22. 竜 - たった今生まれた戦士
剣を構え、竜に駆け寄り斬りかかるガメオ。
もはや妖精戦士から借りた剣技も余裕を持って防がれ、いなされ、避けられる。
『その程度か』と、竜が嘲りを込めた表情を見せた。
ガメオが剣の間合いの中にあって何か小さいものを竜に投げつけた。
「飛ばしてくる何か小さい物には警戒すべき効果がある」と学んでいた竜の反応は、大きいものだった。
だがたった今大げさな動作で避けたそれは、火が出たりするような魔法の卵などではなく、その辺で拾われたただの石ころだ。
フェイクに引っかかり体勢を崩し、更なる回避が困難な状態になった竜を≪雷弾≫が直撃した。
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!
『ギェッギャアアアオオオオオアアァァァァァァ!』
身を焼かれ飛び散る火花に包まれながらも苦し紛れに振るわれた鉤爪が、剣を握るガメオの右腕をザックリと切り裂き、骨も砕いた。
吹き飛ばされた剣を飛び退きながら拾い、距離をとるガメオ。
「いっっっっ痛ェなあこの野郎おおお!」
すぐさま最後のポーション小瓶を取り出して中身を飲み干すと、ズタズタだった腕はあっという間に完全に治った。
手を何度か握ったり肩を回したりして具合を確かめ、再びガメオの利き手に剣が握られた。
「おい、さっき最後の勝負っつったが・・・悪いな、ウソだ。だが今度こそ本当だ」
『ゴアアアア・・・!』
煙と共に肉の焦げる悪臭を放ちながら、竜が赤い瞳でガメオを睨みつけた。
仕込みは終わった、だが肝心のものが成功するのか分からない。
もう実戦を行いながら何度もやってすっかり慣れた集中により、ガメオは技を借りるために自分に重ねる幻影を呼び出した。
だがその幻影を自分に重ねるのは初めてだ。
何せ、それは人間の形をしていないのだから。
今まで使って来た借り物の技のどれとも違う低い構えを取りつつ、ガメオは最後の魔法の卵を地面に転がした。
そして突進のために駆け出した脚がその卵を踏み潰すと、風が巻き起こった。
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ガメオが最も得意とする攻撃は、ロングレンジから跳躍をするように大きく踏み込んでの、体重を乗せた必殺の突きだ。
最初にゴブリンを倒した時からそうだったのかも知れない。
妖精戦士達の技には、残念だがそれに似ている中でピンときた物が無かった。
しかし幾度となく命を脅かされたその攻撃は、何か自分にしっくりくるんじゃないかという気が薄っすらではあるがしていたのだ。
竜の突進。
それが、ガメオが自らに幻影を重ね再現していた技だった。
その時竜はこれまでのどれよりも疾く、どれよりも鋭く、そしてどれよりも重い突きが自分の首に刺さり、体全体を強烈に押されるのを感じた。
ガメオの全身は竜を再現して竜の体を押し込む自らの力にブチブチと悲鳴を上げ、服に血が滲んだ。
二つの咆哮が混じった。
一瞬置いて、すべてを吹き飛ばすような突風が少年の背後から届いた。
突きだけでは動かされるに至らなかった竜も、流石に二つが合わさった力には地面を咬む足がズルリと動いた。
だがそれだけだ。
これに耐えきれば、最早この小さい敵に為す術はない。
竜はそう思っていた。
不意に、体を支える両の足が地面との間に摩擦を無くすまでは。
≪雷弾≫で竜が痺れているその隙に、分からないようにガメオが≪滑油≫の卵を竜の背後の地面に投げていたのだ。
草地に置かれた重い鉄の塊でも、軽い力で押して動かせるほどに良く滑る魔法の油の威力は絶大である。
あっという間に風で押された一人と一頭はもつれながら吹き飛ばされ、花の門に吸い込まれるように飛び込んだ。
ゴロゴロと地面を勢いよく転がったガメオが数秒経って目を開いた時、そこには四方からの剣や槍、矢に貫かれたさっきまでの死闘の相手の姿があった。
『ガメオ―――よくやった』
ヴギルはそう短く、しかし噛み締めるように言葉を発した。
ガメオは何かを返そうとしたが、全身が痛くて声が上手い事出せない。
蹴られて死に掛けた時とはまた別の種類の苦痛だ。
『喋るな。どんな無茶をしたのか知らんが、今のお前は無理にポーションで治したら悪影響が残る程の状態だ。瘴気の浴び過ぎも軽くはない』
最後の突進の反動で内臓破裂の傷まで開いているのは、ポーションで治したばかりで時間も経っていない場所はどうしても脆くなってしまっているからだ。
さらに無理な回復を重ねるのなど、良い訳がない。
いつの間にか即席の担架が作られていた。
ガメオが動けなくなるような、こうなる事態も予想の内だったのだろう。
途中のキャンプ地ではザアレが泣きながらガメオの担架に抱きつこうとしたが、周りに止められた。
タックルが成功したらガメオは痛みでショック死していたかもしれない。
長い帰り道、タンカで揺られながらガメオは死闘を演じた相手である竜の事を考えていた。
全方位から妖精たちの武器で貫かれた最期の様子が、どうしても瞼の裏から消えてくれなかった。
(すまない・・・)
何故そう思ってしまったのか、ガメオ自身も分からなかった。
戦う中で何度もぶっ殺してやると思い、最後にはそれが成ったのに。
そんな事を考えていると、段々と意識が遠のいていった。
気絶状態のまま妖精郷に帰り、以前と同じく妖精の粉と薬湯での治療を受けたガメオが目を覚ましたのはそれから一月後の事だった。
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朝日を浴びて振るわれるその剣を、ザアレは綺麗だと思った。
技術としての洗練を重ねられた動作が美しくなるのは当たり前だが、彼女にとって大事なのはそこではなかった。
初めて会ったその日も、やはり綺麗だと思ったからだ。
よろよろの足取りでゴブリンから自分を救ってくれた時の剣は、技術がどうのを言うならどう考えても無様で酷い物だったとしか言えない。
それでも、綺麗だった。
多分その時にはもう、剣は彼自身と一体だったからだろう。
だからこそ怖くなる。
―――ああ、こんなんじゃダメだ。
アタシはいつだって最高の笑顔をキミにあげるために、ここにいるのに。
怖い。
怖いよ。
キミがいなくなっちゃうのが、こんなにも怖い。
ザアレは両手で自分の頬を張り嫌な考えを追い出すと、朝食の用意が出来た事を告げた。
この世の誰よりも強い戦士となった、一人の青年に。
究極の必殺魔法スリップですが、一部でネタになってるけどちゃんと使いこなした際の威力は「敵は死ぬ」だと思います。
TRPGというものが世に登場して最初期にはもうあった由緒正しさも忘れてはいけない。
追記点:ガメオ君がタンカで運ばれるほどの重傷になる理由がちょっと弱かったので補強しました。
この世界は回復魔法やポーションがそう気楽ではないようです。




