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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
三. 竜
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14. 竜 - 勇者の失敗

「被害報告。重傷者4名、軽傷者多数。死者は無し。重傷者は治療薬と魔法で治療中、四肢は問題なく繋がりますが自力歩行移動はしばらく困難との事です」


「分ったわ、重傷者は荷車に。・・・天候が不安定ね、飛竜から調査用の部位を取ったら素早く撤収よ。」



 シグナム隊は魔法隊と弓兵隊が飛竜を地面に縫い付け、前衛隊の抜剣突撃の波状攻撃により少ない被害での勝利を収めることに成功した。

 前衛として炎の聖剣の威力も確かめられたが、より少ない被害での勝利は出来なかったものかと早くも頭の中では検討に入りかけていた。



「いや、今は撤収作業に集中!」



 小手を付けた手で両の頬を張ると、パーンと意外と大きな音が響いた。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




「俺達の勝利だーーーーーーー!!!!!!!!」



 ウオオオ、と威勢のいい勝鬨があちこちから上がった。

 イオンズ隊もまた、飛竜を撃破するのに成功していた。


 こちらでは聖剣で増強された吹雪に味方の放った矢弾を混ぜたもので的確に嫌がらせをし、怒って降りてきたところに地魔法使い達による岩盤返しアッパーにより悶絶。

 そこへ獣人三兄弟による狂気の加重魔法肉弾落下攻撃など一斉攻撃が殺到、そこからはあっという間に片が付いた。

 勝利に沸く仲間たちの雰囲気を壊さぬよう、イオンズは一人呟いた。



「フム・・・そろそろかな」




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 ゼタニスに魔法遅延発動を習う中、アルテアは初めて知った事がある。


 例えば火系統の≪火球(ファイアボール)≫を遅延セットしている間は同じ火系統の如何なる魔法も使えず、これは遅延中はその系統の魔法を使っているのと同じ意味だからのようだ。

 魔法を専門とする職業には常識だが一般にはそうでもない知識として、「同系統の魔法の同時発動は出来ない」というのがある。

 だがそもそも同時発動自体が余程の技術と魔力量の余裕が無いと発動どころではなく、仮にできても実用レベルでの効果を出すのが極めて難しいのは有名で、ましてや剣で戦いながらとなると有り得ないレベルになる。

 だからこそ、アルテアはゼタニスの技術に驚愕したものだ。


 そして、基本系統とそれを含む複合系統は同時発動と言う観点ではなぜか「別系統」扱いとなる。

 雷系統には風も含んでいるが、ゼタニスは風刃と雷弾を遅延により同時に撃っていた。

 つまりあらゆる属性をその身に宿すアルテアは、手札の多さと言う点で遅延発動についても圧倒的なアドバンテージを持つ事になる。




「≪炎壁(フレイムウォール)≫!」



 アルテアの前に巨大な壁の形をした炎が生成され飛竜の放つ極低温のブレスを防ぎ、()()に土の壁がせりあがって飛竜の突撃を防いだ。

 ゼタニスの予想通り、瘴気を纏う飛竜はブレスを使用できるようになっていたのだが、遅延発動した土壁が轟音とともに飛び散らせる土煙にアルテアは遅延という技術の手応えを感じていた。


 遅延発動のメリットは、普通に魔法二つの同時発動を試みる場合術集中力が単純に二倍必要になる所を、普通の魔法準備二回として分ける事ができ負荷が大幅に軽減される点だ。

 勇者の才能をもってしても同時発動はひとまず諦めていた所だったのが、思わぬ別角度のアプローチから実質可能になったのである。


 雷撃雨が飛竜の足を止め、そこに火球が命中し巨大な炎を作り出した。

 赤い光に照らされ憎悪の水位が増した瞳が、改めて高くからアルテアを睨んだ。



(・・・いける!)



 巨体の飛竜は最高速度こそ速いが小回りが利かず、一撃が重い攻撃も手数は多くはない。

 攻撃・防御とも瞬間的な手数を2~3倍に出来る遅延発動は、この戦いに於いて圧倒的に有効な手段となっていた。

 一度設定した魔法はその時間、その場所、その強度、その角度で必ず発動してしまうため高度な予測が必要と言うデメリットはあるものの、的が大きい敵と神より授かった勇者の眼がその予測をある程度は可能としていたのだ。

 こちらへの攻撃を防ぎ、小さい飛竜と共に卵を追いに行こうという気配を見せたら妨害するというのが完全に先手を取って出来ている。



「けど・・・思ったより、きついなッ!」



 今まで経験したことがないペースで体内の魔力が減っているのをアルテアは感じていた。

 魔力の貯蓄量、大気からマナを取り込む能力共に規格外だとしてもそれを上回る消費をしていればいずれは底をつく。

 また集中力も同時発動ほどではないにしろ必要で、十発に一発ぐらいの頻度で魔法の発動の仕損じが出てきた。

 その度に全力ダッシュで爪や牙、凍てつく息吹を躱さねばならず、体力が削られるうえに有利だったポジションも失う事になる。


 飛竜の鼻先に閃光を炸裂させながらも、アルテアはジリ貧なのがわかっていた。

 そこで、何かが心の中で囁いた。



(・・・この飛竜、自分だけで倒してしまってもいいんじゃないか?)


