表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
四. 冒険者達
31/131

27. 吹雪の男と黄鉄の指

「イオンズ、お前のポーション助かったぜ。マジで役に立つとは思わなかったが・・・まさか、何が起こるか分かっていたのか?」



 飛竜討伐の三日後、負傷の重い後遺症に苦しむアルテアは既に故郷行きの馬車で送られ、その護衛にはシグナム隊が付いていた。

 王城内で聖剣の勇者たちに用意された部屋にはゼタニスとイオンズしか残っておらず、その前の廊下でゼタニスはたまたまイオンズと鉢合わせして声を掛けた。

 一度は全身を氷漬けにされて砕かれたゼタニスだが、数秒以内に妖精の粉入りの高級ポーションで全快させたため、現在は多少の引き攣りこそあるもののほぼ影響は残っていない。

 しばらく体を動かせばこれも治るだろう。


 ゼタニスの問いに対して、イオンズは常に被っている仮面の目の部分の蓋をカシャッと開けて見せた。



「その眼は・・・」


「俺の眼は()()()()()()魔眼でな。少しだが未来が見える事もある」


「・・・まあ何にせよお陰で助かったんだ、詮索すんなっつーんならしねえよ。付き合いも思ったより短くなりそうだしな」



 仮面を再び閉じつつ、イオンズはどこか寂しそうな、それでいてスッキリした様子も滲ませるゼタニスの次の言葉を待った。



「何があったか察するのに魔眼もいらねえよな、俺はアルテアが治るの待って勇者クビだとよ。ガルデルダの旦那はともかく、それ以外の連中は俺が残るのはそりゃ納得しねーよなあ。アルテアみたいな人気もなけりゃ騎士や冒険者の人望もお前らほどじゃねえしな」



 唯一人の真の勇者であるアルテアが後遺症が残るほどの重体になった責任を取るとしたら自分しかいない、ゼタニスが言っているのはそういう事だった。



「これからどうする気だ?」


「アルテアが治ってからの事だが・・・ま、時が来るまでは好きにするさ。魔王が復活したらこの世にいる限り逃げようもねえし、そん時は俺は俺で何とかやるさ」


「そうか、なら今から付き合え」


「・・・は?今からか?」




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 勇者の一人、聖剣を抜く際に強大な魔力を国中に見せつけたあのアルテアが飛竜討伐で重傷を負ったという報せは既に王都に広く知れ渡っており、民の間には不安が広がっているのがありありと見て取れた。

 一緒にいたと言う雷の勇者ゼタニスを街の大通りで公然と批判する者もおり、それを窘める声もそれ程強い調子ではない。



「成程ね、変装なしじゃ出歩けねえレベルで有名人だわこりゃ」


「・・・こっちだ」



 ゼタニスは地味な服装にカツラと付け髭で変装し、イオンズは仮面を外して眼帯をし冒険者風の帽子を深く被っていた。

 イオンズの案内で入った路地は工房街だが、騎士団や有名冒険者御用達の大手はスルーしてどんどん寂れた方に入って行き、漸く足が止まった家は辛うじて工房と分かる程度の非常にボロくて小さい門構えをしていた。


 ドアを触ったら壊れるんじゃないかと言うゼタニスの心配を他所に、イオンズは問題なくそれを開けた。



「≪黄鉄の指≫親方、いるかい?」



 薄暗く武具類が一見して雑然と、しかしよく見ると整然とディスプレイされていた。

 その全てが最低でも一級品である事がゼタニスには一目で分かった。

 室内で何かがごそりと動いた。

 それは人間よりも頭一つ分背が低く、肉体はずんぐりとしながらも非常に逞しく、そして顔には大きな髭を蓄えていた。

 ドワーフだ。

 妖精族の中でも人に近く、魔法と言うより奇跡じみた鍛冶などの技術でもって人の世に溶け込んでいることで知られている。


 ゼタニスは冒険者として人より多くのドワーフを目にしてきたが、目の前の人物はそれらのドワーフ性とでも呼ぶべきものをより高純度に圧縮したような、そんな存在に見えた。



「ふん、まだくたばってなかったか。余計なモンまで連れてきおって」


「親方のお陰で余計しぶとくなってな。彼はゼタニスだ」



 そう言うとイオンズはどこからともかく酒瓶を取り出し、親方の前のカウンターにごとりと置いた。

 確か王宮のどこかに飾られていたやつのような・・・。



「ああ、これはこの前の報酬代わりにもらった奴だ」



 このドワーフ職人に渡すために飛竜討伐の褒賞として、この異常に値段が高いであろう名酒を選んだようだ。

 ゼタニスが一人納得していると、イオンズが続けて驚きの行動に出た。

 自身の右手をガチャリと言う音と共に取り外すと、「親方頼む」とドワーフの前に置いたのだ。

 常に仮面同様小手を外さないと思ったら、実は手首から先が義手だったのだ。

 しかし装着者の意思で生身の様に随意に動く魔道具の義肢と言うのはあるにはあるが、それでも人工物であることを悟らせない程滑らかに動き、なおかつ勇者の剣技に耐えられる代物など聞いた事が無い。


