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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
七. 蜃気楼幻都
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104. 鷹と梟

「久しいな、ミューン。いや今はミュールソーか」



 実年齢以上に老けて見える一方猛禽の鋭さを眼光に持つ男は、予想外の来訪者に向けてそう挨拶した。



「こんな状況ですがお変わりなく、ガルデルダ様。私が居た頃と同じ抜け穴が機能していて幸いでした。こちらが協力者の・・・」


「お初にお目りかかりますガルデルダ殿下。銅勇者のプシールと申します」



 奥に続く部屋の前には冒険者風の戦士が門番のように立っていた。

 表向き王都で冒険者活動をしていたガルデルダの配下が何人もおり、異変が起こる際に王族や重要な大臣を救出しここまで連れてきたのだ。

 彼等は奥にある居住スペースで過ごしており、こう言った事態の専門家に最も近いガルデルダに大人しく従っているようだ。

 半年は籠れる仕組み、食料計算にはなっているが・・・。



「そこまで籠城していたら手遅れになるでしょうな。何が起こってどうなるのかは見当もつきませんが」


「何にせよ、アルテアとシグナムがお主と合流できたのは幸いであったよ」



 そこでガルデルダは一度、息をついた。



「王都をこの有様に変えたのは・・・オルミスロだ」


「彼奴でしたか!妙な男とは思っておりましたが・・・しかし王宮にありながら、貴方様程の人が気付かぬとは」


「全く、己の節穴振りには呆れるばかりだ。王宮内に魔王派のシンパが紛れるのは気付いておったが・・・今にして思えば平民が功績を上げて地位を手に入れた目立つ経歴の筈が、奴自身の印象が薄すぎる。普段からその手の術を纏っていたのかも知れぬ」



 そして、今更そんな推理に何の意味もない。

 話はこの後のプランに移った。



「敵の本拠地あるいは最重要の場所は大聖堂です。そこを勇者様が叩くにあたり懸念なのがガルデルダ様を含む王族、貴族や大臣方の行方でした。人質に取られていると厄介ですので。そこでこれよりプシール殿と共に王城地下牢に赴き、囚われていると思しき王都住まいの貴族の方々を確保、或いは()()。しかる後に≪信号弾≫にてアルテア様に合図を送る、と言う手筈になっています。」



 ここでの確認、と言うのはそこに居るか居ないかだけではなく、命の有無、または例え生きていてもどうにもならない状態かどうかを、という意味も言外に含んでいる。


 また大聖堂が敵の本拠地か何かであるというのにも、それなりに根拠がある。

 ただ単に警備が厳しいのみならず、そこを通じて神聖王国中にネットワークを広げる街道結界が潰されておらず健在なのだ。

 ホビットの血を引くミュールソーの目には、そこに通常とは違うエネルギーの流れが加わっているのが見えていた。

 大聖堂から外に広がるのではなく、同じ回路を通じて王都中から魔力のような何らかの力を集めているようなのだ。

 恐らくは、人の精神エネルギー。

 そのために敢えて街道結界を潰さず一部を乗っ取って使っているのだろう。


 そして精神エネルギーを収集している線は、王城の地下にも繋がる気配がある。



「・・・散々人の手を焼かせたらしい貴族の嫡男の教育係になった程度では衰えぬようだな“鷹の目(ホークアイ)”」


「今の主人は見どころも導き甲斐もある方ですのでね。鈍る暇はありません」




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 王城地下への通路は、当然ながら警備兵が巡回し守っていた。

