26. ベスティチャールな彼女 - 3
魔物との戦いで痛みには慣れているはずのアルテアだが、顔面を掴んで持ちあげられる握力には獣人だけあってなかなか人間離れしたヤバイ物を感じた。
それ以上に会話が通じない具合に困惑を感じているのだが。
「手前ェこの落とし前どうつけてくれんだ?ぁあン!?」
勇者としての経験があるお陰でアルテアには大した事はない恫喝なのだが、一般的な年齢通りの生き方をしてきたなら恐怖で股間が濡れていた可能性はある。
ほとんど直感的に「気迫で負けたら食われる」と判断した。
全力を出せるには程遠い調子の握力ではあるが、カラフルで変な生地の袖に包まれた獣人少女の腕を掴み返した。
「ぐぎぎぎ・・・ここは、私の村です!自分の村を自分で守って何が悪いんですかー!」
「ぬぐっ!」
「と言うかそんな魔物勝手に連れて来たのそっちでしょうがー!」
「・・・ンだとこの野郎!」
顔を締め上げる握力が一段増したのに、アルテアは自分の失言を呪った。
例え本当の事でも面と向かって糾弾したら反発されることはあるのだ。
その時、急に獣人娘の握力が弱まりアルテアは尻餅を突く形で落とされた。
見ると魔法少女の衣装からマナが光となって霧散しており、当の本人は力なく座り込み顔も俯かせていた。
服装は例の極彩色で珍妙なシロモノがリボンが解けるように消え、下からは一般的な冒険者の旅姿に近いものが現れた。
魔法少女ルックでは肌が露出していた部分が元の服装?では隠れているあたり、何らか魔法的に作られた衣装なのは間違いない。
そして。
「も・・・」
「・・・も?」
「申し訳ありませんでしたあああぁぁぁぁ~~~~~~~っ!!!」
ドゲザ。
東の方のとある島国で最大級の謝罪を示すための両膝を着け頭を下げるポーズが何故かこの大陸でも知られているのだが、実際に使われてるのをアルテアは初めて見た。
「今のは私であって私じゃないんですぅ~~~~!服のパワーでなんかハイになってただけなんです~~~!貴族様に助太刀いただいたのにこんな、こんだ失礼~~~~~~っ!」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「では順を追って聞いていきましょう。私はアルテアと言いますが、あなたの名前は?どこから来たんですか?」
「うぐっ・・・ユプリシア・・・ユプシーって、呼ばれます・・・灰色狼・・・獣人族の・・・氏族です」
「ここに来た目的は?」
「目的なんてありばぜぇん・・・ひっく・・・。何か、飛んだヒポグリフから振り落とされないようにしてて・・・こんだごどに・・・あ、でも」
「・・・でも?」
「旅の目的なら、人探しです」
つまり総合するとユプリシア、ユプシーと名乗った彼女は人探しの旅の途中ヒポグリフと戦闘になり、飛んで逃げようとしたところにしがみ付いて変な風に飛んで、偶々ここに落ちたと言う事になる。
なぜそこでしがみ付いた・・・ハイになってたからか。
神聖王国内で獣人の自治区があったが、貴族に反応していたから恐らく国外ではなくそこの出身なんだろうとも察せられた。
「ところで差し支えなければ教えてほしいのですがユプリシアさん、あなたがさっき着ていたのは野生魔法少女と呼ばれる恰好で間違いないでしょうか?」
「は・・・はい、ユプシーでいいです・・・恥ずかしい格好なのでその、あんまり思い出さないで頂けると、助かるのですが・・・あっいえこんな頼みをできる立場ではないですねすみませんすみません」
「(やっぱりアレ恥ずかしいのか)・・・話を続けていいでしょうかユプシーさん。さっきの戦いをコソコソと覗き見していたのは悪いとは思いますが、その時≪魔法の同時発動≫をしていたように見えたので」
その質問をされたと同時に、ユプシーのおどおどしていた様子が変わった。
変身中の激しい感じとも違い、妙に静かに肝の据わった構えになった。
「例え誰に尋ねられても決して答えられない事と言うのは、私たちにもあります。ご理解いただけると幸いです」
その迫力は、顔を掴まれて持ち上げられている時よりも強いものがあった。
門外不出の秘術の類であれば言えないのも当然だ。
「軽々しく聞いてしまった私に非があります。申し訳ない」
