35. 冒険者アルトのダンジョンアタック
「「ダンジョン?」」
冒険者ギルドの中、男女の声がユニゾンした。
声の主の一人は冒険者となるには些か幼い少年で、もう一人は気弱そうな獣人の少女だった。
「はい、ダンジョンです。本来なら魔物資源の供給元として非常に有益なのですが、場所によってはそうも言っていられなくなります。これをご覧ください」
ギルド職員の女性がテーブルの上に地図を広げた。
この街の周辺図であり、ここにとって生命線となる街道のすぐ近くに赤い×印が付けられていた。
「この場所は・・・マズイですね」
「ゴブリンの目撃例や襲撃例が増えて調査したところ、見過ごされていた穴が見つかった。アイアンアントの巣が放棄されたところが瘴気溜まりとなってダンジョン化、ゴブリンが住み着いたようだ。斥候の報告ではナイト級も確認され、既に王国化していると見られる」
ギルドマスターが現状を補足した。
ゴブリンは社会性の高い魔物で、群れの強者を中心とした強固な組織化を行う事がある。
中でもリーダーが上位種や変異体になったり、またオウガに支配されるなどして最も強い者をキングに据え、その他戦闘に長けた者をナイトとして部隊ごとの高度な連携まで可能な組織を作ることがある。
また知能の低い魔物を家畜化して使役するような例もある。
これが王国化と呼ばれる現象で、人に与える被害が極大化する危険な事態である。
付け加えるとゴブリンというのは魔物資源としての価値も最下級であり、二重の意味で災害的と言う他ない。
通常であれば人里近くなら王国化の兆候が見えた時点で冒険者や騎士団が派遣されるのだが、それでも見逃されることはある。
「この街道は隣から街に鉄や穀物が運ばれてくる主な道ですね。使えないとなると致命的です」
「で、でも・・・なんで、その私達なんでしょうか?ダンジョンに住み着いて王国化したゴブリンの排除となると、中級以上で実績のあるパーティに斡旋されるものですよね」
「もちろん斡旋先は複数パーティだが、俺はお前ら二人をすでに中級上位に匹敵する実力はあると踏んでいる。それに今回ダンジョンは埋めて封印するより、できればブレイクしたいというのが領主や各ギルドで一致していてな。ゆくゆくは開拓して農地なり街なりに使いたい土地だから、瘴気溜まりが埋まったままだと困るんだそうだ」
「ブレイク・・・だから私達ですか」
ダンジョンは、核となる濃密な瘴気溜まりを浄化しない限り次から次に魔物を呼び寄せ続ける。
この核の瘴気を浄化する事をブレイクと呼び、その為には十分な実力を持った光系統魔法の使い手が必要とされる。
光に次ぐ浄化能力のある炎系統でも不可能ではないがより高い実力が要求され、規模によっては手も足も出ないのでやはり光魔法がベストとなる。
「そうです。あの規模のダンジョンの核なら、一部では勇者級に匹敵するとも言われる≪彩色魔術師≫アルトさんの魔力であれば可能であるとギルドでは結論付けました」
ダンジョンブレイク可能なレベルの魔法使いはそれなりに居るが、護衛なしにダンジョンに潜ってそれを行える冒険者としての実力の持ち主となると貴重だ。
逆に言うと、銅勇者級以上で光または炎が使える魔法使いならほぼ可能だ。
「分かりました、受けましょう。・・・ところで、その≪彩色魔術師≫って何とかなりませんか」
「出来れば、私の・・・その≪殺戮氷牙≫とか言うのも、再考していただけると・・・」
「二つ名というのは冒険者の誉ですよ。それとも私が考えた名に不満でも?」
職員の女性がより一段怜悧さを強調したポーズで眼鏡をクイッと上げた。
(あんたが考えたのか)と、現在はアルトという偽名を名乗っている少年勇者アルテアは口には出さなかった。
