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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
四. 冒険者達
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34. 冒険者ガメオと炎のシグナム

テンションに任せて書いてたら長くなりました。

「本当にそれで≪炎のシグナム≫は釣れるのですか?」



 王都の地下、魔王派の小さな拠点には構成員が集まっていた。

 各々黒いマントと仮面を被る様子は異様だが、こういったコスチュームには同じ組織への所属意識を高めながら各個の正体を隠すという効果がある。

 中でも特別な地位を認められている物は相応の席に座り、やや豪華そうな姿をしているのが常である。



『そこは問題はないよ。あの女には例え罠と分かっていても無視できない、しかも他人を巻き込めないそれはもう後ろ暗ぁぁぁ~~~~~い脛の傷っていうのがあるからね』



 妖艶さの中にも少女のような幼さのある女の声が答え、一同は一様に納得した。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 冒険者生活で大分使い慣れてはきたが、妖精郷で暮らし始めて以来武装が何の変哲もないショートソードぐらいしかない状況と言うのはガメオにとって初めてだった。

 神聖王国の王都は、スラムにでも入らなければまず間違いなく今世界で一番安全な場所と言える。

 それだけに警備の兵士や騎士以外で大きな武器を携帯していると疑惑を込めた監視の目が注がれ、魔法や魔道具などで隠すのも阻害される仕組みとなっている。

 フェアリーでもないとその眼を欺くことは出来ず、また現在は隠し持たねばならぬような魔剣もドワーフのもとに預けている。


 しかしガメオはいつも以上の警戒の必要は感じてはいるが、意外と不安はなかった。

 母の味を継いだパイに出会えたお陰かも知れない。

 そのおかげで今まで常時無駄に張りつめていた何かが、ほんの少し緩められたように思った。


 ザアレの眼から見た王都は生命力やパワーに溢れながらも、よくない考えや企みのときによく見られる精霊やマナの動きが無視できないほどにあるらしい。

 それが妖精郷の(うろ)に飛竜を放り込んだような何者かと繋がりがあるかは分からないが、どの道黄鉄の指親方の作業が終わるまでは留まらないとといけない以上気にしても仕方がない。


 その時、ザアレがガメオの袖を引っ張った。



 炎の勇者、シグナム。

 厳重に変装して一人でどこかに歩いているようだが、魂までも見通してしまうフェアリーの眼を誤魔化すことはできない。



「ザアレ、平気か?」


『―――うん、前は不意打ちできてビックリしちゃったから。今は―――少し怖いけど、ガメオもいるし平気だよ』



 間違いなく多少の恐れは滲ませながらも、その強い信頼の籠った言葉に嘘はなかった。

 しかし神聖王国の誇る聖剣の勇者ともあろう人物が、こんな人通りも少ない路地をどこか思い詰めたような様子で一人で歩いているのはどういう事なのか。

 ・・・フェアリーを殺したという凄惨な過去と何か関係があるのだろうか?という本人に聞くしかない問いが浮かんだ。

 ガメオとザアレがここにいるのは、単に今まで見ていない場所を見て回っているうちまた迷ってしまったからだが。


 またしばらく迷っていると突然、絹を裂くような甲高い女の叫び声がカラフルな石畳と白亜の漆喰で作られた路に響き渡った。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 私がその過去を清算する日は、いつか必ず来るだろう。