「いえ・・・教えるぐらいなら、その、い・・・いやらしい要求に応えるか命を捨てろって言われるぐらいの、その、事なので・・・アルテア様がお望みなら、その・・・」
「いっいきなり何を言い出すんですか!まるで私が下種野郎みたいじゃないですかそう言うのホントやめてくださいッ!」
頬を染め、潤んだ瞳でユプシーに顔を近づけられたアルテアは真っ赤になって必死に拒絶した。
ハッキリ言ってアルテアから見てユプシーはかわいい。
王都で銅勇者となった時もいきなりモテ出したが、さらに聖剣の勇者となった時には貴族からの縁談が恐ろしい勢いで殺到し出したものだ。
王権や教会でもってガードしていてなおその勢いで、監視を抜けて直接攻撃を仕掛けてくる中には間違いなくユプシー以上の美少女と呼べる者による、かなり露骨な性的な誘いさえもあった。
まあその全てでどうにか事なきを得たのだが、その時でさえ揺り動かなかったアルテアの中の心のどこかが激しく動揺している。
「・・・よかった。お優しいのですね、アルテア様は」
泉のほとりで月光を浴びて咲く一輪の花のような笑顔。
よく分からないがこのままここにいたら自分の中の何かが危ない、とアルテアは動揺を全力で隠しながら思った。
「あとベスティチャールの服に関しては、隠すほどの秘密はないです。私たち獣人族の女は男に比べて体格の分力が弱く、≪獣化≫も出来ない代わりに人族の魔法使い並みに魔力が多いんです。しかしその制御は種族的にお世辞にも上手くないので、それを補うためにご先祖様が作ったアーティファクトです」
「アーティファクト!?それこそ秘密では?」
アーティファクトとは現在に伝わっていない凄まじく高度な技術で作られた、強力極まる古代の魔道具の事だ。
それを巡る陰謀や戦争さえも珍しくない。
「いえ、奪おうにも奪えない能力として血と魂の中に組み込まれているので、知られたところでどうにもなりません。纏う事で魔力制御の補助や防御力向上と言った効果が得られ、使いこなすことによってその精度や維持できる時間も増していくのですが・・・副作用で、その・・・」
「・・・あー、あんな感じに・・・」
「そんな冷静さを欠いた状態で押し込まれていたので手詰まりに近かったのですが、アルテア様の援護で助かりました。強い力はなくとも知恵と勇気が武器になるとも教えられた思いです」
勇気がある者。
勇者と言う言葉は元来それを指すはずだが、いつから力ある者と言う側面だけが語られるようになったのか。
アルテアも今まで多くの人々から力を持つものとして扱われても、強い勇気の持ち主としては認識されては来なかった。
だからこそ、彼女の言葉が刺さった。
違う。
私には勇気なんかない。
自分がいかに臆病な人間なのか思い知ってどれ程も経っちゃいない。
まあそんなアルテアの葛藤を尻目にユプシーの独白が続くのだが。
「一方私はアレを人前で堂々と着こなす程度の勇気もなかなか出なくって・・・あの、野生魔法少女って呼ばれるのはあんな感じの派手なタイプだけで、私はもっとこう、落ち着いた感じのがよかったのに・・・けど能力で発現しちゃったらもう変えようがないし、でも村からこれが出るのって物凄いおめでたい事で、村を挙げてのお祝いになって・・・もう、恥ずかしいとか、ヒッグ、いえなぐっで・・・うえぇ・・・」
(この状態を母様や村の皆に見られたらどう言い訳しようか)と言う方向にアルテアの考えが移っていったその時、急にあたり一帯を押しつぶすような悪寒がした。
「・・・アルテア?私はあなたに多くの事を学んで欲しいと常々思っていますが、その中に幼気な女の子の泣かし方と言うのはありませんよ?」
すべてが手遅れだった。
戦闘の音を聞いて駆け付けた人々のその中心に、アルテアの母・ベルターナの姿があったのだ。
後の述懐によると、アルテアがこの日最も勇気を試されたのはこの後だったと言う。
尚、詳しい事は語られていない。
あとユプシーは何かベルターナの提案で客人として屋敷に滞在する事となった。
やっとアルテア君の母親の名前が出たけど当初の予定では数話で終わってたはずなので設定してなかったからだよ!
魔法少女投入は良くも悪くも物語の筋を破壊するね!
ストーリー導入をあんな形にしてなかったら枠まで破壊されてたろうなぁ・・・。




