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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
四. 冒険者達
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24. ベスティチャールな彼女

 カン、と軽い音と共に木剣が飛んで行った。

 石畳の上をカラカラと回って滑った様子を見て、弾き飛ばした側の人物が木剣を下ろして声をかけた。



「・・・やはり本調子には程遠いと言わざるを得ませんな」


「ええ、分かっています先生。今日は確認したかっただけです」


「傷がどの程度癒えたか、ですか?」


「もちろんそれもですが、今じゃないと多分分かりませんから」



 ―――剣と言うものがどれ程重い物なのか。


 何かの目的のために敵の命を奪う純粋な道具、鉄の塊が軽いわけはない。

 しかし少年は今までそれを知らずに生きてきた。


 溢れる才能の前では、剣とは何なのか等と考えずとも、振るえば敵が積んでいた羽毛か何かのように簡単に蹴散らされる物だったから。

 殆ど生まれつき使えた強力な魔法の数々もそうだ。

 それ故に戦いとは、彼にとって命の奪い合いではなく常に一方的な蹂躙に他ならず、敵の数と種類による違いは必要な作業の多寡程度の意味しかなかった。


 だから今この有様なのだ。

 相手の力を見誤り、先走った事をし、追い詰められて心が折れ、挙句卑怯な手に走り、最後には死に掛けると言う醜態を晒した。

 生きているのは助けに入ったゼタニスが強かったからに過ぎない。



 勇者アルテアは、未だ自分が戦いを知らなかったことを漸くにして知った。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




「アルテア、貴方は確かに人を守る勇者です。人よりも大きな力と、成すべき使命を持っています。けど・・・まだ子供なのです。市民ではこの年齢で働く子も珍しくはないけど、それでも全てを背負って戦う人間と言うのは大人だってそうはいない。忘れないで、本当に危ない時は大人を頼っていい事も、命を落とすぐらいなら逃げてもいいんだって事も」



 母は辛うじて生きて帰ったアルテアをそう諭し、抱き締めた。

 その言葉はアルテアに自身の弱さを教えた。

 戦えば死ぬかもしれない相手からは逃げたくて堪らない自分が確かにいることを自覚させた。

 瘴気を纏った飛竜の巨大で凶悪な(あぎと)をあれだけ夢に見て(うな)されても認められなかった無様な敗北が、ようやく受け入れられた。


 それでも、恐らくは絶対に逃げられない。

 聖剣を抜いたあの時右手に刻まれた神の紋章が、魔王と戦う宿命に自分を縛り付けているのが今ならハッキリと分かる。


『此の力が何の為に有るのか忘れるな』と。


 ならば、強くならなくてはいけない。

 でも暫くは剣を握るどころかベッドから起き上がる事も出来そうにない。

 魔法を試そうにも魔力を集めようとすると体に激痛が走り、魔法を使うという行為が実は存外体に負荷の掛かる事だと初めて実感した。

 魔法を覚えた者が最初の頃に躓くはずのハードルの存在を今になって知った、とも言える。


 では知識を手に入れよう。

 ベッドの上で鍛えられるものは頭の中身位しかない。

 幸いこの村には、幼い頃のアルテアに文字や基礎的な算術を教えてくれた元学者がいるし、母から伝えてもらい自分で頼めば再び教師役を引き受けてもらえるかもしれない。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 果たして元学者は、まるで待っていたといわんばかりに快く家庭教師を引き受けた。

 魔物に関する知識、魔法に関する基礎的な知識、歴史、魔王の伝承、一般的な薬草や食べられる物の見分け方など、最後の方には学者の領分を超えたので元冒険者という別な村人も授業の教師に加わってくれた。

 たまに生徒そっちのけで議論を始めるのは勘弁願いたかったが、兎に角運び込まれてから半年程経って日常生活程度に体を動かせるようになる頃には、そこそこの知識を得られたとアルテアは自負している。



 それにしてもこの村はやけに優秀な人物が多い、とアルテアは思った。


 王都で学者と言うのは相当なエリートであるし、幼い時に剣の手ほどきをされさっきの軽い打ち合いにも付き合ってくれた村人も、王都で見た多くの剣士や騎士と比べても相当な上位に入る腕だと言うのが今なら分かる。

 癒えて力を取り戻してしまったら勝負にはならなくなるのだろうが、それはそれで少し寂しい気もする。


 母を見初めたという高位の貴族が臣従代わりに寄越した人材なのかもしれないと、今のアルテアなら何となくは察しも付く。

 いずれ教えてくれるだろうから焦って聞くこともない。


 取り敢えずせっかくだから少し散歩してから帰ろう、と木剣を持ったままアルテアは歩き出した。

 どうせ手の痺れが取れなくてうまく力が入らずあまり役には立たないが、久しぶりにそれを握った感触は不快ではなかった。




 足の向くままに歩いていたら、ある思い出のある場所に出た。

 そこは、生まれて初めて魔物のオークと戦い、そして倒した場所だった。


 ここまでオークのような魔物が侵入してくるのは珍しいらしいが、あのオークを始め今まで倒した魔物たちにも「命」と「これまで」があったのか、とアルテアが思考の沼に嵌りかけていた時だった。



「・・・・・・・?」



 何か人の声が聞こえた気がした。

 いや、気のせいじゃない。

 いつの頃からかアルテアが得ていた魔法や魔物的な気配を感じる鋭敏な感覚が、その両方を感知していた。

 それは方向は分からないがこの場を目指し急接近して・・・



 ずどおおおおおおおおおおおおんんんんん!!



 轟音と共に、アルテアの目の前に土煙が上がった。

 上から何かが落下してきた!と判断するのには一瞬の時間も要らなかったが、今の状態で対応できるとは限らない。

 煙って見えない中、女性らしき叫び声と共に肉を殴る打撃音がした。

 ひとまずアルテアは、物陰に身を隠した。


 段々と煙が晴れ、そこにある景色が確認できるようになってきた。


 片方の影は、思った通り魔物だった。

 白い鷲の頭と翼に馬の下半身・・・ヒポグリフと呼ばれる飛行種だ。


 そしてそれと対峙する人影もまた奇妙だった。

 頭にある耳と尻の尻尾から獣人の女性であり、現在戦闘的な魔力を発していることは確かだが、その服装がなんとも奇抜な物だったのだ。


 赤を基調とした派手でどぎつい原色を配し、それでいて凝った造りのドレスのように目立つフリルや大きなリボン、そして要所要所にはやはりカラフルな魔石があしらわれていた。

 有体に言って戦いの衣装とは思えない、おかしい。



 そう言えば、とアルテアは元学者の授業の内容を思い出した。

 獣人族の女性の中には≪野生魔法少女ベスティアルウィッチガールスタイル≫と呼ばれる派手な服装を身に纏った戦士がいると言う事を。


 そしてこの呼び名は、一般に≪ベスティチャール≫と略されると言う事を。

 Bestial Witch Girl→Bestichirl

 そんな感じ。

 獣人族の戦士は男はキン○マン、女はプリ○ュア。

 ニンジャはいない、いいね?

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