37. 閑話 - 魔族になった男
あ~あ、シグナムちゃんの説得、上手くいくと思ったんだけどね。
それにしても妖精郷に引っ込んでるはずのフェアリーの気配が、あのもうちょっとって時にしたのは何でなの?
虚に放り込んだ飛竜もいつの間にか退治されているみたいだし、鉄棘草で虚側の入り口全部封じられちゃったからもう入れないし―――どうも私の知らないところで誰かが動いてるってのは、面白くないわね。
フォーリムは既に王都を離れ、廃棄された丸太小屋を改造した魔王派の隠れ家に居た。
相変わらず室内で実のない議論を繰り返す「同志」は頭の足りない役立たず揃いで、社会のはみ出し者になったのも頷けるような連中ばかりだ。
だがそれも今の自分にはお似合いか、と自嘲気味な笑みが零れそうになったその時だった。
所定の合言葉で入って来た連絡員がとんでもない報告をしたのだ。
曰く「瘴気の酒に挑んでスライムになってしまった獣人の同志が魔族に化け、壁を破って逃げ出した」と言うのだ。
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私には、双子で生まれた兄がいた。
およそ獣人族らしからぬ引っ込み思案さは私と同じだったが、私には魔法少女変身で戦意を増強する手段があった。
だが獣人族の男と言うのは獣化しても魔法少女変身程性格が変化するわけではなく、また幼い頃に兄だけが罹った病の影響で体が弱く、体格も大きく成長できなかった。
そのせいで戦いも強くなく狩りも下手で、一言で言うと蔑まれていた。
その二つが灰色狼の氏族の中でほぼすべてを決める物だったから。
昔兄だけが病に罹ったのは、一人分の薬代しかないのを私に譲ったために自分だけ症状が重篤化してしまったのが原因だった。
そのうち私は戦の力を磨くために生まれた集落を離れ、複数の獣人氏族合同の幼年訓練所である戦技舎に住んで訓練と魔法と多少の学問を学ぶようになった。
兄は残したまま。
戦技舎で過ごした数年間、私は格闘と魔法を組み合わせた戦法を編み出し同世代の中でも戦績でほぼトップ付近をキープしていた。
そんなある時、故郷の集落から知らせが入った。
兄のイプロディカが私たちの父、そして長老を相次いで殺害して姿を消した、と。
そして私は、それを探す旅の果てに見つけてしまった。
昔の面影を残したまま魔族という化物になり果てた、兄に。
一目見て分かっていたはずだが、実際に戦って・・・いや、遊ばれて確信した。
勝てない。
私が捲土重来を期して鍛えた頃には、あいつはもっと強くなっている。
魔族と言うのは、伝説にあるような勇者たちが戦う相手だ。
聖剣の勇者である、アルテア様のような。
しかし彼は未だ力を取り戻しておらず、私はその力の真価を目にした事は無い。
これは氏族の、家族の問題なんだ。
万全でない彼を巻き込むわけには行かない。
魔族となった兄は、私がどうにかする。
たとえ勝てなくても――――――私の、命に代えても。
ぶつ切りモノローグで語るしかないので閑話にしました




