29. 冒険者たち
「だから」ゴガッ
「そう言うのは」ドボッ
「ダメって言いましたよね?」ギリリリリ
人の体って蹴りが刺さるとドボッて鳴るんだ、片手で顔掴んで持ち上げられる物なんだーとガメオが薄っすら思っているうちに目の前で全てが済んでしまった。
そしてガメオより少し年上ぐらいの獣人の少女は向き直った。
「あの・・・冒険者のなり立てってかなりカモとして狙われるので、気を付けてくださいね・・・?危ないのでもう行った方がいいですよ」
「は・・・はい、忠告どうも」
礼も程々に忠告通りガメオが角を曲がってその場を去ると、獣人少女を追うように新たな人物がその場に現れた。
それはガメオと同い年程度に見える少年で、獣人の主人のようだった。
「急に消えたと思ったらユプシー、どういう状況なんだいこれは?」
「あ、アルテ・・・アルト様。冒険者の初心者狩りを以前もやっていた者達が子供の冒険者を付けていたのが見えてしまったので。アル・・・ト様と同じ位の年頃でしょうか」
「へえ、私が言うのもなんだけどそんな歳なら流石に目立つだろうな。なるべく息災であってほしいものだね。今度予定されてる大規模殲滅依頼で一緒には・・・ならないだろうな」
「・・・分かりませんよ」
「?」
「いえ・・・余計な一言でしたね。お忘れください」
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「ようガメオ、なかなか活躍してるらしいじゃねえか。ソロでホブゴブリンのネームドまで討伐するなんてな」
冒険者ギルド内で声を掛けてきたのは、ビッグラット狩りの引率として一緒だったベテラン冒険者、斧使いのアクセルだった。
実力もあるがそれ以上に人望と信用のある人物で、彼の目がある所では要注意人物と目される一部冒険者も滅多な事はしないために、ギルドからも冒険者たちからも一目置かれ頼りにされていた。
まあ見えない所ではガキのくせにどうのとガメオに絡んで来ようとする奴はいるし、今も座席で酒杯を傾けながら嫌な視線を向けてくる者がいるが。
「どこかのパーティに専属で入る予定はないのか?お前だったら引っ張りだこ・・・までは行かなくても歓迎されると思うぞ」
「心配してくれてありがとう。けど、ソロと助っ人で半々って言う今のスタイルがおれには一番ちょうどいいんだよ」
この絡まれやすい状況を鑑みての提案だろう。
しかし明らかに分不相応な業物の魔剣を使いながら、技術や知識を学習するためにパーティにつくと言うのは今のガメオではリスキーすぎる。
やっと色々慣れてきてここ数週間のうちは多少の実績も上げられているとは言え、ガメオのような子供が持っている物として魔剣は不自然と言うものだ。
「ま、冒険者は人それぞれだがな。気が向いたらいつでも紹介してやるぞ」
アクセルはそう言うと依頼の掲示板から何か剥がし、受付に持って行った。
『ガメオ、今日は何を選ぶの?』
「一度パーティで戦ったパイロトードとオオノコギリウサギの討伐を魔剣でやっておきたいな。距離も遠くないし」
姿を消しているザアレの声はガメオにしか聴こえず、それへの返答も余程大声でないと他人からは認識されない。
取り敢えず他のパーティに臨時参加して魔物と戦い、知識を得てから再びその種の魔物と魔剣で戦う、というやり方で取り敢えず安定していたので、今回もその方針で行こうと思っていた時だった。
「なあ、例の獣人格闘家とガキの魔法使いの二人組、今度は翼が8枚に増えて火の玉まで吐く飛行ムカデの変異体討伐したってよ」
「かーっ、才能あるやつっているよなあ!治療中の勇者アルテアもそろそろ治るんじゃないかって言うし、うかうかしてると獲物全部取られちまうぜ」
同じギルドでのその二人組の活躍はガメオとザアレの耳にも入っているが、ニアミスはしているらしいものの不思議と直接見る機会は今の所なかった。
(獣人・・・まさかな)と以前初心者狩りを叩きのめしていた人物の事がガメオの脳裏に浮かんだが、獣人の冒険者と言うのは人族よりは少ないものの珍しくもなく、その考えは振り払われた。
『それじゃあ今日もがんばろー!』
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パイロトード。
沼地に群れで生息し、その名の通り炎を特殊能力として持つ。
