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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
四. 冒険者達
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32. 冒険者ガメオと名工らしいドワーフ

 翌日、街のランドマークの一つである大時計台が正午を指すよりもだいぶ前にガメオとザアレは工房街の入り口に立っていた。

 ギルドで道を聞いたら懇切丁寧で分かりやすい説明で一気に理解できてしまったので、王都に付いたら真っ先にこうしておけばよかったと後悔した。

 ただ拠点の街の冒険者ギルドは受付がここまで愛想がいいわけではなく、そういう発想が出にくかったのも仕方ないことかもしれない。



「ここまで鉄と火のニオイがする。いかにも鍛冶屋の街だな」


『あたしはあんまり好きなニオイじゃないなー。花とか果物の方が好き』



 ザアレは一晩寝るといつも通りの元気な様子には戻っていたが、妖精殺しの勇者が居るこの街に留まる事自体が多少なりとも負担になっていることは間違いない。

 鞘の修理に時間が掛かりそうなら、ザアレだけでも一度妖精郷に戻すと言う事もガメオは考えたが・・・。



『置いていかないでね』



 袖を握ってそんな事を言われては、一人で帰すことはできない。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 工房街に立ち並ぶ大きく立派な店構えの建物をことごとくスルーし、さらに奥に行くと貧民街じみた景色になって来た。

 その建物の前には≪黄鉄の指工房≫と、今にも崩れそうな看板に消えそうな文字で書かれていた。



「ヴギルから聞いた工房の名前、これだよな・・・」


『ドワーフの気配がするから、どこかに引っ越してはいなかったみたいだね。けど―――ホントにボロボロの小屋だね』



 意を決してスクラップ寸前のドアを開けようとしたところ、勝手に開いて中から男が二人出てきた。

 一人は白い髪に帽子を深く被り顔は見えず、もう一人は軽薄そうな印象の顔に口髭を蓄えており剣と盾を携えていた。



「おっとすまねえな、まさか他に客が来るとは思わなかったぜ」



 チャラい髭男の方がそれだけ言うと、それ以上二人には特に関心も払わない様子で歩き去った。

 白い髪で帽子の方は少しだけガメオとザアレの方を振り返った気がして(あれ、どこかで見たかな)と思ったが、それ以上ガメオは記憶を辿る暇は持ち合わせていなかった。



「んあぁ?また客が来やがったと思ったらガキじゃねえか。ここを遊び場と間違っとるんか、アン?とっとと(けえ)れ!」



 ハンマーでぶん殴るような声の主は、眉毛を不機嫌そうに歪めた一人のドワーフだった。

 半端ではない逞しさと同時に、刻んできた年月の分だけ経験と同時に捻くれも重ねてきたような人物にガメオの目には見えた。

 ああこれ絶対面倒くさいタイプのジジイだと一瞬で判断が下された。

 関わり合いになる妖精族はフェアリー以外こんなのしかいないのか。



「おう?よく見たら片っぽは人族じゃのうてフェアリーか。――――まあどっちでもええ、今日はもう店仕舞じゃ!」


『あっあのお爺ちゃんあたしたち』



 そう言おうとしたザアレをガメオは手で制し、背負っていた細長い木箱を床に下ろした。

 わざとゆったりした動作で開け、中から鞘に入った魔剣を取り出した。



「ドワーフの職人ってのは自分が作ったモンに誇りと責任を持つ連中って聞いてたんだが、あんたは違うのか?」


「何じゃと、もう一遍言ってみろクソガキ!」



 老いて尚言動の粗暴さに磨きをかけたドワーフの職人だが、ぎらついた眼でドカドカと目の前の少年に歩み寄る動作に反し、差し出された鞘入りの剣を受け取る手は意外なほどに繊細な力加減だった。

 そこで流石に、間違いなく自分の手による作品であることに気付いたようで改めて目を見開いた。



「――――おい小僧、こいつぁどこで手に入れた」


「拾った」


「嘘吐くんじゃねえ!ホイホイ落ちていて堪るか!」


「拾ったんだよ、ホイホイ落ちてた事情は剣に聞いてくれ。それより問題はその鞘で、妖精戦士のヴギルにもらったやつだ」


「確かにこいつぁ大分前にヴギルにくれてやったモンじゃが――――フン、強い雷の魔法で灼かれて魔封じがイカれてやがるか」


「この前ディロラールって変なエルフのオッサンに魔法の巻き添え食らったんだよ。文句ならそいつに頼む」


「――――その腕輪」


「あーそうだ、そん時オッサンにこれ押し付けられたんだよ」


「儂が作った物じゃ。エルフの業で少しばかし弄られとるようじゃが」


「・・・は?」


「何だってお前ェみてえな小僧が儂の作品をじゃらじゃら集めとるんじゃ。()()()()()か?」


「・・・おれが知りてーよそんなの」



 ガメオは言っている意味は分からないが、物凄く失礼なことを言われているのだけは辛うじて分かった。

 ただ実際ドワーフの名工ともなれば、その銘目当てで金に飽かせたコレクターが使いもしないのに収集するというのが珍しくもない。



「フン、まあええわい。折角じゃあ全部置いていけ、明日の夕方には使えるようにしておいてやる」



 その答えに、ずっと不安げに会話の推移を見守っていたザアレの表情がやっと明るくなった。

 そして≪収納≫から一本の瓶を取り出し、カウンターに置いた。



『ありがとうお爺ちゃん!これ、お父さ―――ヴギルから代金代わりに預かってきたフェアリーのお酒です。あ、言い忘れてました。あたしはザアレ』


「・・・ガメオだ」





 古びた工房には似つかわしくない幼すぎる二人の来客を見送り、ドワーフの職人は手際よく仕事道具を準備しながら思い出していた。

 アーティファクトの再現者とまで言われた職人である彼が心血を注いで作ったはいいものの、本来の使い手には終ぞ渡る事なく、息子に工房を継がせる際に置いてきた一本の魔剣。

 聖剣覚醒の儀式のために拠出して、その輸送の途中に襲われて破壊されと報せがあった時は不思議なぐらい怒りも悲しみも湧かなかった。

 ただ心のどこかに燻ぶっていた火種が静かに消えたのが、ハッキリと自覚されただけだった。


 しかしその魔剣は健在だった。


 唯一人にしか使えないはずで、仮に使ったところで世に溢れる強力な魔剣と比べ大した意味もないそれは、自らの意志で新たな主を定めていた。

 ドワーフの鍛冶として数多の戦士たちを見てきた彼から見て、丸っきり才能の欠片も感じない一人の少年を。



「この儂の最大の自信作をこんなメチャクチャな使い方しおって。しかも剣が泣いておるどころか泣いて喜んどるわ」



 彼が剣がどのように使われてきたかを観るのは妖精としての神秘の能力ではなく、純粋に職人としての経験により得た眼力だ。

 ドワーフの中でも名工と称えられながら、同時に異端扱いされる原因の一つであった。



「ヴギルの娘が置いてった酒、100年で一樽しか作れねえ最高級の奴じゃねえか。どれだけ入れ込んどるんじゃ?しかも――――よりにもよって、()()()とはの」



 熱の入った工房内に、金属音が鳴り響きだした。

 お爺ちゃんありがとう!って呼ばれて心の中のサムシングが反応しそうになった方はブックマークお願いします(罠)

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