 勇者の眼が見る敵飛竜の魔力量。

 今まで確認した自分自身の魔法の威力。

 遅延発動で魔法の威力が落ちない事も分かっている。


 ならば、やれる。


(魔力を手加減しないで込めた大きな魔法を数発同時に当てれば、あの飛竜なら一度で沈める事が出来るはずだ!)



 ―――アルテアは当然のことに思い至らなかった。


 獣は人よりは賢くないが、決して何も学ばぬほど愚かではない。

 それは冒険者でも騎士でも兵士でも、魔境に足を踏み入れる生き方を選んだ人間ならば一年も生き延びれば強制的に学んでいる事だ。

 それをアルテアは学んでこなかった。

 幼いゆえに学ぶ時間もなく、才能ゆえに学ぶ必要もなかった。

 人に近い姿で、粗末とは言え道具を使い社会を作る知能があるだけの鬼種の魔物でさえも、アルテアにとっては愚かで邪悪なただの動く的だった。


 そして竜は、大抵の獣よりも賢いのである。

 時には人間に匹敵するほどに。



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



 ―――厄介な小さきものが行動を変えてきた。

 大きな強い攻撃が無くなり、小さく早い攻撃のみ使うようになった。

 余裕が無くなった?いや違う。

 何かを狙い、その準備をしているのだろう。

 いいだろう。

 敢えて乗り、正面から噛み砕いてやろう。

 その時が最後だ。



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 雷魔法≪雷爆≫。

 氷結魔法≪大氷剣≫。

 空間魔法≪空裂≫。

 火魔法≪焼熱線≫。


 そのどれもが、アルテアにとっても危険すぎて今まで使いどころが無かった破壊と殺戮のための魔法だ。

 放たれたそれらが完全に重ね合わせのタイミングで、ただ一頭の飛竜を屠るためだけに襲い掛かった。

 爆発に続く目も空けられぬ暴風、その中心で荒れ狂うエネルギーは如何程か。


 ―――――――だが。



『ゴアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!』


「うぐふぅっッッがぁ!?」



 一際強い瘴気と魔力を漲らせ、爆炎の中から黒い首が高速で延びてきた。

 咄嗟の防御姿勢も圧倒的質量と速力には敵わず、腹部に衝撃を感じたと思ったアルテアは次の瞬間には遥か高い所までかち上げられていた。

 魔法による防御も、魔力がほぼ空になった間隙であったために不可能だった。

 内臓を痛めたのか口からは赤い水滴も舞っていた。



 幼い勇者は、知識としては知ってはいても本当の意味では知らなかった。

 魔法耐性は精神力の影響を受け、時には本来なら耐え切れない威力も防げる程に飛躍的・爆発的に高まり得ると言う事を。

 死に晒された時の、真の戦士の集中力を。

 それ故に、勇者の眼で見た情報のみに囚われた。


 代償は、飛竜の隠していた切り札だった。

 青く輝く光線のような、収束性の極めて高い極低温の息吹(ブレス)だ。

 空中で身動きの取れないアルテアは、聖剣を媒体として辛うじて火球を放った。

 言うまでもなく防ぎきれず、刹那の後には全身が青い光線に呑まれた。



 そのまま為す術なく落下したアルテアは、剣を持つ右手と頭を残して全身の大部分が凍り付き、胴体は凍ったところが真っ二つを何とか避けた程度のレベルで割れていた。

 ほとんど本能的に空気の防御膜で全身を覆っていなかったら落下の衝撃で砕け散っていたであろう。



 アルテアはこの時、生まれて初めて自らに迫る死に恐怖した。

・俺設定ポロリのコーナー

魔法の基本系統(いわゆる属性)は、必ずしも複合系統より弱いわけじゃないです。

むしろ複合は尖りすぎてて使いにくい場合が多いです。


そういえば何の説明もなく出したけどこの世界で普通に獣人はいます。

やってることがキ○肉マンとか魁!○塾だけど。

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