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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
四. 冒険者達
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33. モリナシのパイ

 モリナシは、神聖王国を中心とした大陸全土で広く見られる果物である。

 野生種なので品種改良されたリンゴなどに比べて小さく、そして恐ろしく酸っぱいが上手く加熱すると非常に美味かつ香り豊かになる。

 何と場合によっては人の手で改良された種よりも甘くなるものの、その素晴らしい味を限界まで引き出すためには相当な経験が必要になる。

 これはかなりの腕の料理人でも至難とされており、その道の火加減の修行として昔から現在に至るまで使われているほどだ。


 農業と流通が発達し多くの食材が甘味に使われるようになっても、未だ魂に染み付いた味として多くの人に愛されているそんなモリナシではあるが、ここ十年以上強さを増す瘴気の影響なのか、以前は呆れるほど採れた一部地域でもそれほど採れなくなっているという。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




「ユプシーがお菓子を作れるなんて意外・・・と言ったら失礼なのか何なのか、うん。自分でも何言ってるのかわからないから忘れて」


「言いたいことはわかりますが、私以外に言ってはダメですよ?」



 その日、ユプシーはアルテアの屋敷の厨房を借りていた。

 アルテアのリハビリとして名を隠しての冒険者生活を二人でしているのだが、屋敷に一度帰った時ちょうど大量のモリナシの処分に困っているところに出くわしたのである。


 ここ数年実を付けなくなっていたモリナシの森が再び結実を見せ始め、調査程度に留めようとしたら思った以上に採れてしまったのが一部送られてきたらしい。

 そこでユプシーが「パイにするので厨房を借りたい」と提案したのだ。

 既に消費するために屋敷の料理人の手により一通りメジャーな作り方がなされ、その中にはパイも含まれており全てで飽きが来ているため家人たちからは難色が示された。

 しかし屋敷の主であるベルターナが承諾したため、現在ユプシーによるパイ作りの場になっていたという経緯だ。


 その結果。



「甘い!すごく美味しいわ!」


「酸味と甘さにムラはある・・・だが、火加減の調整のみでこれ程までに甘味を引き出すとは、ぐぬう・・・。私も料理人としてまだまだ精進が足りぬようです」


「温度調節の冷却魔法の為に変身したときはどうしようかと思ったよ。ユプシー、君は本当にすごいよ!」



 大方の予想を覆し、大好評であった。

 同じものを沢山作れれば、余っているモリナシを屋敷関係者だけで二日で食べ尽くすことも出来るだろう。



「まだまだですよ。叔母であれば味のムラなんて出しませんから」


「これは貴女の叔母様から教わったの?」


「はい。さらにそのオリジナルがあると以前聞いたことがあります」



 ユプシーの叔母は若い頃、人族の女性と組み冒険者活動をしていた。

 その駆け出しの頃大した魔物もいないような平和な地域で道に迷ってしまい、一つの村を見つけて何とか命を永らえたという。

 そこで一人の村娘に振舞われたモリナシのパイが信じられないほど美味しく、頼み込んで一年ぐらいそこに留まってモリナシのパイの修行に専念してしまったらしい。

 やがて冒険者を引退したユプシーの叔母は故郷に帰り、それほど食べ物に拘りのなかった灰色狼の氏族に味覚革命を引き起こしてしまった。



「・・・世の中には知られていないだけで、とんでもない人物が埋もれているものですね。その村娘の方はどうしているんでしょうか?」


「今どうなのかは知りません。年齢的には・・・そうですね、叔母と同じぐらいと聞いていているのでアルテア様位の子供がいてもおかしくはないでしょうが」



 ベルターナの問いにユプシーが答えたその時、何かがアルテアの首筋をチリリと撫でるような感覚があった。

 これは生まれて初めてオークと戦う事になった日や、瘴気の飛竜を目にしたときに感じたのと同じ感覚を極限まで弱くしたものの様に思われた。

 だがむしろ、この程度であれば最近の寒暖差で体調を崩す予兆、でなければ気に留めるほどでもない気のせい考える方が妥当である。


 それよりもアルテアが気になるのは、急にモリナシの森が復活しているという事実だ。

 瘴気の広がりが止まったという情報はどこにもなく、なのにモリナシが実りを取り戻しているというのはまだ明るみになっていない大きな動きや流れがあるのではないか、と。



「アルテア様、甘い物の時ぐらい難しい顔をしなくてもいいのでは?」


「仕方ないでしょう。それが・・・勇者という生き方なのですから」




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 大陸中で食べられているだけあり、王都に於いてもあちこちの露店や店舗で数多くのモリナシのパイが売られていた。

 ガメオは黄鉄の指工房を探して迷っている間、そして親方の作業を待つ間にいくつか試してみたが、その結果得られたものは「実は母さんってこれ作るの信じられないぐらい上手かったんだな」という再確認だった。


 ザアレと一緒に買い食いしたパイは美味いか不味いかで言うと、間違いなく金を喜んで払える程度には美味だ。

 拠点の街で普通に売っているのに比べれば明らかにレベルが高い。

 だがその甘みを別の果物のジャムで補強していたり、食感のサクサクや香りを工夫していたりとモリナシそのものの味を極大まで引き出していたものではなかった。

 美味い、けど味気ない。


 テーブルを囲んで家族みんなで、たまに村人もごちそうになりに来たあの味を食べる事は二度とないんだろう。

 そう思うと、心の中に空いた空白がより強く自覚されてしまった。



『あれ、ガメオのネックレスが外れそうだよ』


「本当だ・・・っと、しまった!」



 シィタの青い石をあしらったネックレスのホック部分はこれまでの冒険や戦いの中で若干歪み、外れやすくなってしまっていたのだ。

 舗装された地面に落ちたネックレスはカランカランと、まるで生きているかのようにガメオとザアレの手をすり抜けつつ見事に坂道を転がり落ち、ある店のドアが開いている前でやっと止まった。