 と言っても彼等自身は誰の命令でやっているとか、そう言う意識すらも無いかもしれない。

 天帝とやらにそう命じられている事になっている可能性もある。

 犯人のオルミスロにとってはそれほど長期間誤魔化す必要もなく、細部が適当と言う事もあり得る。 


 その全てが、侵入者の二人組にはどうでもいい事だった。


 小さな呻き声だけ上げて、装飾の入った鎧の兵隊二人が倒れた。

「恨むなよ」と言いながら、≪睡眠≫の魔法で兵士を纏めて昏倒させた侵入者の一人が、そのまま慣れた手つきで縄で縛った。

 そして、兵士の気を引く役目をしたもう一人の侵入者が物陰に纏めて引きずった。



「使い魔で確認出来たのはここまで、でしたかな」


「ええ。しかしここを通らないと地下牢には行けません」



 ミュールソーとプシールの前には、明らかに後から付け足した魔法仕掛けの扉。

 そして街道結界中心たる大聖堂に向かう魔力の線はこの先まで伸びている。

 厳重な扉に対し、ミュールソーは攻撃魔法で強引な突破を考えたがプシールはそれを制し、先程取ってきた剣を抜いた。



「同じ強引には違いませんが、幾分スムーズだと思います。少しお下がりを」



 専門でないにしろ、正式な訓練を受けた正確さのある剣閃。

 ヒュン、という風切り音と共に扉の表面に切っ先が触れるか触れないかぐらいで通り抜けると、扉の表面に術式が浮かび上がった。

 魔法で鍵をかける術式だ、とミュールソーが思った次の瞬間、それが先程プシールが振るった剣の軌道に沿って静かに「切れた」。



「!」


「余波を最小限に魔法の術式を断つ剣『梟の爪(アウルタロン)』・・・試作品でもこの程度には十分なようですね」



 真っ二つになった術式が消えるとともに扉が少し開いた。

 元々それ以外に鍵も掛かっておらず、立て付けもいい加減だったようだ。


 扉の先は王城らしき豪華さよりも質素さが勝る空間となり、地下へと降りる階段が設けてあった。

 そこから先は剥き出しの石組みで、寸毫の飾り気も必要ない空間である事を言葉もないまま雄弁に物語っていた。

 しかし、本来居るべき看守がどこにも見当たらない。



 代わりにやや開けた空間の中心に居座っていたのは、一体の神装兵。



 他の機体と一目でわかる違いは三つ。

 まず両腕の肘から先が人のような手ではなく、恐らくは武器と思しき何かに置き換わっていた点だ。

 そして腰から下が二足歩行ではなく、蜘蛛を四本脚にしたような形状である。

 最後に、背中に背嚢の様に取り付けていた人を狂わせる霧の装置が無い。

 まず間違いなく純粋に戦闘用に仕立てたものだ。


 魔物とは違い発声器官を持たぬ機械の体は、招かざる客を見て取ったのとほぼ同時に威嚇の声も上げず突撃を敢行した。



「ぬ、これは・・・!右腕の剣は電撃を纏う、受けてはなりません!左腕の筒からは不可視の高速の飛び道具を射ち出します、留まらず動き的を絞らせぬよう!」


「ッ、わかりました!」




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




「これで終いだーッ!」



 梟の爪(アウルタロン)の切っ先が神装兵の頭部を貫くと同時に術式崩壊を示す魔力のスパークが一瞬走り、金属の巨体は一度ビクンと痙攣した後完全に動かなくなった。

 いかに梟の爪(アウルタロン)でもある程度以上無理矢理術を破壊した場合、それなりに派手な事にはなるのだ。

 戦闘開始から三分足らずであった。



「見事です・・・しかし、何の疑いもなく私の言葉を聞くとは」



 ガルデルダがミュールソーを呼んだ異名“鷹の目(ホークアイ)”は、直属の部下だった頃に発揮した能力に起因するものだ。

 ホビットの血筋が薄くはあるが入っているため旧い時代の知識は初見でも何となく分かり、そこに彼自身の経験が合わさる事で魔物や魔法に自然、古代文明などに対し恐るべき看破力を発揮するのだ。

 逆に最近生まれたような概念などには発揮されないが、その場合もその事実自体が有用な情報ではある。


 そして神装兵の様な古代有人ゴーレムは得意分野もいい所である。



「・・・似たような奴と、共に戦った事があります。それに敵はともかく、味方の力を疑うのはアホらしいという状況にも意外と遭遇するもので」



 息を整えつつプシールは答えた。

 火力はなくとも的確な魔法で妨害や足止めをし、梟の爪(アウルタロン)の一撃で手足の機能を一本一本削いで行き最後に止め。

 ミュールソーの都度の助言が無ければ、これ程アッサリとは片付かなかっただろう。



「私と同じ事を出来る方が?・・・いえ、今は急ぎましょう。梟の爪(アウルタロン)はまだ問題なく使えますかな?」


「流石に刃は欠けましたが、術破りに支障はありません」



 最後の扉は、神装兵と戦った空間のすぐ後ろだった。



 重く軋む音と共に、二人の鼻を溜まりに溜まった悪臭が付いた。

 次いで暗闇の中から漏れ聞こえる呻き。


 ミュールソーが明かりを点けると、室内の様子が明らかになった。


 薄汚れてはいるが服装から貴族と分かる人々が力ない様子で、目算でおよそ百人ほどが幾つもの牢に分けて入れられていた。

 そして牢の外には、明らかに凄惨な殺人の場となった事を示す痕。

 囚人の何人かを残酷に殺害する様を見せ他の者の心をへし折る、そう言った鬼畜の所業の痕跡である事がミュールソーには一目で分かってしまった。


 後から入ったプシールに目配せし、地面を流れる力の線を梟の爪(アウルタロン)で切断。

 術式の効力が消滅し精神力の流出が止まると、牢の中の貴族の何人かの目に僅かに光が戻ったように見えた。



 恐怖や絶望を効率よく絞り取るために地下牢を使ったのかも知れないが、それにしても妙な物を老練な元王付きの隠密は感じずにはいられない。

 貴族たちを地下牢に放り込んだのはともかく、その扱いは雑の一言だ。

 精神エネルギーを生み出すために恐ろしい目に遭わせるのにしても、王都全体と比べたら誤差程度の差でしかないだろう。

 態々やっているが、大した意味はない。

 存在自体が邪魔であるなら殺した方が確実だ。

 そして仮にオルミスロの目的にとって何らか大きな意味があるとすれば、ここまで警備が念の為程度のザルである事の説明がつかない。


 嘗ての主君ガルデルダの言葉通り、オルミスロは印象の薄い男だ。

 そつのない対応、受け答えから問題の感じられない人格。

 それは同時に、言動が発する人間性も薄いという事でもある。


 だがこの貴族への仕打ちに、何か人間臭さの様なものを感じるのだ。

 貴族と言う存在に対する何らかの恨みがあり必要もないけどこの機についでに意趣返ししたかのような、そんな幼稚な感情を読み取れる。

 しかしオルミスロの明らかにしている経歴に、それに繋がる様な何らか物は無いはずだ。


 ・・・いや、今はそれを考える時ではない。

 そう自らに言い聞かせて思索から戻った男は、すべき事の実行に移った。



「聖角魔法騎士団副団長のミュールソーであります。これより聖剣の勇者による王都奪還の作戦が開始されます。皆様は安全のために事が済むまで今しばらく此処に留まって頂きます。不便でしょうが、皆様の命は我等二人で必ずお守りいたします」



 そう言ったミュールソーの右手に、光の魔力が集中した。

 発動した≪信号弾≫は石の天井をすり抜けて飛び上がり、王城の上空で閃光と共に大きな魔力の波を発生させた。

 今回地下を守っていたカスタム神装兵は、ぶっちゃけキ○ーマシンです

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