可燃性の油を肌から分泌し、生息地周辺は油や炎に弱い動植物が棲めなくなると言う環境に与える影響の大きい魔物だ。
燃料として有用な油を取るには氷漬けにしてそのまま持ち帰るか、反応して発火される前に素早く絶命させる必要がある。
後者の場合は専用の袋で死体を絞った油を瓶に入れて持ち帰るのが一般的で、どうしても買い取り価格は低くなるがガメオの場合は仕方ない。
オオノコギリウサギ。
頭に角の生えた一角ウサギの上位種または変異種と見なされる魔物で、フォルムは可愛らしいものの口の左右から生えている大きなノコギリのせいでよく見ると顔がグロテスクである。
雑食性で俊敏さと残忍さを兼ね備え、耐久力こそないが腕ぐらいなら簡単に咬み切られるパワーで初級殺しの魔物として有名だ。
魔物の技を魔剣である程度再現できるのは確認済みだが、あの竜の突進程しっくりくる技と言うのは流石に中々ない。
毒や魔法、炎みたいな能力を持つ魔物の動きを模倣しても当然そう言う物が出るわけではない。
また人体構造を無視したり能力の限界を局所的に超えた動作ができるわけではなく、魔剣の力で模倣した時点でアレンジが入り実戦で使いこなすのはほぼ不可能、または出来てもあまり意味がない物がほとんどであった。
ただそれらの動きを一度体に取り込む事で、自身の身体感覚が少しづつ更新されていくのをガメオは感じていた。
そしてパイロトードとオオノコギリウサギはその点当たりだった。
カエルの跳躍と発火のための反射神経、そして二本のノコギリの二刀流は多少の工夫で比較的すぐに使える技になるからだ。
・・・とは言え、それを今後生かすにはこの状況を無事切り抜けないといけないわけだが。
「おあああああああああッ!ザアレ、この先はどうなってる!?」
『真っ直ぐ行けば街道があるから魔除け結界になってるよ!』
パイロトードの群れとオオノコギリウサギの群れが後ろからものすごい勢いで追って来ていた。
人の生息域からそう遠くないここでザアレの広域結界は、どんな悪意ある者がその多くの精霊のざわめきを察知してしまうか分かったものではなく、使うわけにはいかない。
なぜこんな事になってしまったかと言うと。
「アーッハハハハ、人界の冒険者生活と言うのは中々にスリリングじゃのう!」
「黙れディロラールこの野郎ッ、オトリの生餌にすんぞ!」
ガメオの隣をハイテンションで走るのは長身痩躯に尖った耳、森に棲む美しい妖精族として有名なエルフの男ディロラールだった。
冒険者ギルドで何度か見かけて名前と種族ぐらいしか知らなかったこの男がパイロトードとオオノコギリウサギの両方の群れに風と雷の広範囲魔法を適当にぶち込み、暴走が起きそうなところに偶々ガメオとザアレが出くわしてしまったのだ。
そこで「やあやあ、人族がフェアリーを連れているなど珍しいの」などとでかい声で巻き込んできて、この場を切り抜けるために魔剣の出し惜しみをしている場合ではなくなったのである。
そして街道が近くなるにつれ魔除け結界が強くなり、魔物たちの足が遅くなってきたところでディロラールは跳びながら振り返り、大きな魔法を放った。
左手からは目の前が見えなくなるほどの凄まじい≪濃霧≫、右手からは≪雷撃≫を同時に放ち、一気に魔物たちを殲滅してしまったのだ。
「霧を雷が通る≪電霧奏≫と儂が名付けた魔法、お味は如何じゃったかな?ま、湿気の多い場所でしか使えんのが残念じゃがの」
「ゼエ、ゼエ・・・ふざけやがってこの野郎」
パイロトード達の死体が一斉に発火したのが、濃霧越しにも見えていた。
目当ての魔物たちを斬りまくったおかげでガメオの魔剣には十分に生命力が溜まり、その能力を確認しながら技を盗めたのは結構な収穫と言える。
しかし素材を得るのには完全に失敗し、しかも得られた結果が過程のまずさを必ずしも相殺しないと言う考えを師の一人ランツェから受け継ぐガメオの怒りは収まらなかった。
『―――ちょっと待ってガメオ。この人ガメオがへとへとなのに、息一つ乱してない。それに妖精からも隠れられるはずのあたしの事が完全に見えてたし、しかもあんな大きな二つの魔法を一緒に使ったなんて―――ただのエルフじゃないよ』
「おお、フェアリーのお嬢ちゃんは結構賢い子じゃの」
ディロラールは改めて二人に向き直り、自己紹介をした。
「儂はディロラール。神聖王国に接するエルフの森の先代の長じゃったが、今はただ一人のエルフの冒険者じゃよ」