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街道から森に入って山奥と言うほどでもない場所に、アイアンアントに騎乗して統率のとれたゴブリン達が巡回していた。
アルト・ユプシー組の他に依頼を受けたのは斧使いのアクセルをリーダーとしたパーティと、エルフ族ディロラールのソロだった。
ディロラールは光を含む強力な魔法を使えるが広範囲魔法が得意と言う事で外でのゴブリンたちの陽動兼殲滅を役割とし、それで撃ち漏らした敵をアクセル隊が討つ。
キングの撃破とダンジョンブレイクのために侵入するのはアルトとユプシーだが、本当はもう1パーティーぐらい欲しかった。
捕まらなかったものは仕方がないが、ギルド直接依頼はもう少し払いをよくしたらいいのにとこの街を拠点とする冒険者は大体が常々思っているのである。
「それじゃあ、作戦開始だ」
「ほいじゃ始めるかの、≪岩石弾≫」
ディロラールの杖で突かれた地面に円形の光の紋様が走り、その部分が抉られて直径3~4mはある岩石となり宙に浮いた。
その岩の塊が一瞬背丈程度の高さの空中で止まったと思ったら、すぐに凄まじい勢いで空高く射出された。
「儂の魔法に当たらぬためにも認識票は肌身離すでないぞ?≪風爆槌≫」
強烈な魔力の塊が杖の先から上空に放たれ岩石を追い抜いて、岩塊が放物線を描き落下を始めるのを待ってその頂点の上から炸裂した。
砕け散った無数の岩石の欠片が爆風と自由落下を合わせた勢いを得て森に降り注ぎ、轟音と共に広範囲に土煙を噴き上げた。
ユプシーの優れた耳は、ゴブリンなどの魔物と思しき断末魔の叫び声もそれに混じっているのをしっかりとキャッチした。
(何て無茶苦茶な威力・・・!同時発動でも遅延でもないようだけどあの規模の魔法を立て続けに、あんな器用に使うなんて本当にただの流浪のエルフか?昔魔王と戦った勇者の仲間とかじゃないのか?)
アルトはディロラールの魔法に驚きながらも、ユプシーと共に走り出した。
現在のアルト=アルテアは、剣を使うにはまだ不安はあるが中級魔法までなら安定して使える程度にまで力を取り戻しており、「魔法使いの割にはかなり動ける冒険者」として活動していた。
そんなわけで魔法使いという身で結構なダッシュを見せても不自然には思われない。
走りながら≪姿隠し≫の魔法をユプシーに使用し、自分も効果範囲から離れないようについていく。
妖精の魔法程ではないが、複数人を同時に隠せるのは人間としては相当に強力だ。
慌ただしいゴブリンたちだが、ナイトに率いられた各部隊は何とか統率を保っており組織としての堅固さがうかがえた。
それぞれの動作もゴブリンとしては妙に洗練されており、恐らくはキングの知能が高く訓練という概念を導入した結果通常のゴブリンより強くなり、ナイト級はオークに勝る程の戦闘力になっているのが勇者の眼と今までの経験からわかった。
だがその中に魔法を使えるほどの魔力を感じる個体は見られず、外の部隊にゴブリンメイジは存在しないようだ。
生息地域に付随する小分類的特徴で魔法が不得手なのか、それとも・・・。
その入り口は、すぐに見えてきた。
見張りのゴブリンが二匹、ここから先はもう隠密行動をする意味もない。
「ドレスアップ、マジカルチェエエエエエエエンジ!」
ユプシーが飛び上がってポーズと共に叫ぶと全身が光り輝き、どこからともなく現れたレース素材のリボンっぽく見える物体が彼女の胴体や四肢をクルクルと包んでいく。
光が収まると、例の初見では目に悪いフリフリ原色衣装の野生魔法少女スタイルの彼女が、実に攻撃的な笑みと挑発の叫び声とともに登場した。
「氷漬けになりたい奴からかかってこいや、オラアアアアアアアア!」
確かにここからは隠密行動が無意味ではあるが、それ以前に出来ないのである。
アルトは一人静かに(≪殺戮氷牙≫は合ってるな)と思った。
変身のときの叫びはゲッ○ービームで脳内再生しよう!




