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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
三. 竜
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17. 竜 - 黒い翅

 神聖王国に生息する飛竜の営巣地は山脈の奥、比較的開けて安定した場所に作られることが多い。

 群れ単位で卵を産み育てるため、孵卵用の巣は主にその中央で守られるように設けられている。

 ただ現在、この巣の見るからにあからさまな異状として、全ての飛竜が昏睡状態というのがあった。



「卵泥棒達は今どこまで到着している?」


『予定通り、王都まで後三日の所までは行っているよ。飛竜たちを目覚めさせるには頃合いなんじゃないのかい?これ以上眠らせてると永久に起きないわ』


「そうだな・・・お前ら、マスクを装着しろ」



 眠った飛竜たちを見下ろす場所に何人か並んでいた黒ローブ姿の集団は、一斉に顔全体を覆う鳥のようなマスクを被った。

 流行り熱専門の旅医師の面によく似たものだ。

 マスクには姿隠しの魔法が掛けられていたのか、彼らの姿は揺れながら滲むように薄暗い曇天の中に融けて見えなくなった。

 そして彼等の中で唯一人マスクを被る指示に従わなかった女が、ふわりと舞い上がった。

 その背には、真っ黒い()()()()()()があった。



『行きなさい―――お前たちの愛し仔を奪った者を殺すのです。道を阻む者も殺すのです。その強大な力のままに、憎悪の命じるままに』



 円を描く飛翔から黒く輝く鱗粉が飛竜たちの頭上に降り注ぐと、飛竜が一頭ずつ目を覚まし丘が動くように巨体を起こしていった。

 それぞれに強力な瘴気を身に纏い、憎悪に狂った濁った瞳で。

 ただ元から体が弱いと思しき小さめの飛竜数頭は口と目から血を噴き出し、その場に再び倒れ動かなくなってしまった。

 最終的に残ったのは四頭だった。



『あ、卵泥棒は三人だからキリが悪いわね―――まあいいわ。お行きなさい』



 飛竜たちの上げた咆哮にその時、十(マイル)四方の全ての動物たちが動きを止めた。

 雄飛する翼たちは風を巻き上げ、すぐに空の彼方で黒い点になった。



「堕ちた妖精女王の力は凄まじいな・・・あの瘴気を浴びては、今の我々では魔族への転生など叶わずそのままスライムにでもなるのだろう。・・・ん?一体何をしているのだフォーリム?任務は終わった、撤収するぞ」


『いや、残っている卵の一個に多めに鱗粉掛かっちゃったみたいで、面白い反応があったんだよね。―――いい事思いついちゃった』



 堕ちた妖精女王と呼ばれたフォーリムは、長く白い髪とカラスアゲハのような黒い翅に共に玉虫色の光を反射させ、釣り目気味の眼の美しく冷たい顔を妖艶に歪ませた。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 妖精郷の女王メニャーン。

 魔王の復活の周期に合わせて選出され数十年、フェアリー族を平らかに束ねてきた。


 フェアリー族はそもそも自由気ままに生きる種族であるため、女王と言う役割も対外的な代表者と重要な決定、そして戦士たちの上役という程度の意味ぐらいしか平時はない。

 しかし魔王が世を乱す時代の訪れを控えた時期にはそれなりに言うことを聞かせる力が重要となり、その意味もあって満場一致で女王となった女性だ。

 ただしここ十年は世界樹の癒しに力を使い続け、現在は彼女自身が癒しを必要としていた。



『貴方が人族の客人ガメオですか。話は聞き及んでおりますよ』


「は・・・はじめまして」


『ふふ、緊張しなくともよいのです。妾も女王とは言っても、枝は枝、花は花であるように役割の一つに過ぎないのですから』



 王と名の付く相手に初めて会うガメオの緊張を察し、女王メニャーンは柔和な笑顔で解す言葉を掛けた。

 流れるような赤い髪と銀色のオオミズアオの翅には虹色に反射する光、女王だけに許される世界樹を象った紋章の入った衣。

 手を触れる事も憚られる高貴さと母のような包容力を兼ね備えた不思議な人だと言うのが、ガメオの印象だった。



『それで女王様、妖精郷の危機とは?竜が現れたとは、一体どういう事なのでしょうか』


『ヴギル、貴方は何時も性急だけど今は確かに急ぐべきね。竜が現れたのは―――新しく生まれた方の、(うろ)の領域です』



 その時、長老衆や戦士たちを集めた場に戦慄が走った。

 やはり完全に封じられてはいなかったのか、などそう言った内容のざわつきが聞こえてきた。

 ガメオの顔見せは会議のついで扱いだったのだが、彼だけは予備知識がないだけに何も理解していなかった。

 何も分からないガメオに対し、面倒見のいいランツェによる順を追った解説がなされた。


 妖精郷には元々フェアリーの国が三つ存在しそれぞれの女王に治められていたが、今は一つしかない。

 放棄された二つの国が、新しく生まれた虚の領域という訳だ。

 以前は花の門を通らず直接行き来できたのが、今は封印のために接続路を変えている。

 今は虚となったかつての国にも中ツ国への花の門があり各地に繋がっていたが、どさくさで門を閉ざすのに成功したのか不明だった。

 とは言え妖精郷である事に違いはなく外からの者が迷い込むのについて実質心配はいらず、今まで放置されていたという訳だ。



「へー、竜だったら迷い込む事もあるのかな」


『いえ、それはあり得ません。妖精郷は招かぬ限り生けとし生けるものに門を開かないからです。―――フェアリーを含む、妖精族以外には決して。そして現在はフェアリー以外の妖精も入れなくなっています』



 女王メニャーンの言葉に、今度は戦慄ではなく重苦しい空気に包まれた。

 見た目だけは若いが、声に年月を感じさせる気怠さを持った長老の一人が静寂の中にボソリと言葉を投げ入れた。



『そうなるともう、最初の心当たり通りに一つしか残らんの』


『間違いありません。それを為しうる存在など―――唯一人しかあり得ない』


『そして目下の問題はどうやって虚から引きずり出すか、ですね』


「え、虚に入って竜を倒すんじゃないの?」



 ヴギルの示した方針に、この場で唯一の外から来た人族であるガメオだけが抱いた疑問であった。

 疑問に答えたのはランツェだった。



『瘴気が濃いとオレタちフェアリーは調子を崩す、と言うのは知ってるな?戦士化しても耐性が強くなるだけで、その根本は変わらねえ。そしてあまりにも瘴気が濃いとどうにかなる以前にそもそもそこに入れねーんだ。というより、その空間では肉の概念が薄いフェアリー族は存在できねえ。上手くは言えないが()()()()()()()()()()()んだ。フェアリーにとってはそういう場所だからこそ≪虚≫なんて名前なのさ』


『加えて言うと、そこまでの瘴気だと普通の生き物でも確実に魔物化する。強い精神を持つ人族でさえも例外ではない。女王の眼だけが届くと言う事だ』


「・・・ちょっと待って。妖精も入れない人間も入れない、魔物だけが入れるところにいる竜をどうにかするって」



 続いての女王の言葉に、その場にいる全員が驚愕した。



『そこで貴方です―――ガメオ』

苦労してるのに話が進まないけど書いた順に出していきます


9/13 悩んだけど結局メニャーンの翅はオオミズアオにしました

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