 そこは、モリナシのパイを専門に出す店のようだ。


 ガメオはネックレスを拾った姿勢のまま、思わず目を見開いた。

 店内から漂ってくる香りが、それまでのものと明らかに違ったのだ。

 モリナシは加熱すると甘味が出ると同時に香りも立つのだが、その具合が甘味と同様に果ての無い道なのである。

 火の扱い一つで強い甘味と芳醇な香りを両立させるとなったら、それはもうその道の達人の域だ。


 そして店内からの香りは、母の手作りのパイのものに匹敵していた。



「坊やたち旅人さんかい?ごめんよ、この店は完全予約制なんだ」



 見ると、店の女主人らしきエプロン姿の女性がそこに立っていた。

 成程、明らかに他の店とは一線を画すこのレベルなら予約制なのも頷ける。



「・・・いえ、すみません。火加減だけでこんなにいい匂いを出してたのに驚いてしまって」


「へぇ、分かるのかい。・・・うん、ちょっと待ってな。そっちの子もね」



 女主人は一度店の奥に引っ込み、暫くしてモリナシのパイを二切れ持って来た。

 ガメオは一度は遠慮したが、窯の具合を見るために焼いているものなので客には出せず、賄いにでもするしかないパイだという。

 そう言う事なら、と折角だから貰う事にした。



「・・・!」


『この味って―――』



 似ていた。

 完全な同じ味とは言えないが、ガメオとザアレの記憶の中にある、あの達人級のモリナシのパイにかなり近い味と香りがしていた。



「賄いとは言えなかなかだろう?でも私はまだまださ、師匠にはてんで及んじゃいない」


「師匠?」


「私はこう見えても元冒険者でね。獣人の子とコンビ組んでたんだけど、駆け出しの頃遭難しかけてある小さな村に助けられたのさ。その時食べたモリナシのパイがこの世の物とも思えないぐらい美味しくて、それを作ったのが私らとそう変わらない年の女の子だったんだよ。それで惚れ込んで、頼んで拝んでやっとこさ教えてもらったんだ。そのうち冒険者は引退したけど、その時教わったパイと稼いだ資金で私は王都にまで店を持てたんだ。そういえば相方だった子も、故郷でパイを広めたって手紙が来たわね」



 あまりにも多くの物が胸の中に渦巻くのをこらえ、ガメオは震える声で尋ねた。



「・・・その時の、村って・・・」


「ああ・・・残念だけど、少し前に魔物に襲われて滅んでしまったって聞いたよ。魔境化も始まっていてその一帯は封鎖されてしまってね。恩返しも出来ちゃいないのに」



 少し冷めたパイにかぶりつく。

 一口目はあんなに口いっぱいに甘かったと言うのに、今のガメオの舌はやけにしょっぱい味しか感じていない。



『―――ガメオ?』



 ガメオはザアレに言われて初めて、自分の両目から涙が溢れ出して頬を濡らしていることに気付いた。

 拭っても拭っても、次から次に全然溢れて止まってくれない。


 ―――女店主は冒険者時代、個人としての腕の良さよりもむしろ察しの良さや要領の良さなどで世を渡ってきた人物だ。

 先輩に可愛がられるよう振舞い後輩もよく面倒を見て、他の冒険者と助け合う事に非常に長けていた。

 その対人能力は、冒険者引退を決めたときもギルドから見込まれ「職員として働かないか」と慰留されたほどだ。

 そんな彼女が、気付かぬはずはなかった。



「・・・あぁ、そんな・・・何て事、なの」



 パイの師匠だった女の子も、あれから流れた歳月を考えたらもう子供がいてもおかしくない。

 その村には黒髪の人間が多く、その女の子もまた黒髪だった。

 そしてモリナシのパイの香りが鋭敏に分かる、目の前の黒髪の少年。

 全てがつながってしまった。


 くしゃくしゃの顔から大量の涙を零して嗚咽する少年を、女店主は抱き締めた。



「ぁ・・・ぅぁ、ぁ・・・・!」


「ああ、いいんだ。泣いてもいいんだよ。生きてるんだから、ね・・・」






 バスケットに入った売り物用のパイが、ガメオに差し出されていた。



「・・・これって」


「良いから受け取っておきな。私には師匠に返せる物なんてこれぐらいしかないんだ、むしろ貰ってくれないと困る」


『もらっておこうよ、ガメオ。甘い物はシアワセの味なんだよ?今度はみんなでニコニコして食べようよ!』


「お、お嬢ちゃん良いこと言うね!甘い物はシアワセの味・・・看板で使ってもいいかい?」



 女店主の強かさに、ガメオは思わず噴き出した。

 ザアレも釣られて笑い出した。


 不思議な感覚だった。

 母の残したものがちゃんとあったのを知る事が出来て、ようやくガメオは別れを告げる事が出来た気がしたのだ。

 今回は閑話にしようか迷ったんですが、内面の変化上非常に重要なエピソードなのでナンバリングにしました。

 バトルファンタジーなのにいつバトルするんですかねぇ・・・。


モリナシのパイのうまさLV

一般人:5~20

ユプシー:50

女店主&ユプシーの叔母:90(店主は香重視、叔母は味重視)

J( 'ー`)し:120


Q:なんでJ( 'ー`)しはそんなにモリナシのパイ作りがうまかったの?

A:ToL○VEる体質のモテ男を射止めるために頑張った。頑張りすぎた。それがパパだよ。

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