 だけどそれは今じゃない。

 私が聖剣の勇者の一人で居続ける限り、魔物と魔物の脅威から少なくない人が救われるのを知っているから。

 だからこそ、あからさまに私を呼び出す罠だと分かっていても向かわないわけには行かなかった。


 指定の場所に向かう途中、女性の叫び声があった。



「ちっ!」



 それが耳に入った瞬間、考えるよりも前に体が駆けだしていた。

 この舌打ちが何に対しての物なのか自分でもわからないが、およそ英雄や勇者として祀り上げられる人間に相応しい心情から生まれた物では絶対にない。

 それでも首から下はほぼ勇者としてほとんど自動的に動いてくれるのが、今は有り難かった。


 漆喰の壁が続く坂道の路地の途中で、五人の男たちが一人の女性を抑えようとしていた。

 女性はよく見ると透き通るような肌に尖った耳のエルフ族で、その中でも感じられる魔力とエメラルドグリーンに輝く髪から種族的に強い光の魔力を持つライトエルフだ。

 ライトエルフは昔から邪悪な儀式の生贄として好まれて来たが、体の半分が毛布のようなものに包まって口元の猿轡が緩んだような状況なので、どこぞに運ばれている最中に叫び声を上げる状況を何とか作り出せたというところか。


 全ての状況判断は遠くから見て一瞬で済んだが、敵は五人で人質がおり、武器は護身用のナイフ一本しかない。

 男たちが一般兵程度の技量としても99%問題なく制圧は可能だが、もしもの事態を確実に防いで100%のチェックメイトとするにはあと一手欲しい。


 その時、大人の背丈の倍ほどある漆喰の壁を飛び越えて、黒い髪の少年が鮮やかなトンボ打ちを切って着地した。

 腰にはショートソードがあるが、あれは敵か味方か?

 男たちは狼狽を見せた。

 少年は剣を抜き、彼らに向けた。


 ―――味方!

 だったら、100%だ!



「オアアアアアアアアアアアアッ!」



 敢えて気合を込めた叫びを上げ、こちらに注目を集める。

 少年は余所見をした男の腹を迷わず剣の柄で殴り昏倒させた。

 私に振るわれるダガーをナイフで防ぎ、脇腹に拳を一撃。

 その仲間が左右から同時に切りかかってきたので、左から来た方の腕を取り右の男に投げつけたうえで重なった二人に掌打を入れた。

 これは体術を得意としていたかつての仲間から教わった「後ろの方にも貫通し浸透する」打ち方で、丸十分は起きない手応えがあった。

 少年の方も、残る一人をキックで壁に縫い付けていた。



「ふぅ・・・助かったけど、多勢に無勢で挑むのは感心しないわね」


「加勢のアテはあったし、実際来たんで大丈夫です」



 何ともぬけぬけと言い放つ少年だ。

 私の変装はそれ程巧みな自負はないが、それにしてもアッサリとバレてしまったものだ。

 しかしこの黒髪の少年、技は未熟と言うか雑な中にも見たことのない流れを感じさせ、何より動きが非常にいい。

 かなりの度胸と判断力もある。

 魔王との戦いが確実に迫っている今でなければ、逡巡なく騎士団にスカウトしていたところだ。

 ・・・いや、今はもう騎士ではなかったな。


 とりあえずベルトで男たちを縛り上げ、ライトエルフの女性の縄を切った。

 荒い息を整えながらもほっとしたような表情と共に、女性はその場に座り込んだ。

 雰囲気からしてこの女性は旅人や冒険者ではないようだ。



「あ、あの――ありがとうございます!私、突然攫われてこんなところまで――、一体何がどうなってるのか――!」


「落ち着いて。国内のエルフの集落なら国として全て場所を把握しているから、すぐに帰れるわ」


「本当ですか!?私はいつ故郷に帰れるんですか?」



 ライトエルフの女性が私に縋り付いてこようとしてきた。

 恐ろしい目にあったのはわかるが、こんなに焦るような事があるか?