 このイオンズと言う男の謎はますます深まるばかりだし、ドワーフの職人のレベルの底知れなさも窺えた。



「おい、そこの小僧!突っ立ってねえで得物を選んでろ」



 小僧、と特定人物以外からはかなり久しぶりに呼ばれたゼタニスは面食らったが、イオンズの「ふぅ、追い出されずに済んだか」という安堵の言葉で見た目通り凄まじく気難しいのを悟った。

 しかしドワーフは「鉄」「鋼」「青銅」「金剛石」と言った鉱物名を二つ名にすることは多いが、よりにもよって愚者の金(フールスゴールド)などと呼ばれ資源的価値が低い黄鉄とは、気難しさの上に相当なひねくれ者が付くようだ。


 メインの用事はあの義手の整備と調整だろう。

 それなりに時間は掛かると思うが、店一杯の宝の山を見ていると割とすぐに終わりそうだともゼタニスは思った。

 ふと、一揃いになっている剣と盾が目に留まった。


 華美な装飾の類はなく、目立って上等で派手好きのゼタニスの好みには全く引っかからないはずの武骨さ――店内の武具類全てに言えるが、中でも特に飾り気が少ない――があったのだが、それでも目を離す事ができなかった。

 まるで生まれて初めて自分の金で自分の剣を選ぶような敬虔さで延ばされた震える手が柄に触れた。

 馴染む。

 まるで自分のためにあつらえられたかのように。



「試し切りならそこの裏庭でやれ」



 ゼタニスの様子に親方が声を掛け、また奥に引っ込んだ。

 そう言うのって店の者が見てる前でやるもんだろ・・・と内心呆れたが、同時に信用されているようで嬉しくも思えた。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




「三日後取りに来い。代金はそこの白坊主から受け取ってある」


「オイオイ・・・あれどう考えても軽く買えるような値段のモンじゃねえだろ・・・」



 敵を殺す兵器としてなら明らかに雷の聖剣の方が遥かに強力なのだが、親方の手による剣は純粋な剣としての性能が凄まじいものがあり、盾もそれに等しいものが感じられた。

 ドワーフの手により作られた物は自分の意思を持つことがあると言うのも、恐らくは嘘ではないなどと言う段階を通り越して「間違いなく真実」と思わせるほどの出来栄えだ。



「いるのか?いらんのか?」


「要ります」



 竜よりも迫力のある目でジロリと睨まれて問われては、もうそう答えるしかない。



「少し早いが餞別代りと思っておけ。簡単に死なれると困るからな」


「ま、そう言うんなら有り難く受け取るしかねえな」



 聖剣を与えられるほどの傑物が目の前から居なくなるだけならまだいいが、詰まらないところで命を落とされては魔王の脅威に立ち向かえる大きな力を一つ失う事を意味する。

 イオンズが言っているのはそういう事だ。

 恐らく真の餞別はこの剣と盾ではなく名工との誼なのだろう。



「魔王が本格的に動き出すまでは数年の猶予がある。やるべき用事があるのならそれまでに済ましておくんだな」


「それも魔眼で見た予言か?」



 イオンズの答えは口元だけの軽い笑みだった。

 黄鉄鉱は硫黄と鉄が大体半々で混じった化合物の鉱石で、現実では火打石になったり硫酸や鉄の原料になったり使い道が無い訳でもないです。

 まあ得られる利益に比べて掘るときは鉄より硬いのに簡単に風化して脆くなる、鉱毒事件とかのリスクがあまりにもヤバイなどの性質で厄介な石というのに変わりはありません。

 それに加えて加熱すると毒ガスをまき散らすので鍛冶屋が素材にすることは多分ないでしょう。

 そんな毒属性丸出しの性質に反して結晶は完全な立方体に近い美しさでインテリアとして人気があり、また鉱石ラジオにもなったりして普通に通販なんかで買う事ができます。

 なお火山大国日本ではマジでアホみたいな埋蔵量があるので資源としての利用は常に模索されているそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