシグナム達が絶体絶命である事に変わりはなく、ダークフェアリーのリーダー格らしき髪の白い、フォーリムと呼ばれた女が虐殺号令を下そうと言うその時。


 翅を炎のように変化させたフェアリー族の戦士達が飛来し、ダークフェアリーと交戦し始めた事でそれは中断された。


 既にこの頃にはフェアリーは人間界との交わりをほぼ絶やし、彼等からの妖精の粉の供給も完全に止まっていた。

 この参戦は加勢と言うよりも、妖精として邪妖を討つと言う側面が大きかったのは間違いないだろうが、それでも勝機が生まれた事は確かだ。


 この隙に団長は街全てを包み込む広域結界≪太陽陣≫を発動した。

 瘴気と結びついた力や存在を大幅に弱体化させ更に閉じこめる陽光の世界の中、シグナムはついさっきまで仲間の騎士だった者たち、そして逃げ遅れて邪妖化した一部住民を斬っていった。

 剣が折れたとあれば圧縮した≪灼火≫で元の長さ以上の光と熱の剣に変え、次々に敵を焼き切った。

 死の間際にわざわざシグナムの騎士仲間の顔に変化し、苦しそうに恨み言や嘲りの言葉を吐いてから消滅する者も居た。


 フォーリムだけは取り逃がしたものの、それ以外の全てのダークフェアリーは斃された。

 勝利者の姿の中に、団長は無かった。

 命懸けの大魔法発動の中心には、煤が付き高熱で一部が融けた空の甲冑だけが立った状態で残されていたのだ。

 無傷ではなかったフェアリーの戦士達は、主を無くした甲冑に向け深い敬意を表すポーズをした後、空の彼方へと飛び去って行った。




 これがシグナム本人や街の生き残りの証言と、そして団長が持っていた音声記録の魔道具を総合した邪妖事件の全てである。

 この録音魔道具は青い魔石を圧縮加工したものだが、原材料は安い一方製造コストが余りにも高くつくため本採用は見送られていた。


 唯一人生きて帰ったシグナムには、軍務側からは騎士団を失い一人だけおめおめと生き延びた責を問う声、内務側からも特に自前の商会を持つ貴族などからフェアリーをみすみす返して妖精の粉を再び供給させるチャンスを逃したことを責める意見が容赦なく浴びせられた。

 既に疲弊し尽くし壊れかけていた少女シグナムを救ったのは、ガルデルダによる「本件を勇者案件として引き取る」と言う宣言だった。

 ガルデルダは王位を退いて勇者と魔王に関する研究所を設立し、それに関する事柄のみに於いては現在の王以上の発言力があった。



 こうしてシグナムは、ひとまずガルデルダ預かりの≪暗黒騎士≫となった。

 やがて自分の騎士団を持ち、そして勇者となっていくのはまた別の話である。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 シグナムは気付くと一人、濃い霧の中を歩いていた。

 夢の中にいるような不思議な気分だったが、よくよく観察するとそこはよく見知っている王都の通りだった。

 自身は普段着に加え腰に剣を帯びているいつもの格好だ。


 人影も気配もないが、正面には例外が陣取っていた。

 全身見たこともない黒い鎧に身を包み、表面には金色の光が走っていた。

 その右手には体に比べて大きすぎる位の魔剣が握られていた。



『炎のシグナム・・・おれと戦ってくれないか』

 大魔法≪太陽陣≫はアルテア君が全快ならちょっと疲れるけど特に代償もなく使えます。

 自分で殴った方が早いけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