 そういう不自然さを何となく感じた時だった。



 ド ゴ ッ



 打撃音と共に、エルフの華奢な体が勢いよく転がった。

 見ると、黒髪の少年がそれを蹴り飛ばしたポーズで止まっていた。



「ア、アンタ何を!」


「いいからあいつを!」



 少年が指をさした方を見ると、ライトエルフの咳き込む口から、唾液と言うか内臓の分泌液まみれの小さな瓶のようなものが、転がり落ちそうになっていた。

 蓋にあたる部分には、針が付いていた。

 私は勇者として魔王に与する集団と戦う中で、それをよく知っていた。



「≪死んだふり蜂(デッドリービー)≫が針を刺すときの動きに雰囲気がソックリだったんだ。毒か何なのか知らないけど」


「それで判断したの!?助かったけど・・・呆れたわね」



 少年の驚異的に早い判断が無くても、おそらく対処は出来た。

 だがこの少年が勇者として鍛えてきた私よりも正解を掴む判断が早かった、と言うのは驚嘆に値する。

 それよりも今はコレだ。



「けどそれは毒なんて生易しい物じゃないわ。瘴気の原液とでも言うべき物を直接体内に注入するやつよ・・・さすがにこれを食らって無事でいる自信はないわ。中身を適当に森の地面にでもぶちまければ魔境だって作れる」


「!?」



 流石に今度は少年の方が驚く番だったようだ。

 その時、蹴倒されていたエルフの体がモゾリと動いた。



「フフ――クックック、そうよ。今回の事は全部始めから≪炎のシグナム≫、お前を確実に呼び出す為の罠よ」



 ライトエルフ特有のエメラルドの髪が根元から強く変色し、陶器のような美しい肌には見る間に全身余すとこなくグロテスクな傷痕や火傷のような、まるで長い間拷問にかけられ続けたかのような痕が浮かんで来た。

 瞳は赤黒く輝き、その体からは見る間に、肉眼で見えるレベルの瘴気が立ち上り始めた。



「突然攫われて、ずっとずっと救けなんか来なかった。どれだけ待っても、待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても!――醜い?醜いでしょう?穢され切った上に永久に治らないこんなボロボロの躰になって、やっと解放されたって帰る所なんかないわよ」


「ッ!・・・だからって、邪妖化してダークエルフなんかに・・・」


「しょーがないじゃない、廃人同然でこうでもしないと魔法が使えなかったんだから。綺麗だったころの私にせめて魔法で変化して何が悪いの?それにさぁ」



 ダークエルフの女は瘴気入りの瓶を掴み、地面に叩きつけた。

 ジュウジュウという音と主に発生した濃密な瘴気の煙は、ダークエルフの魔法で操られているのか、複数の蛇の頭が集まったようにグネグネと気色の悪い動きを見せた。



「お前もすぐにこっち側に堕ちるから寂しくないんだよォ、妖精殺しのシグナムがあぁっ!」



 私は反射的に≪炎壁≫で防御を試みたが、それで防ぎきれるようなものでないのは分かりきっていた。

 このままでは後ろの少年も巻き添えにしてしまう。


 またか?

 また守れないのか?

 また、()()()()()()()()()()いけないのか?



 その時、何か強力な魔力と共に光が発生した。

 虹色のヴェールのような膜がドーム状に張られて強い光を放ち、障壁となり私たちを瘴気の蛇から守っていた。



「妖精の命を助けた事があって、それでもらったネックレスだよ。思ったより強力な道具だったみたいだけど、このままじゃ攻め手がないな・・・」



 少年の胸元には、ネックレスが青い光を放ちながら浮いていた。

 いや、ちょっと時間が必要なだけで攻め手なら、ある!



