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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
三. 竜
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16. 竜 - 妖精郷の女王

この連載が開始して一か月になるっぽいですね。

書き溜がない割にはいいペースではないでしょうか(自画自賛)

「右前方にゴブリン5、左前方ゴブリン3」



 魔剣の時間停止を解除したガメオは判断を口にした。

 使い方の難しい魔剣の力を試す一環で、茂みの敵を探るために時間を得られないかとやってみたのだ。

 ・・・が。



『惜しいな、左後方にオークも一匹いる。まー取り敢えず片付けるぜ』



 ランツェによる答え合わせでは正解は貰えなかったようだ。


 停止した時間では視線は動かせないが魂だけは動かせるために、一応360度全方位の確認だけは出来る。

 だが動いていない物を見付けるというのは存外難しい。

 完全に止まってしまうと多少の不自然な動きや音はもちろん、気配と言った物まで出なくなるのだ。

 魂だけ遠くに飛ばすような事でも出来れば千里眼的な能力として成立するかもしれないが、魔法の才能がゼロに近いガメオにはそんな芸当、土台無理である。


 所有者の魔力を使わないのと、眼前の危機に「落ち着いて時間をかけて確認し対策できる」と言うのは強力と言えば強力だが、存外使い方の難しい魔剣と言うほかない。


 また、既にガメオはオークとの一対一でも安定して勝てる程度には強くなっているが、剣術が向上したわけではない。

 毎日の訓練で戦闘勘や運動神経は日々研ぎ澄まされ、有り得ない量の妖精の粉を浴びた身体能力は鍛錬の効果を凄まじく受け十を少し越えた年齢にして拳で硬い岩に痕をスタンプできる程にまで上昇していた。

 ただ剣の技術だけが驚くほど伸びなかった。

 この高すぎるフィジカルと体力により、敢えてへとへとに疲れさせて体から無駄な力を抜き、自然な体の使い方を覚えさせるという訓練方法を取れないのも結構な問題だった。


 早い話が、今のガメオは素早く飛び掛かって力任せかつ雑に「剣で殴る」のが一番強いという言わばチンピラの喧嘩丸出しのスタイルなのだ。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 花の門から中ツ国に向かう(みち)は途中で幾条かに分かれており、その枝分かれの一つに≪(うろ)≫と呼ばれる領域に通じる結界で封じられた径がある。

 ここに入りしばらく行くと瘴気が漂ってきて、魔物が出てくるようになる。

 虚の手前は妖精戦士たちが比較的安全に実戦経験を積める場所として活用されているが、以前は虚の領域はここまで広くなかったとガメオは聞いている。


 ―――虚の領域の奥深く、どこからともなく入り込んだ黒い影が蠢きだしていた。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




『ガメオ遊んで―、ねー遊んでよー。むずかしーこととかいいからさー』


「うるせーお前ら!おれは真剣に悩んでんだよ!」



 妖精の子供たちが今日もガメオに構い、遊んでもらうために剣の修業を中断させようとあの手この手で妨害を企てていた。

 それを遠くから見ていたザアレは知っていた。

 なんだかんだで子供達には甘いガメオに対して、今日もその妨害の企みが成功するであろうことを。



『別に強くなんかなくたって、ガメオはガメオだと思うんだけどな』


『確かにその通りだ。―――我等フェアリー族はあるがままに在り生きる事を至上とし、また役割としている。だが人が人の世で何かを成そうとするなら、樹が歩き、魚が空を飛ぶようにあるがままではない何者かに成らねばならぬ』



 自分も構ってもらいたいと言うのを羽毛程度のプライドで隠したザアレの不平に、ヴギルがいつも通り真面目を極めた言葉で答えた。



『何かを成そうってさ―――そもそも、ガメオは何をしようとか思ってるの?』


『思ってはいまい―――今はな。何かあるとしても、自分から故郷と家族の全てを奪った物に対する漠然とした復讐心しかないだろう』



 今はただ、暗雲垂れ込めた空に石を投げて穴を開けようと言うのに似ている。

 だが彼から全てを奪った≪何か≫の最奥をいずれ知るときは必ず来る。

 そうなればガメオは止まらないし、止める事は絶対に出来ないだろう。

 訓練で相対した時、あの幼い身にして時折オウガをも凌駕する圧力と殺気を放てるように()()()()()()()少年の事だ。

 力及ばず出来ずに半ばで斃れるか、成し遂げるかの二つに一つだ。


 そして天に届き得る(きざはし)にして空を切り裂き得る(つよ)き刃を、少年は既に手にしてしまっている。

 故に、精霊に誓った通りガメオには強くなってもらわなければならない。



 その時、精霊たちがざわついたのを全ての妖精郷のフェアリーたちは感じ取った。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




『そう言えばガメオは未だ我等の女王に会った事は無かったな』


「それはそうなんだけどさ・・・何か雰囲気が、めでたい事なのか怖いことが起こるのか分からない感じなんだけど」



 妖精郷にある建物の中でも一際大きく豪華な造りの女王の居城の前に、数多くのフェアリーたちが集められていた。

 戦士たちの列に混じっているガメオの抱いた当然の疑問に答えたのは、ヴギルではなくランツェだった。



『そいつは決まってる。この感じは――もちろん両方だぜ』



 妖精の女王はここ十年以上、ある原因により傷付いてしまった世界樹を癒すのに専念し妖精たちの前にはほとんど姿を現さなかった。

 その世界樹の回復がひと段落し、後は放っておいても大体自然に治っていく見込みが出来て女王の体が空いたのがまずは目出度い事である。



『久しいですね、愛しい子らよ。無事の皆に再び相まみえる事が出来、嬉しく思います。まずは(わらわ)の世界樹の癒し手としての役割は完了し、一つの危機は去ったとここに宣言します』



 あたりは歓喜の声に包まれたが、少しの時間をおいて女王自らがそれを手で制した。

 そして恐ろしい事の方は、久しぶりにフェアリー族の前に出てきた女王自身の口から語られた。



『ですが皆も気付いているでしょう、精霊たちのざわつきを。世界樹は世界の危機でしたが、今新たにここ妖精郷に危機が迫っています。――――――瘴気に侵された竜が、現れました』

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