「≪聖剣召喚≫!」



 それは、聖剣の勇者として選ばれた物だけが授けられる魔法。

 大聖堂に安置された聖剣をどこからでも呼び出せるというそれだけの魔法だが、空を飛んでくるために距離があると相応に時間がかかる。

 そしてここは大聖堂と同じ王都内であり、数秒と経たずそれは手に収まる。

 苦情などが来かねない緊急手段だが、瘴気を王都内でぶちまけた敵が居る以上今回は文句も言われようがない。


 真紅の刀身を持つ炎の聖剣は、所有者の炎の魔法をすさまじく増幅する。

 そして炎系統の魔法は全系統で最大の破壊力も特徴だが、光に次いて強い邪悪な存在や不浄なる生命(アンデッド)、瘴気などの浄化能力も無視できない。

 中でも浄化に特化した魔法と言うのが存在する。



「≪浄火≫!」



 刀身から放たれた金色の炎が漆喰の回廊を満たし、瞬時に瘴気の蛇も呑まれた。

 浄火は不浄な存在には致命傷となるが普通の生命体や物体に対してはそれほどでもなく、ダークエルフが苦悶の叫びをあげていても、そこで縛られている男たちには少し火傷がある程度のはずだ。


 幽かに消え入るように、悲しみの籠った声が聞こえたような気がした。



「あぁ――――せめて、綺麗な顔で―――――死にたかった、なぁ―――キラキラ、の―――若草みたいって――あの人に、褒め―――――」




 全てが済んだ後振り返ると、あの黒髪の少年はどこにもいなかった。

 ああ、どんな手品で動く気配もなく消えてしまったのか知らないけど・・・それでいい。


 妖精殺しなんて、私一人で十分だ。


 いつの間には足元に落ちていた、私を呼び出した紙に場所と時刻と共に描かれた首の切られた黒い蝶の絵が、嘲笑っている気がした。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




「あーやっべえ、何でちょっと誘拐を見過ごせなかっただけであんな大ごとに巻き込まれるんだよ!シグナムと共闘するどころか化物退治の片棒じゃねえか」



 どうにかこうにかその場を離れ、ガメオはザアレと共にやや人気のある道に出ていた。

 流石に戦いの騒ぎが聞き付けられたのか、それとも聖剣が動くのがそれだけの事態なのか不明だが、警備の兵や騎士たちが部隊を組んで駆けており物々しい雰囲気があった。



『お疲れさま―――。でもさガメオ、あの人は化物なんかじゃないよ?邪妖のダークエルフになっちゃったけど―――エルフ、なんだよ』


「ああ、そう言うもんなのか・・・悪い、無神経だった」



 ガメオが物言いを謝罪すると、ザアレは悲しみを振り切るような微笑みで返した。

 だが、二人ともその表情は晴れない。



『あの人、変化を解くまでダークエルフだって分からなかった。どんな痛いのや苦しいのを我慢したら、そんな事できるの?』


「どういう事だ?」


『変化しても瘴気は隠しきれるものじゃないの。それを隠すには、邪妖になった体には毒にしかならない光の精霊と結びついたものを、服でも何でもいいから纏うしかないの。―――あんなに強い瘴気の入った瓶まで体に隠していたのに、全然見えなかった』


「・・・そういえば、その瘴気の瓶」


『え?』


「一帯を魔境化できるぐらいの瘴気を発生させる力があるって、シグナムは言ってた。・・・なあザアレ、おれたちが出会った時の事を覚えてるか?急に瘴気が増えてザアレが動けなくなったって話だったよな?」


『―――それって、まさか!』



 空はこんなに青く、王都を歩く人々は色々あるものの大体幸せそうなのに、二人の周辺だけは空気が重苦しい。



「王国内では原因不明で瘴気が広がっているって言う話ならあるのに、おれは瘴気の瓶なんてもの、シグナムに聞くまで噂話にも聞いたことがなかった。それは瘴気の瓶を作れる連中が限られていて、多分混乱を避けるために広められてないんだ。人の手でそれが出来るなんて大ごとにもほどがあるしな」



 初めて会った時、ゴブリンに全身全霊の殺意を向けていたようなガメオの横顔を見て、ザアレは息をのんだ。



「おれの村が滅んだのは、そいつらのせいだ」

単なる人質がいきなりダークエルフに化けたので僕自身どうしようかと焦りました。

今回長くなったのはこの方のせいだけど後悔はないです。

他の作者様は似たようなことあるんでしょうか?

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